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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
天才の弟と復興の街 ~弟は街に行ってもやっぱり天才だった編~
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フランス料理っぽい食事

「ちょ、なに握ってるんですか。放してください」


「いや、この魔法暖かいな。手がかじかんでたから凄く心地い。もう少しこうしててくれよ」


 フロックさんの大きな手が私の手を包みこんでいる。


――背は低いのに、無駄に手だけは大きいの……、なんかムカつく。って、こんなに握っていたら手汗が溢れてくる。さすがに恥ずかしい。


「ふ、フロックさん。そんなに握られると、手汗が……」


「手汗? そんなもの気にするな。別に汗くらい、誰でも掻くだろ」


「そう言う問題じゃなくて……。はぁ、何言っても意味ないか。もういいです。気が済むまで握っていればいいんじゃないですか」


「そうか、なら。この暖かい手を頬に……」


「ふっ!」


『パンッ!』


 頬と掌が触れ合い、快音が鳴った。


「いっつ!」


 私はフロックさんの頬に両手で挟み高揚に叩く。


 私をカイロ替わりにするなんて、そこまで許した覚えはない。


 フロックさんに手を放して貰えたので、私は家の中に入る。


「さ、フロックさんも家の中に入ってください。カイリさんはもう、いますから」


「ちょ、体がかじかんで動けないんだが……」


 フロックさんはプルプルと震えながら私の方を向く。


「自力で何とかしてください。Sランク冒険者なら、それくらいどうとでもなりますよね」


「む、無茶言うなよ……」


 私は扉を開けて中に入ろうとする。だが、私の目の前には大きく立ちはだかる強大な悪魔がいた。


「キララ……。お客さんに何失礼な態度をとっているのかしら?」


「お、お母さん……。こ、これは、違くて、そ、その……」


「今にも凍えそうなのに何もせず放っておく人がありますか!」


「ご、ごめんなさい。すぐに家の中に入れますから! どうかご勘弁を!」


 私はお母さんの大きな雷が落ちる前にフロックさんに肩を貸して家の中に入れた。すぐに毛布を貸し、温かい牛乳を飲ませる。


「はぁ~。死ぬかと思ったぜ……。それにしても、この牛乳っていうモークルの乳は温めてもあり得ないほどうまいんだな」


 フロックさんは椅子に座ってもらい、縮こまっている。その姿だけ見ると中学生高校生くらいに見える。とても二〇歳の大人には見えない。大剣は家の角に置かれ、何か寂しそうだ。


「温めて真の力を見せるって感じですね。おかわりが欲しかったらいくらでも言ってください。あ、飲み過ぎるとお腹が緩くなるので気をつけてくださいね」


「なら、もう一杯貰おうかな。夕食前にあまり腹を膨らませるのも悪いだろ」


「分かりました。ではもう一杯注ぎますね」


 私は小鍋で熱した牛乳をフロックさんの持っている木のコップに入れた。


 すると白い湯気が立ち昇り、私のところにも甘くて良い香りが漂ってくる。


「お母さん。カイリさんはどこにいるの?」


「カイリさんって、あのカッコいい人かしら?」


「うん。鎧を着てた、いけ好かないイケメンの人」


「あの人なら、ライトの部屋に行ったわよ。色々見せてほしいと言われたみたいね」


「へぇ~ライトの部屋に行ったのか。まぁ、くつろいでるのならいいや」


 私はお母さんと夕食の準備に取り掛かる。


「あのあの。フロックさんはどうやって強くなったんですか! 私ももっと強くなりたいんです!」


 シャインがフロックさんの前に立ち、眼を輝かせながら聞いていた。


「俺はどうしてもぶっ殺したい存在がいたから強くなったんだ。だから、シャインみたいな奴には向かない方法だがいいのか?」


「はい。強くなるには色々な経験が必要だってライトから聞きました。私もいっぱい色んな経験を積んでもっと強くなりたいんです。なので参考程度に聴かせてください!」


 シャインは眼をさらに輝かせ、フロックさんに近づき教えを乞う。


「わ、分かった。と言うか近い。もっと離れろ。息苦しいだろ」


「あ、すみません。私、人との距離感を掴むのが苦手で……」


 シャインは身を引き、苦笑いをしていた。


「そうか。まぁ、天才にも欠点はあるよな」


「あの、私は天才じゃないですよ。私は努力してここまで強くなったんです! 天才の一言で片づけないでください!」


「その年で努力している時点で天才と言いたいところだが……、まぁ、いいだろ」


 フロックさんはシャインの努力論を理解し、共感していた。その後、フロックさんはシャインに自分のしてきた修行や鍛錬などを教えていた。


「なるほどなるほど……。剣の師匠にみっちり鍛えられたと……」


「そうだ。俺の動きには戦いの基礎が全部叩き込まれてる。応用は基礎が出来ていないと使えない。だから基礎を馬鹿みたいに固めろ」


「基礎ですか……」


「どれだけ強大な敵が現れても基礎さえしっかりしていれば簡単には崩されない。つまらない鍛錬になるかもしれないが、走り込み、身体の鍛錬、素振り、何もかもが今後の強さに繋がる。だから基礎を徹底的にやり込む。これが俺の師匠から教えてもらった奥義だ。強くなるために近道はない」


「基礎を固める。じゃあ、私のやってきた鍛錬は無駄じゃないんですね!」


「走ったら走った分だけ強くなるからな。努力は止めたらそこで成長が止まる。努力した分だけ成長し続けるんだ。成長の速度は一日に小指の爪も動かないかもしれない。だが、確実に進んでいる。それさえ分かっていれば努力できるだろ」


「はい。頑張ります!」


「だが、努力しすぎて何も食わないでいると俺みたいになるからな。気をつけろよ」


 フロックさんは自分の失敗も包み隠さず教えていた。そこが潔くてちょっとカッコいい。


 私とお母さんは七人分の食事を作っていた。いつも同じ料理なのだが、今日は一工夫も二工夫も加えてしまうため、いつもと全く違う料理になるだろう。


 お母さんはビーの子が入ったスープを作っている。山から取ってきた山菜やキノコが入っており、私の買ってきた胡椒(ミグルム)を少し振りかけて味の足しにしている。


 このままでは透明なスープなので、私は牛乳パックを手に取り一回し、二回し、三回しくらい鍋に牛乳を回し入れた。すると透明だったスープが白濁し、薄いシチューのようになる。


 私はシチュースープに牛乳瓶一本分の生クリームを入れた。そこにバターを五○グラムほど追加した。


 するとシチュースープに多少とろみがつき、飲みやすそうになっている。


 そのシチュースープに売店でお母さんが買ってきた小麦粉を少々入れながらかき混ぜていくと、さらにとろみが出てきた。この時点で小麦粉を入れるのをいったん止め、火をしっかりと通す。


「よし、スープは完成した。ソウルがあるともっと美味しくなると思うけど、自然のシチューって感じで飲みやすいからいいや。お母さんも味見してみて」


「え、ええ。分かったわ」


 私は木製のお玉で小皿に少量のスープを入れ、お母さんに飲んでもらう。


『ズズ……』


 お母さんは小皿に盛られたスープを一気に飲み干す。


「どうかな。私の作った生クリームの味、ちゃんと感じる?」


「ええ……。とても美味しいわ。凄いクリーミーなスープになった。こんなの食べた覚えないわよ」


 お母さんの表情はとても優しかった。心が解れているような表情で、口角が自然に上がっている。


「よかった。じゃあ、あとはパンを焼かないとね」


 私は黒パンを取り出し、フランスパンのように斜めに切っていく。


 フランスパンと黒パンの硬さは丁度同じくらいで、この形が一番しっくりくるのだ。


 私は切った黒パンを『(ヒート)』で温めたあと『ファイア』で表面をカリっと焼き上げた。


 黒パンはすでに黒小麦のせいで焼けすぎの印である焦げが分かりにくいのだが、少し焼くとカラメルのような茶色い部分が出てくるので焼き上がりを見極めるのは難しくない。


「よし。パンも終わり。あとはチーズと干し肉を出して、お酒のつまみにしてもらおう」


 私はフランス料理に近い料理を作りたかった。出来たのはシチューとパン、葡萄酒にチーズと干し肉と言った少し豪華な食事だった。フランス料理と言われたらそう見えるかもしれないくらいの出来栄えに感動する。


 少し前までの私達からは考えられない料理の数だった。だが、野菜と肉がほとんどない。加えて調味料も胡椒(ミグルム)しかないのでパッとしない味になっている。もう、生クリームとバターがどれだけ頑張ってくれるかと言った料理でしかなかった。


 私はお父さんが買ってきた葡萄酒をベスパに作ってもらったワイングラスに似た木製コップに注いでテーブルに置く。

 おまけ。母視点。

 娘がまたとんでもない物を作ってしまった。


 モークルの乳からすでにチーズと呼ばれる固形物を作り出し、村で大盛況となっている中、チーズとはまた違った固形物を作り出していた。加えて液体も……。


 私は得体のしれない食べ物を口にする行為にとても抵抗がある。


 娘に試飲を頼まれた時は期待と不安でいっぱいだった。だが口に含んだ瞬間、不安などどこかに飛んで行き、口の中が幸せでいっぱいになった。


 スープがモークルの乳だけの時よりもさらに甘くなり、香辛料のミグルムによって舌に刺激が伝わり、美味しいと感じれる。キノコのうま味と山菜の綺麗な色、ビーの子による食べ応え、小皿に盛られたスープを飲んだだけで、大皿に盛りつけてスプーンで口いっぱいに掻き込みたくなる美味しさだった。


 やっぱり私の娘は天才すぎるわね……。いったいどこまでやる気かしら。

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