オリーザさんとライト
「コロネさん。お会計をお願いします」
「あ、キララちゃん。いらっしゃい。こんなに買ってくれてありがとう。凄く助かるよ」
コロネさんも表情が明るくなり、気分がいいみたいだ。
「いえいえ、いつもお世話になっているのでパンを買うくらいどうってことないですよ」
私は胸ポケットから小袋を取り出し、銀貨一枚を差し出す。
「銀貨一枚をお預かりします。ただいま全品半額となっておりますので、銀貨一枚と銅貨六枚のところを銅貨八枚にさせていただいて、お釣りが銅貨二枚になります。お確かめください」
コロネさんは私に銅貨二枚を渡してくれた。
「ありがとうございます」
その間、レイニーが紙袋にパンを綺麗に詰めていく。汚れやすい果物の乗ったパンはそれ専用の紙をあてがい、入れていた。どうやらお客さんに対していい接客をしているようだ。
「どうぞ。お待たせしました」
レイニーはパンの入った紙袋を閉じて私に手渡した。
「ありがとう。じゃ、私達はこれで……。じゃなかった。牛乳をまだ配達してないじゃん。パンを買って満足するところだったよ」
――ベスパ。クーラーボックスを持って来て。
「了解です」
べスパはお店から出てクーラーボックスを持ってきた。
「コロネさん、オリーザさんはいますか?」
「奥にいるよ。呼んでこようか?」
「はい。お願いします」
コロネさんはお店の奥に向い、オリーザさんを呼びに向かった。その間、私達はお客さんの邪魔にならないようカウンターの端に移動する。
少しすると、コロネさんが戻ってきた。
「オリーザさんが中に入ってくれって」
「そうですか。分かりました。では中に入らせてもらいます」
私とライトはお店の奥に向う。
「えっと、キララちゃん。この子はだれ?」
私とライトがカウンターの横を通ってお店の奥に行こうとしたところ、コロネさんにライトをまだ紹介していなかったことに気づく。
「その子は私の弟です。いろいろあって今日は付いて回ってもらっているんですよ」
「弟君か~。さすがキララちゃんの弟なだけあって可愛い顔してるね。初めまして私の名前はコロネ・アコリエ。よろしくね」
「初めまして。僕の名前はライト・マンダリニアです」
ライトは頭を下げ、コロネさんに自己紹介をした。
「挨拶がちゃんと出来てえらいね。お姉さんがよしよししてあるよ~」
コロネさんはライトの頭を撫でる。
前屈みになっているコロネさんをよくよく見たら胸の出っ張りが結構デカい……。というか、ライトは多くのお姉さんに好かれすぎ。まぁ、顔がいいから仕方ないんだけどさ。それなら私もいろんな男の人に可愛い~っていわれてもよくないですか。可愛いと言われて嫌な気はしないし。でも、私を可愛いと言った男性がいったい何人いるだろうか。思い出せない……。
――うぅ~ん。なぜだろう。私はこんなに可愛いのに……。
「キララ様が可愛くないからではないですか?」
ベスパは心にもない発言をした。
『ファイア』
「ぎゃわーーーー!」
ベスパが何か戯言を呟いていたのでつい燃やしてしまった。灰がお店に落ちると申し訳ないので両手で受け止め、ポケットの中に入れる。
「ライト、行くよ」
「わ、分かった」
ライトはコロネさんにお辞儀をして私の後をついてくる。
「もう、なに大きなお姉さんにデレデレしているの。はしたないよ」
「いや、僕がデレデレしている訳じゃなくて、綺麗なお姉さん達が勝手に寄ってくるんだよ」
「その言い方は悪い男みたいだから止めときなよ。どうせなら、自分がカッコいいから仕方ないよね。くらい堂々としたらいいんじゃない?」
「僕は姉さんみたいに自信家じゃないから、そんなふうに言えるわけないでしょ。姉さんはよく自分が可愛いって言えるね?」
「事実だし。何も不思議じゃないでしょ」
私は決め顔をライトに見せる。
「まぁ、顔の好みは人それぞれだけど姉さんの顔は何よりも可愛いと思う。弟の主観だけど」
「でしょ、でしょ~。ライトもカッコいいよ。さすが私の弟なだけはある。ま、顔で何もかも決まるわけじゃないから、気にしなくてもいいよ」
――実際、前世ではあり得ないほどモテなかった。前世は絶世の美女とうたわれたんだけどな。大都会を歩いていても、誰も声をかけてくれなかった……。性格の問題かな。ん~。ま、私は私だし、どうでもいいや。
私達はオリーザさんのいる調理場に向った。
「オリーザさん。こんにちは。牛乳を持ってきました」
「おお。やっとか。この時間がとてつもなく楽しみなんだよ。牛乳が補充されるこの瞬間が。いつも減っていく一方だからよ。気が気じゃなくなるんだよな」
オリーザさんはパンの生地をこねながら待っていた。
「はは……。そう言ってもらえると嬉しいです。あ、オリーザさんに紹介しますね」
私はオリーザさんの前にライトを立たせる。
「初めまして、ライト・マンダリニアと言います。姉さんの弟です」
「嬢ちゃんの弟か。顔がそっくりだな。おっと、俺も自己紹介しないとな。俺の名前はオリーザ・サティバだ。よろしく。嬢ちゃんの牧場で捕れた牛乳を愛してやまないパン職人だ」
オリーザさんはパンの生地に綺麗な薄手の布をかけ、ライトの前で自己紹介を行い、椅子に座った。
「お、パン買ってくれたんだな。言ってくれればタダでもよかったんだが」
「いえいえ。さすがに今の状況でタダでパンをもらう訳には行きませんよ。でも、街は大分復興しているみたいですね。七日前とは見違えていましたよ」
「ああ、そうだろう。七日前の街とは全く違う街になった。ま、ブラックベアーが街をぶっ壊してくれたおかげなのが皮肉なんだけどな。だが、そのお陰で今は住みやすい街に変わりつつある。パンを買う人も増えたし、放浪者の数も減った。街が壊されたくらいでここまで変わってくれるのなら、初めから壊しておけばよかったぜ」
「まぁ、後ろにドリミア教会と領主がいましたから、街を壊すだけでは何も変わらなかったはずです。ドリミア教会と領主がいなくなった影響で街が変われたんだと思います」
「はは、そうかもな。だが、ドリミア教会と領主の姿がどこにもないのが疑問だ。俺が寝ている間に全て終わっていたからよ。嬢ちゃんは分かるか?」
「さ、さぁ……。私には何も分かりません……」
私は眼を少々泳がせながら喋る。
「ドリミア教会が一度手を引いたんだ。また別の教会が来ることはないだろう。一時の平和だが、この時をどれだけ長引かせられるかは大人の責任だ。簡単に前のようにはさせないさ」
「はい。お願いします。私にはどうすることも出来ませんから、大人にお任せします」
「ああ、任せておけ」
「そう言えば、オリーザさん、レイニーを雇ったんですね」
「そうだ。街が壊されたんだから規則なんてもんもないだろ。レイニーならしっかり働いてくれると分かっているから仕事を任せた。給料もしっかり時給で払っているぜ。銀貨一枚をな」
「へぇ~。高時給ですね。子供なのに凄いです」
「大体街の時給の相場は銀貨一枚ってところだ。前は税をたらふく取られていたからな、稼いでもほぼ持っていかれていた。だが、今は税がほぼ掛かっていない。そのお陰で商売もしやすいし、買い物客も増える。今は街を盛り上げていかないとな」
――私のお父さんの前やっていた職業だと一月で金貨一枚から二枚だった。そう考えると、街の時給は結構高いんだ。税金もほぼ掛かっていないのか。だから半額なんて大胆なこと出来るんだ。
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