位の高い学園と低い学園のどちらに行くか
「やはりそうでしたか。綺麗な顔とか、髪の色とか、キララさんとそっくりですので姉弟だと思いましたよ」
「そうですか。私と弟はやっぱり似てますよね~。えへへ~」
私は髪を掻き、照れ隠しする。
「何で姉さんの方が照れてるんだよ……」
「だって、ライトと私は姉弟なんだよ。それを分かってもらえるって何か嬉しいでしょ?」
「まぁ、嬉しくないとは思わないけど……」
ライトは私から視線をそらし、頬を少々赤らめた。
「も~、素直じゃないな。このこの~」
私はライトの頬を突き、いじる。
「ちょ、止めてよ。というか今は仕事中でしょ。もっとしっかりしなよ」
「あ、そうだった……。ごめんなさい、ショウさん。ライトがいるとつい実家みたいな感じになってしまって、浮足立っちゃうんです」
「いや、意外でした。まさか、キララさんがこんなに普通の女の子に見えるなんて。いつもどこか大人の雰囲気を醸し出しているので、感覚がおかしかったんですけど、ちゃんと子供なんですね……」
ショウさんはテーブルを隔てて椅子に座っており、苦笑いを私に向けた。
「そりゃあ、私はまだ一〇歳ですから。どう考えても子供ですよ」
「ですよね。すみません」
ショウさんは頭を下げる。
「あ、そうだ。さっき言っていましたけど、キララさんはルークス王国の王都の学園に行かれるんですか?」
「え? まぁ、そのつもりですよ」
「平民でですか……?」
「はい。このまま順当に行けば入学金を払えそうなので、どこかの学園に行こうと思っています」
「そうですか。では、学園に行っている間、配達を行う人が変わるわけですね」
「そうなりますね。でも、安心してください。家にはライトがいますから」
「ライトさんが、キララさんの引継ぎをするということですか?」
「ゆくゆくはそうなると思います」
「姉さん、僕は何も聞いてないけど、なんで勝手に決めてるの……」
ライトは私の方を見て眼を細めている。
「だって、ライト以外に牛乳を運べる子が牧場にいる? 私が学園に入るまで、まだあと一年くらい間があるけど、シャインには任せられないよ」
「それはそうだけど、僕にも色々仕事があってさ、大変なんだよ」
「まぁ、今は仮でいいじゃん。一年後なんて誰も分からないよ。だから一応、配達係はライトに任せておく。その間に誰かほかの子が有用だな~っと思ったらそっちにするよ」
「む……。それはそれで負けた気がして嫌だな……」
ライトは頬を膨らませてむっとした。
「ショウさん。今はまだ決まっていませんけど配達が終わるわけではないので安心してください」
「ほんとですか。ありがとうございます。もう、キララさんの牧場の牛乳が買えなくなると思ったら冷や汗が止まりませんよ。お店に並んでいるお菓子たちの輝きが違いますからね」
「あの、もしかしてガラスケースの中央に置いてあったあの白い品ですか?」
「そうです。お店の看板商品ですよ。あまりにも売れるので、出す瞬間が毎回毎回怖いくらいです。キララさん達が来る少し前に出したばかりで、抽選の途中だったんですよ。なので多くの人がキララさん達を見てたわけですね」
「あぁ、だからあんなに怖い顔してたのか……。って、そんなに人気なんですね」
「そりゃあもう、街が崩壊状態になってまでも食べたくなってしまう味だそうですよ。私もそう思いますけどね」
「それじゃあもう、依存症みたいなものですよ」
「あれになら依存してもいいって思えてしまいます。はぁ~、私が一番食べたいのに食べられないもどかしさ……。でもそれがまたいい……」
ショウさんは完全にお菓子中毒者だった。まぁ、前世の私もあんな感じだったので分からなくはない。
「あの、私が王都の学園に行ったら駄目だったりしますか?」
「え……、なぜそう思うんですか?」
「いや、さっき私が学園に行きますと言ったら、ショウさんが少し曇った顔をしたので、何かあるのかなと思いまして。一つの懸念は解消しましたけど、どこか晴れてないような気がしたので、聞いてみました」
「あ、いや……。まぁ、そうですね。王都の学園には色々ありまして入学金は必ず必要なんですけど、入学するためには他にも試験が沢山あるんですよ。位の高い学園に行くにはそれ相応の学力とスキル、魔法が使えるかどうかなどが審査されます。加えて子供のころから勉強している子達と戦わなければならないですから、キララさんには酷かもしれないな……と思いまして」
「なるほど。ショウさんは私の心配をしてくれていたわけですね。まぁ、確かに私も不安ではありますけど、学園には入れればどこでもいいかな~って軽い感じなので、気にしないでください」
「ダメです!!」
「うわっ!」
ショウさんは立ち上がり、私の肩を掴んできた。
「中途半端は一番いけませんよ。私も王都出身ですから分かりますけど、そう言った友達が低位の学園に入って無気力で投げやりになっている姿を見てきました。どうせ行くなら高位の学園一択です。位の高い学園に行けばそれだけ高い教育を受けられますし、質の高い者が集まります。まぁ、平民が行くのはあまりにも難しいですけど、キララさんなら臨みがあると思います」
「は、はぁ……。まぁ、確かにそうですね。考えておきます……」
「すみません。少し熱くなってしまいました。キララさんは才能があると思うので、是非伸ばしてもらいたくて……」
ショウさんは私の肩から手をどけて、椅子に深く腰掛ける。
「えっと、あまり聞かれたくないかもしれないですけど、ショウさんはどういった学園を出ているんですか?」
「私ですか? 私は食に関する仕事を専門にした学園ですよ。なので、そこまで位は高くありません。ですが、質の良い仲間は沢山いました。ですのでとても楽しかったのを覚えています」
――それはもしや専門学校というやつなのでは……。なら、私もそこに入学すればいいのではないか!
「ショウさん、その学園に入るにはどうしたらいいですか!」
「え……。また、突然ですね。入るにはスキルが食に通づる者であると言うのが最低条件になります」
「はぃ? 何ですかそれ! はじめっから一見さんお断りみたいな学園! 園長に抗議しますよ!」
「ちょ、姉さん。いきなり大声を出さないでよ」
「だって、おかしいでしょ。スキルで学園に入れるか入れないかが決まるなんて。その職業に就きたい人たちがスキルを持っていなかったら入れないってことだよ!」
「まぁ、そうだけど、スキルの差は大きいんだよ。姉さんはショウさんの作ったお菓子みたいな綺麗な品を姉さんも作れると思うの?」
「確かにショウさんのお菓子は芸術品みたいだけど、私も練習すれば作れるようになるよ。何年かかるか分からないけど、修行し続ければ作れるようになるはず」
「キララさんは将来何になりたいんですか?」
「私は将来、パティシエになりたいんです!」
「パティシエ……? とは、いったいどんな職業なんですか」
「菓子職人と同じような職業ですよ」
「つまり、キララさんも私みたいにお店を構えてお菓子を売りたいと言うことですか?」
「え……? ん~~。どうなんだろう。別に売らなくてもいいんですよ。ただ、私がお菓子を作りたいだけなんです」
「なるほど。それなら、別に菓子職人になるための専門学園に向う必要はないのではないですか?」
「というと?」
「各学園にはそれぞれ趣味嗜好を分かち合う場が設けられています。その中に菓子を作る同好会もあると考えられますから、そう言ったところで経験を積むのも一興かと思いますよ」
――趣味嗜好を分かち合う場? 部活やサークルとか、かかな。まぁ、部活なら部活で楽しそう。
「私はスキルが菓子職人向けでしたし、親も菓子職人ですから、半ば強制的に食の専門学園に通わされました。今となってはいい思い出ですが、違う道もあったのではないかと思えます。なんせ、私には魔術や剣術と言った、身を守る技術は一切持っていません」
「専門学園は魔法や剣術といった自己防衛術を教えてくれないんですか?」
「まぁ、基礎的な学習はしますが専門には全くしません。ずっと食材と睨めっこする学習ばかりです。なので、私は視野がとにかく狭いんですよね。お菓子や食材に関しては深くまで知っていますが、それだけです」
――知識があるだけ十分凄いと思うけど……。
「自分でお菓子を守ることも出来ませんし、家族を力で守ることも出来ません。私に出来るのはお菓子を作ることだけ。それも恵まれているから出来る仕事なので何も言えませんが、キララさんはもっと視野を広げてもいいのではないでしょうか」
「なるほど……」
――確かに私はパティシエになって皆をお菓子で笑顔にすると言う夢はあれど、どうやって笑顔にするのか考えてなかったな。
別にお店を持ちたいわけじゃないし、パティシエになりたくない訳でもない。私はただお菓子を作って自分で食べて、皆にもお裾分けできたらいいな~、くらいの感覚でいたから、もっと自分の将来について考えてなかった。でも、考えすぎるのも面白くないし、方針さえ定まっていれば多少寄り道しても目標にたどり着けるはず。
私は自分の生きたいように生きると言う土台のもと動いている。その中にお菓子を食べたいと言う目的のためにパティシエになりたいと言う夢を持った。なら、自由に生きて自由にお菓子を食べられるようになるのが私の目標になったわけだ。
目標を叶えるためにはなにが必要なのか。それは知識。前世の知識を利用するのも限度がある。なんせ、この世界と地球とでは勝手が違うはずだ。知識はお金で買えない。自ら学びに行かなければ……。
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