魔法の天才児と上流貴族
「はぁ、はぁ、はぁ、ほんとに当たらない。これが経験の差ってやつなのかな……」
シャインは珍しく息を切らしていた。
「お、何だ。分かってるじゃないか。お前の攻撃は分かりやすすぎる。それじゃあ、強い攻撃だとしても格上には当たらねえよ。攻撃は当てないと何の意味もない。ただ力が強い奴なんて五万といる。それを使いこなせる奴は一握りだがな。お前は素質がある。経験さえ積めば一人でも高みを目指せるくらいだ」
「そんなに褒めてくれてありがとうございます。でも、私は目標があるので、もっと強くならないといけないんです。だから、あなたで経験を積ませてください!」
シャインはさらに攻撃を繰り出していった。
「はっ。嫌いじゃないぜ、そういうの!」
フロックさんはシャインの一撃必殺の攻撃をすべてかわす。フロックさんもシャインの攻撃が一撃でもあたったら体が吹き飛ぶことくらい分かっているはずだ。だからこそ自身の力になると分かって攻撃をかわしているに違いない。
シャインとフロックさんの戦いはとても地味だった。だが、その一手一手に命が関わっているため、見ている私は心臓がハラハラドキドキする。何なら見ていられない。
シャインの持久力は半端ではなく、どれだけ動いても衰えない。それゆえ、病み上がりのフロックさんの体には酷だった。
「くっ!」
フロックさんの体にシャインの攻撃が掠った。それだけで結構痛そうな顔をしている。一撃を食らったら即終了。そんな中をどれだけかわしているのか分からない。ただ、フロックさんが強いのも私は分かっていた。
私は二人の戦いを数分間見続け、拳と拳がぶつかり合った瞬間を見た。というか、拳と拳をぶつけ合った状態で静止したのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ。ありがとうございました。とてもいい経験になりました」
「はぁ、はぁ、はぁ……。こっちこそ、何回も死の経験を味わえた。これで俺はさらに強くなれる」
何か同じ血を感じたのか二人は互いに握手して笑っていた。
「あの……。終わりましたか~。それなら周りの掃除はお願いしますね」
「え?」×シャイン、フロック。
広場は大量に巻き上がった砂埃や建物の傍に置いてあった木片、その他もろもろゴミで散らかっていた。
「戦った場所の後始末まで考えて戦っていたに決まってるよね?」
「も、もちろん。私、ちゃっちゃと片付けるから」
シャインは即座に動き出し、広場を片付け始めた。
「えっと……。俺も?」
「当たり前です。ちゃんと片付けてください」
――ベスパ、箒を持って来て。
「了解です」
ベスパは箒を私のもとにすぐに持ってきた。
「はい。これでしっかりと掃除してくださいね。シャインの方にも渡しておいてください」
私はフロックさんに箒を二本渡す。
「わ、分かった……」
私は二人に掃除を任せ、牧場に向う。牧場にあるバートン場でライトとカイリさんが戦っているというのだ。そんなの危なっかしくて早く止めなければ。
私は牧場に向って走った。走り出して一〇分後に牧場に到着し、バートン場に向った。
ライトとカイリさんを発見したが、二人でドンパチやっている訳ではないようだ。
「なるほど、なるほど。この魔法陣でそうなるのか……」
「そうなんですよ。だから、ここをこうすればこうなるんです」
「はぁ~。凄いな……。ここまで出来るのならライト君は今すぐにでも学園で博士になれると思うよ」
「はは……。褒めてもらってありがとうございます。でも、僕の作った魔法なんて失敗作だらけですから」
「失敗作だとしても新しい魔法は新しい魔法だよ。失敗からしか成功は生まれない。魔法の作製をくじけずに続けているのは本当に素晴らしい。私も昔はよく失敗作を作って落ち込んでましたよ。その都度才能の無さに絶望して魔法陣をビリビリに破いてましたね。懐かしい」
「僕もよくやりますよ。あれは気持ちいいですよね。特に何時間もかけて作った魔法だとなおさら。あと、姉さんに失敗してもいいって言われてるので僕は失敗しても何も怖くないんです。姉さんなら失敗した魔法でも凄いって褒めてくれますから」
「なるほど。それは心強いですね」
カイリさんとライトは魔法の実験を行っていたらしい。戦っていないのならそれに越したことはないのだが、二人が魔法でドンパチやり合っているところも少し見てみたかったと思う自分がいる。
どうやら私も血気盛んな性格をしていたらしい。
「ライト、こんな時間に何しているの?」
「あ、姉さん。カイリさん達が怪我が治ったから僕達の村に来てくれたんだ。さっき到着して、シャインはフロックさんと一戦やるんだって言って飛び出していったよ。見た?」
「うん。さっき殺しあってた。もう、見てるこっちが緊張して仕方なかったよ。何か起こる前に止めようと何回思ったか」
「シャインならそうだろね。でも、ここに姉さんがいると言うことは良い結果に終わったと言うことだね」
「まぁ、結果は二人で握手してたたえ合っていたよ」
「そうなんだ。よかったじゃん。僕達の方も丁度終わったところだよ。今から帰ろうと思っていたんだ」
「なら、様子を見に来なくてもよかったね」
「僕達はあの二人みたいに熱い性格している訳じゃないから、戦ったりしないよ」
「まぁ、言われてみたらそうか。あ、そうだ。フロックさんとカイリさんはどこで泊まるか考えてますか?」
「いや、まだ考えてないよ。教会か野宿でもしようかって話していたくらいだね」
「なら、私達の家に泊まりますか? フロックさんとカイリさんは雑魚寝ですけど」
「良いのかい? ご両親に迷惑が掛かるんじゃ」
「いえいえ。私は何度も命を救われている身なので両親も喜んで泊まらせてくれますよ。あと、丁度今日出来た食材があるので試しに食べてみてほしいなーと思いまして。カイリさんは結構有名な貴族さんなんですよね?」
「まぁ、私が凄いのではなく父上が凄いだけなんだけどね」
カイリさんは苦笑いをしながら人差し指で頬を掻いていた。
「でも、貴族なのには変わりないですよね?」
「そうだね。一応上流貴族としてルークス王国中にクウォータの姓は通っているかもしれない」
カイリさんは心臓当たりにある胸当ての鎧を親指で叩く。その位置には水の精っぽい紋章が彫り込まれていた。きっとクウォータ家の家紋か何かだろう。
「なら、感想を聞きたい食べ物があるんです。だから、私の家で一緒に食事をとりましょう。貴族の料理よりも味はないと思いますけど、もしよかったら来てください」
「分かりました。お言葉に甘えてお邪魔するとしましょう。レディー宅が一帯どんな食事をしているのか気になりますし、助けられたお礼をご両親に言わなければなりませんからね」
カイリさんは家紋に手を当てて軽くお辞儀をした。
「じゃあ、ライト。カイリさんを私達の家に送ってくれる」
「うん。分かった。姉さんはどうするの?」
「私はシャインたちにもこのことを伝えてくる。二人は先に家に行っていて。私達もすぐ向かうから」
私はライトにカイリさんを託し、バートン場をあとにする。
「ベスパ、味見してくれる人が来たよ。バターミルクを五本とバターを二個、倉庫から持って来てくれる」
「了解です」
ベスパは倉庫の方に飛んで行き、バスケットを持って戻ってきた。
私は走って広場で掃除をしているシャインとフロックさんのもとに向う。
「あーん。終わらないよー」
「泣き言を言っていても終わらねえぞ。掃除もこなせないようじゃ、まだまだ詰めが甘いぜ」
シャインとフロックさんは口と手を動かしながら掃除をしていた。広範囲にゴミが舞ってしまったので未だに掃除が終わっていない。
二人が掃除を終わらせるまで待っていようと思ったが、それだと時間が掛かり過ぎてしまうと思ったので私も手を貸すことにした。
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