相手を思いやる繊細な心がない人
「二人とも、今回は私も手伝いますけど、今度からは人の邪魔にならない所でしてくださいね」
「お姉ちゃん……。うん、そうするよ。だから、掃除を早く終わらせて~」
「もう、調子がいいんだから」
シャインは掃除があまり好きではない。こまごまとした作業が苦手なのだ。なので、いつも力仕事をお願いしている。そんなシャインに掃除をさせた私も悪かった。もう少し範囲を狭めてやる気を起こさせる方がよかったかも……。
「じゃ、さっさと掃除をやっちゃいますか」
――ディア。聞こえる?
「はい。聞こえますよ。何か御用ですか」
――街の広場に数匹のブラットディアを呼んでくれる。掃除をしないといけないの。
「分かりました。私も行きます!」
数秒後。黒い光沢の体を輝かせているディアは私の足下にやってきた。
「お待たせしました。キララ女王様!」
――他のブラットディア達はどこにるの?
「今は身を隠しております」
――そう。なら、ここら一帯の掃除をお願い。なるべく綺麗に掃除してね。
「分かりました」
ディアは物凄い速度で動き始めた。それと共に他のブラットディア達も動き出し、広場がみるみる綺麗になっていく。超小型のお掃除ロボットと言ったらわかりやすいか。でも、壁とかも掃除出来ちゃうからロボットより高性能なのでは、時間もかからないし……。
ディアが掃除をし始めてから八秒後、砂埃で汚れた建物や椅子などが光を放つほど綺麗になった。
――ディア、掃除し終わったら、各自解散で。
「分かりました」
掃除をしていたブラットディア達は村の暗闇に消えていく。
「うぁ……。凄い。お姉ちゃんが掃除を一瞬で終わらせちゃったよ~。お姉ちゃんはやっぱり凄いね!」
シャインは曇りなき瞳を輝かせて私を見ていた。私が掃除したわけではないので少し複雑な気持ちだ。だが、シャインに凄いと言われるのは悪くない。
「キララ、あんまり甘やかすのは子供のためにならないぞ。苦手も克服しないと立派な大人になれん」
「フロックさんだって何か苦手のことがあるんじゃないですか?」
「なに……? 俺の苦手なこと。んー、勉強だろうな」
「それを克服したりする気はありますか?」
「克服できないことはするもんじゃないってことだ」
「何ですかそれ……。はぁ~、フロックさん。説教するなら自分がやってないと説得力に欠けるんですよ。苦手なことがあっても大人になれないとかそんなことありませんから。シャインを縛るような言い方はやめてください」
「な、何かすまん……」
「お姉ちゃん。フロックさんは悪くないよ。私が掃除苦手なのはほんとだし。ちょっとくらい克服したいって思ってるから」
「え……。そ、そうなんだ。私も早とちりしちゃったのか。そうなると、私も謝らないといけませんね。フロックさん、すみません。善意で言ってくれていたのに否定してしまいました。反省しています」
「キララって、ほんと切り替えが早いよな。子供じゃないみたいだ」
「な、なに言ってるんですか。私はまだピチピチの一〇歳ですよ。一〇歳。フロックさんとは一〇歳も歳が離れているんです。どう考えても子供ですよね。ね!」
私は威圧的に押す。中身は子供ではなく成人していると悟られるわけにはいかない。
「そ、そうだな。どう考えても子供だよな。ん……。だがキララ、妹よりも成長が遅いんだな。身長は高いのに……」
「は?」
私の額に静脈が浮かびそうになる。
「ちょっ! フロックさん、それは禁句!」
シャインはフロックさんに叫んだ。
「え、何ですか、そうですか、え~、え~。一〇歳の少女に何を求めてるですかね。私、怒りすますよ。目一杯怒りますよ!」
「わ、わるかった。いや、すまない。というか、そんな気にするところなのか?」
「私、フロックさんがモテない理由が分かりました」
「何だよ、俺がモテない理由。身長は無しだぞ」
「相手を思いやる繊細さがなさすぎます。子供にすらそんなふうに言うなんて。女性にはどんな風に接しているんですかね! あ~。あ~。ちょっとカッコいいな~なんて思ってた私がバカだったみたいですよ。そんなに大きいのが良いなら、モークルとでも付き合っていればいいです!」
「な、なぜそうなる……」
「はぁ……。お姉ちゃん何、熱くなってるの? 別に気にしなくてもいいじゃん。フロックさんは子供に何て興味ないよ」
「そうだとしても、言っていいことと悪いことがあります。フロックさんは言ってはいけないことを言いました。それが分かっていない状態がいけないんです。このままだと一生モテませんよ」
「お、おれは別にモテたいなんて一言も言ってないだろ」
「え……。女性にモテたくないんですか?」
「いや……、全くモテたくないと言ったらウソになるが、別に無理してモテたいとは思わん。今のまま、自然体でいたい。貴族みたいな堅苦しい関係は好かん」
「へぇ。そうなんですか。じゃぁ、一生独身ですね。一人寂しい余生をお過ごしください」
私はついカッとなって言い過ぎてしまった。ここまで言うつもりはなかったのだが、口から思っていた言葉がするすると出てしまったのだ。言い終わったあとに後悔し始める……。
――何、むきになってるんだろう。別にどうでもいいじゃん。はぁ~。
私はフロックさん達に背を向け、歩きだした。
「おい、キララ。俺、言ってなかったか?」
「はい? 何をですか」
フロックさんは私の肩に手を置き、後ろを向かせられる。
「俺はおっきいのも好きだか、小さいのも好きだぞ」
「だから~! そういうところがダメなんだって!」
――ベスパ、八八八八メートル上空にフロックさんを連れて行ってあげて。
「了解!」
「うわっ! な、なんだ。うわっ」
フロックさんは遥か上空に飛んで行った。
「はぁ、はぁ、はぁ。何あの人。大人と言うか子供。子供なのに強くて頼りがいあるなんて、変な感じ」
「お姉ちゃんと一緒だね。子供なのに頼りがいがあるなんて」
「シャイン……。全然似てないよ。まるっきり違う」
「いや、多分一緒だよ。なんかそんな感じがする。私の感覚に狂いはないよ」
シャインは決め顔で言った。いったいシャインにはどんな感覚があるのか知らないが、フロックさんと似ていると言われても私は何も嬉しくない。
「はぁ、さっさと帰るよ。家で新しい商品の試食会をするから」
「え! お姉ちゃんの作った商品が食べられるの!」
シャインは子供っぽく眼を輝かせ、涎を垂らしかける。
「そんなに量が多い訳じゃないけど、美味しいと思うよ。いつもの食事が数段階上がった感じかな」
「え~。すごく楽しみ。私、お姉ちゃんの作った商品、全部好きだよ」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。たくさん食べて大きくならないとね」
「うん。お姉ちゃんもね」
「はは……。余計なお世話だよ」
私とシャインは家に帰った。フロックさんはベスパに遊ばせておく。少ししたら戻ってくるように伝え、フロックさんが凍ったあたりでベスパは家の前に戻って着ていた。
「あ、フロックさん。どうでしたか、高度の世界は?」
「寒い……。凍え死ぬかと思った……」
フロックさんの体には霜が出来ており、地上の熱さで溶け、蒸発しているのか白い靄が出ていた。
「そうですか。じゃあ、煩悩は少しくらい飛んだんじゃないですか」
「そんなもん考えている余裕なんてあるわけないだろ……。一瞬死ぬかとおもったっつーの」
「大分堪えたみたいですね。少しは反省しましたか?」
「反省。そうだな。俺は嘘を言っている訳じゃないと改めて思った。別に反省はしていない。キララは可愛いから何ら問題ないと思うぞ……」
「へ、へー。そうですかー。ま、まぁ、そう思ってもらえるのは嬉しいですけど、あんまり勘違いするようなことは言わないでくださいね」
「勘違い? よく分からんがキララが可愛いのは勘違いじゃないぞ」
「そう言う意味じゃなくてですね……。も、もういいです。『熱』」
私はフロックさんの手を握り、魔法で温めた。体がとんでもなく冷たくなっており、さすがにやり過ぎたと反省する。
「本当にちっさい手だな……。守りがいがあるぜ……」
『ボッ……』
手の中に火がついてしまった。
「あっつ!!」
「す、すみません。フロックさんが変なことを言うから魔力の加減間違えちゃったじゃないですか!」
「いや、俺がいつ変なこと言った。子供を守るのが大人の務めってもんだろ。何もおかしくないじゃないか」
「そ、そうですけど……。そういうのは手を握りながら言うことじゃなくてですね……」
私は変に意識してしまい、手汗を掻いていないか心配になり手を放そうとする。だが、なぜか手が離れなかった。
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