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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
天才の弟と復興の街 ~弟は街に行ってもやっぱり天才だった編~
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超高級ホテルのキングベッド (土)

「さ~、やるぞ! 今日は土に堆肥を混ぜ込んで良い土にするんだ! 畝を作ってから一四日待ったんだ。もう、早くやりたくて仕方なかったよ~!」


 私は畑の前で叫んだ。疲れた体に鞭打って動きだす。


「キララ様、鍬とスコップをお持ちしました」


 ベスパが木製の鍬とスコップを持ってきた。硬い土を掘るわけではないので、木製でも十分役割を果たしてくれそうだ。


「よし、堆肥も時間が経って乾燥して丁度いい具合になってるはずだ。ライトに『クリア』を掛けてもらったから瘴気(細菌)は消滅しているはず。草しか食べていないモークル達の糞から作った堆肥だから、きっといい土になるぞ~」


 私は堆肥の入っていない土の具合を確かめる。手で優しく握り、少々纏まるくらいの土になっており、色、匂い、肌触り、何もかもが完璧に近い。この土に堆肥を入れれば日本の農家さんの作った土にも負けないくらい良い土の完成だ。


「キララ様。長い時間をかけてまで土にこだわるのはなぜですか? 別に種をそのままそこらへんの土に植えても草は伸びますよ」


「ふっ、甘いね、ベスパ。農業は土が命なんだよ。土づくりに命を懸けないと良い作物は育たないんだ。土は植物たちのベッドみたいなものだからね。良いベッドにすればするだけ、作物は気持ちよく育ってくれるんだよ」


「なるほど、だからキララ様の成長は遅いのですね。納得です」


 ベスパはウンウンと頷きながら理解していた。


「ちょっと喧嘩売ってるのかな……。でもまぁ、否定できなくもない……。って、そんな話はどうでもいいの。結局のところ、農業は土で全てが決まっちゃうんだよ。だから、土にうんと時間を掛けて、手間もたくさん掛ける。そうすればきっと美味しい作物が大量に取れるよ。冬の蓄えにもなるし、美味しい食事も作れる。うぉ~! やる気がみなぎってきた~!」


 私はスコップを空に掲げ、夕暮れ時に大声を出して申し訳なく思い、しゅんと縮こまる。


「ベスパ、バケツに堆肥を入れて持って来てくれる」


「了解です」


 ベスパは光り、ビー達に堆肥をバケツに入れさせた。数秒でバケツは堆肥でパンパンになり、ベスパが持ち手を持って浮上し、私のもとに運んでくる。


「じゃあ、そのまま浮かばせておいて。私が畝の中に堆肥を入れていくから、一緒に着いてきて」


「了解です」


 私はベスパの浮かせているバケツに小さなスコップを入れ、堆肥をすくい上げる。そのまま畝の中にパラパラと落としていった。


――肥料は多すぎても少なすぎても駄目。作物が良く育つかどうかは土をどれだけ育てる植物に適した環境に出来るかで決まる。野菜は土が酸性だと育ちにくい。土を中性に持っていくためにアルカリ性の肥料を入れるのだけど、科学肥料なんてこの世界にはないから、堆肥を使って土を中性に近づける。上手くいってくれると良いな。


「よし、一本目の畝に堆肥を入れ終えた。あと四本の畝にも堆肥を入れて、ちゃっちゃと終わらせよう」


 私はビー達にも手伝ってもらいながら畝の中に堆肥を入れていった。少し離れている場所に作った畝にも堆肥を入れ終わり、堆肥の上から掘り起こした土を戻していく。この時、持った土は全て戻すのではなく、一五センチメートルほど盛った土から八センチメートルほどを畝の中に戻した。


「ふ~。大変だけど、いい感じだ!」


 私の丹精込めて作った土はふかふかで居心地がよさそうだった。それはもう、野菜たちにとって超高級ホテルのキングベッドと言っても差し違えないだろう。


「ではキララ様、今からビーンズとトゥーベルを植えるんですね」


 ベスパはビーンズの種とトゥーベルの種イモを両手に持ち、植える気満々の表情をしている。


「ううん。また一四日開けるよ」


「え……。土づくりだけで七月が終わってしまいますよ」


 ベスパは唖然としていた。


「いいのいいの。最高の土を作らいないと最高の食材は作れないんだから。一四日なんてあっという間に過ぎちゃうよ。この間に乳油を完成させちゃおう。出来れば量産して試作品を作りたいからさ。時間は水のように湧き出てこないから、瞬く間に流れて行っちゃうよ」


「なるほど、最高の物を作るには最高の素材が必要なのと一緒ですね。キララ様が言うのなら私は構いません。さ、もう日が暮れますから歩いて帰りましょう」


「う、うん。そうしたいのはやまやまなんだけど……。私の脚が棒になってしまったみたい……」


 私の脚はシャインと共に走り、土づくりの際に使い過ぎたせいもあって、すでに動かないほど疲れ切っていた。もう、一歩も動けないという言葉が脚の震えから聞こえてくる。


「キララ様、少しでも歩いたほうが筋線維の修復が速まります。少しずつでもいいですから歩いて帰りましょう」


「そうだね……、筋肉痛になってでもしたら明日も走れなくなってしまう。加えて、仕事にも影響が出そうだから、なるべく痛みが残らないようにしないと。家に帰ったら冷やして筋肉の疲労を鎮めよう……」


 私は自分の脚が、脚じゃなくなったような感覚を味わないながら、一歩ずつ確かに歩みを進め、家に帰った。


☆☆☆☆


 ライトと街に行ってから一三日が経った。


 七月七日に事件が起こり、その七日後、七月十四日にライトと街に向った。


 次の七日後は本当に仕事だけの為に街に向い、疲れ切って村に帰ってきた。その週はシャインと共に走る鍛錬を取り入れたがために、疲弊しきった七日間になり、何度気絶しかけたか分からない。


 私は子供が行っていい運動量を超えていると思いながらも、死に物狂いでシャインについていき、息切れしにくくなったと気づき始めたのは一〇日目が過ぎたころだった。体力が少しだけついたのか、仕事で疲れにくくなり、休憩がてらのさぼりが減り、自分の時間を最大限使えるようになっていた。


 今、私はシャインに教えてもらった走り込み道路(ランニングコース)を走っている。


「ふ~。走るのって慣れると結構楽しいんだね。まぁ、ほんの少しの間だけだけど……」


 私は小走りで村の周りの景色を見ながら走っている。森、川、草原、見渡す限りの大自然が広がっている。


「キララ様にしては珍しく習慣に出来ているみたいですね。興味のないことだと簡単に投げ出してしまうキララ様にしては素晴らしい進歩なのではないですか」


 ベスパは私の頭上を飛び、辺りの警戒をしていた。


「確かに……、辛くて苦手な運動からは自分から避けてたけど、成長が感じられると頑張れちゃうだね」


 私はシャインに教えてもらった道をたどり、一周約五キロメートルの道のりを三○分ほどかけてゆっくりと走り込んだ。


「ふぅ~。朝の走り込みは終わり。よし、今日は乳油を完成させちゃおう。今日は休みだし、時間は沢山ある。でも、気温が高くなると思うから涼しい朝のうちに乳油を作るよ」


「了解です。すでに完成までもう少しなんですよね。日が出て気温が上昇するまであと一時間もありません。急ぎましょう」


「そうだね。山のてっぺんが明るくなってきてる。今日も暑くなるかもな。よし、私は家の台所にいるから、ベスパは乳油のもとになる寝かせたまま置いてある生クリームを持って来て。あと、蓋つきの瓶も作って持って来て」


「了解です」


 ベスパは牧場の方に飛んで行った。


 私は小走りで家の方に向う。私は家に到着し、台所に向った。


 すると、既に綺麗なバケツに入った大量の生クリームとペットボトルを連想させる円柱の容器が置いてあった。


 乳油を作る時間は無かったがその前段階になる、生クリームは結構沢山作った。


 すでにどれだけ作ったか数えるのを止めてしまったのでバケツ数杯分は倉庫に貯蔵してある。加えて脱脂乳や脱脂粉乳も試作品を提供できるだけの数は容易した。


 あと乳油さえ作れれば牛乳だけで作れるものは全部作れることになる。

 おまけ。

 自宅警備員ズミちゃんの一日。

 オリゴチャメタのオメちゃんの娘であるズミちゃんは乾燥に弱いので土の中でいつも過ごす。朝起きると土を食べ始め、糞をする。朝の涼しい時間帯に地上に出てビー達が運んできた牛乳パックや牛乳瓶を食し、土の中に戻る。そのまま土をモグモグと食べ続け、夕方ごろに地上に顔を出してベスパから魔力と牛乳パック、牛乳瓶、生ごみなどを分けてもらい、食べる。また土の中に戻り、糞をして眠る。毎日これの繰り返し。でも、ズミちゃんは今の生活が全く嫌ではない。なんせキララに安全を保障され、食事も与えられ、毎日くっちゃねくっちゃねしているだけで生きていけるのだ。そう、畑はズミちゃんにとって楽園だった。それでもズミちゃんは働き者なので毎日せっせと働き、土の中の安全を守っている。(自宅警備員ズミちゃんの一日。完)

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