楽しくて疲れてしまった
「レクー、ショウさんのお店まで向かってくれる」
「分かりました」
私は時計台の方を見ると時刻は午後三時一五分。病院から移動してショウさんのお店まで一五分くらい掛かるはずなので丁度いい時間に着けそうだ。
「はぁー。なんかどっと疲れた気がする。姉さんは?」
「私も疲れてるよ。病院内で少し長居しすぎたからかな。ライト、一応『クリア』を掛けといて」
「りょうかーい」
ライトと私の頭上に魔法陣が浮かび、光の柱が降り注ぐ。
「これでよし」
「うぇー、魔力が減って気分が一気に悪くなった……」
「もしかしてライト、シトラスをいっぱい食べた?」
「え、うん。フロックさんが食え食えって言うから……」
「柑橘系の果物を食べると乗り物に酔いやすくなるんだよ。だから、体調が悪いんじゃないかな」
「そうか、これ、乗り物酔いか……。まさか僕が乗り物に酔うなんて油断したよ」
ライトの顔は青白く、気分が悪そうだった。
私は何度もレクーの引く荷台に乗っているので慣れているが、きっとライトは荷台に普段乗らないので酔ってしまったのだろう。
「しょうがない」
――ベスパ、ライトを少しだけ浮かび上がらせてあげて。その方が振動がなくて楽になると思うから。
「了解です」
ベスパはライトの体を少し浮かせる。
「ん……。なんか、体が浮いた……。そうか、姉さんが浮かばせてくれているのか」
「多分これで気持ち悪さがなくなると思うから、眼をつぶって寝ててもいいよ。浮いている間は雲に乗ったような気持のいい揺れにするから、きっとすぐ眠くなると思う」
「ありがとう、姉さん。お言葉に甘えて僕は少し寝るよ……」
「うん。少ししたら起こすから、それまでゆっくりしていて」
「分かった……」
ライトは眼をつぶり、寝息をすぐに立て始める。どうやら、一瞬で眠ってしまったみたいだ。推定一分足らずで寝てしまったため、ほぼ気絶なのではないかと思う。
「よっぽど疲れてたんだね。まぁ、いきなり街に連れてきちゃった私も悪いか」
「ライトさんは楽しくて疲れてしまったのですよ。それなら仕方ないじゃないですか」
ベスパはライトの体を持ち上げながら答える。
「そうだね。楽しかったのなら仕方ないか。それだけ、ライトには刺激の強い日だったのかな」
「そうでしょうね。なんせ、ほぼ毎日村にいますから、大きな街には全く行きません。というかそんな余裕がないですからね。休みの時はネ―ド村に直行していますし」
「まぁ、ライトは街に行くよりネ―ド村に行きたいってなっちゃうんだよ。なんせ、ネ―ド村にはライトを狂わせる絶世の美少女がいるんだから。ライトすらメロメロになっちゃう女の子がね」
「デイジーさんですか。まぁ、あの方はキララ様と少々似ていますから、そこに惹かれているのかもしれませんね」
「なるほど。確かに私とデイジーちゃんは似てるかも。性格とか、雰囲気とか。それだけでライトがメロメロになっちゃうとは考えにくいけどな。まぁ、私はデイジーちゃんとライトはお似合いだと思うよ。まだ、八歳という若い年齢だけど……」
「今の二人はおままごと感覚な気もしますけどね」
「ライトはもとから賢いから分かってると思うけど、デイジーちゃんの方は遊び相手としか思ってなさそう。これから成長していく間にどうなっていくのかな。私は楽しみで仕方がないよ」
「ほんと悪い趣味していますよね、キララ様」
ベスパは苦笑いを私に向ける。
「私は何も干渉していないからいいの。遠くからこっそり覗き見るのが楽しいんだよ」
「れっきとした犯罪行為ですが……」
「身内なので全然問題なし!」
私はピースサインを眼尻に当てて舌を口角辺りからペロッと出し、馬鹿っぽく振舞う。
「はぁ~。私を覗き目的で使わないようにお願いしますよ」
「しないしない。直接見ないと面白くないよ~」
「もっと悪いですけどね」
私とベスパはちょっとした会話をしながら、ショウさんのお店に向った。
「やっぱり、ショウさんのお店も綺麗になってる。さすが、手を回すのが早い」
私はレクーを通行の邪魔にならない道の端に停止させ、荷台から降りてライトを浮かばせたまま、地面に靴裏を着かせる。
「ライト、起きて。もう着いたよ」
「う……。うん。あぁ、ここが次の場所」
「そう。お菓子屋さん」
「ここがお菓子屋さん……。なるほど、もういい匂いがしてる」
「さ、人が丁度少ないし、今のうちに入っちゃうよ」
私は走りながらお菓子屋さん『ショウ・ベリーズ』の入り口に向った。
「ちょ、待ってよー」
ライトも私の後を着けながら走ってくる。
――ベスパ、クーラーボックスをお願い。
「了解」
私とライトはお店の中に入り、甘い良い香りを肺一杯に吸い込んだ。
「はぁ~。凄く良い匂いがする。なにこれ、心が浮きそうだよ」
「そうでしょ。いつか私はお菓子屋さんみたいな幸せな空間を作りたいの」
私はライトにショウケースに入っているお菓子を見せた。
「なにこれ。見た覚えないよ……。模造品じゃないよね?」
「当たり前でしょ。これは全部食べられるの。シトラスやゴンリよりも甘くて美味しいんだよ。心が満たされるのは間違いない」
「でも、姉さん、こんな品を作れるの?」
ライトはショウケースに入っているお菓子を指さして作り方が全く予想できないのか頭に大量の? を浮かばせていた。
「私の頭の中では出来てるけど、材料がないの。あと、本格的に作るためにはやっぱりちゃんとした作り方を学ばないといけない。だから、私は王都の学園に行こうと思ってるんだよ」
「なるほど。姉さんの作りたい物ってこれだったんだ。でも、あり得ないくらい高いよ。普通に買えない値段で売ってる」
「そりゃあ、原材料が凄く高いからね。でも、私はこのお菓子をもっと身近にしたいの。今は貴族やお金持ちの人だけが買える娯楽品だけど、ゆくゆくは誰でも食べられるくらい一般に広めたいんだ」
「姉さん……。そんな壮大な夢を……。はは、僕じゃ敵わないはずだよ。僕にそんな目標ないもん。今の僕じゃ姉さんと張り合うなんておこがましいにもほどがあるね。僕も何か目標を見つけないと、姉さんには一生追いつけそうにないや」
「ライトもいつか見つかるよ。それがいつか分からないけど、ずっと考え続けていればいつかはっきりと見えてくる時が来るはず。でも、見えたとしても、目標に向っていくかはライトしだい。自分が動き出さないと他の人は何もしてくれないからね」
「うん。分かってる。僕も姉さんみたいに早い内から動き出して、いろんな夢を見つけるよ」
「その意気だよ! ライト!」
私達はお客さんのいる店内で言いあいを行い、最終的にぎゅっと抱き合っていた。
「えっと、キララさん。店内ではお静かにお願いしますね」
「あ、ショウさん」
私は回りを見渡した。すると、高そうな服を着ている人達が私たちの方を凝視している。
少し恥ずかしくなった私はライトからさっと離れ、何度も頭を下げて謝った。
「じゃあ、キララさん。こちらにお越しください」
「は、はい……」
私とライトはショウさんに連れられて、一室に入った。
「あの、さっきはすみませんでした……」
私はショウさんに頭をもう一度下げる。
「いやいや、別に謝らなくてもいいですよ。あんなに熱弁してくれて私も嬉しかったので気にしないでください」
「そうですか。というか聞かれていたんですね」
「そりゃあもう、声が大きかったのでよく聞こえていましたよ」
「はは……。お恥ずかしい」
「それで、キララさんの隣にいるのは弟さんですか?」
「えっと、初めましてライト・マンダリニアと言います。姉さんの弟です」
ライトは椅子に座りながら少しだけ頭を下げて挨拶をする。
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