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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
天才の弟と復興の街 ~弟は街に行ってもやっぱり天才だった編~
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ラルフさんとライト

「もしかして、リーズさんですか?」


「その通り。昔、リーズさんのいたパーティーメンバーに、俺達は命を救われているんだよ。そこから真剣に冒険者をやろうって決めたんだ。今までずっと追って来ていたがまさか抜いちまうなんてな」


「フロック。早とちりの性格は早く治した方がいい」


「ん? なんだよ、カイリ。新聞なんて持って」


「表紙を見てみなよ」


「ん?」


 フロックさんはカイリさんが渡してきた新聞の表紙を見る。


「『聖者の騎士』Sランクに昇格。王国の民は大歓喜。マジかよ……。追い越したんじゃなくて並んだのか……」


「そうみたいだね。まだまだ競い合える」


「はは……。そうだな。負けてられねえ。次は序列一位を目指す」


「これまた難しい目標を掲げるんだから……」


「難しい方がやりがいあるだろ。勇者と剣聖は騎士にされるはずだから冒険者の序列には関係ない。なら、一位を取るのだって夢じゃねえだろ」


「あの、序列って何ですか。名前からして強さの指標とかですかね?」


「まぁ、そんなところだ。パーティー単位ではなく一人で順位着けされた指標だな。今の俺は八八位だ。だが、今回の件で一気に上がるはずだぜ。カイリは七八位くらいか?」


「私は四八位だよ。七八位って全然違うじゃないか」


「そ、そうだったな」


 フロックさんはカイリさんに負けているのが悔しいのか順位を間違って覚えていた。


「冒険者に競い合う制度があったなんて知りませんでした。一位の人とかどんな人なんですか?」


「一位は爺だ。ルークス王国の王都にある学園の園長をしている。何年間一位なのか俺にも分からねえ。なんせ俺が生まれる前から一位だったみたいだからな」


 フロックさんは苦笑いしながら答えた。


「とんだ化け物がいるんですね……」


「ま、化け物なのは認めるが頼りになるのも確かだ。爺は俺達の通っていた学園の園長で、それはもう迷惑をかけまくったなぁ~と今でも思い出せる。な、カイリ」


「私に振らないでくれよ。お叱りの殆どは、フロックが騒ぎを起こしていたんじゃないか。私はいつもそのしりぬぐいをさせられていたんだからね。はぁ……、あの時は本当に疲れたよ。今でも五本の指に入る辛さだった……」


「そこまで言うかよ。まぁ、迷惑かけたのは悪かった。それは謝る」


――フロックさんとカイリさんが学園に通っていたころの話をしてる。いいな、楽しそう。そうか、この二人も学園に通っていたんだよな。今になって学園の話で盛り上がれるなんて凄い最高の友達じゃないか。私もそんな友達が欲しい。


 私は二人の学園時代の話を長々と聞き、学園に行ってみたいと言う欲がますます出てくる。それはライトも同じらしく、聞き入るように前のめりになっていた。


「キララ様、時間が押してきていますよ。そろそろお暇しないと帰りが遅くなるかもしれません」


 ベスパは私の飽和した頭に話しかけてくる。


――もう、そんなに時間が経ってたの?


「午後三時をもうすぐ回ります。ここの峠を越えるとショウさんのお店が少し開き始めるので移動し始めてもいいかと」


――分かった。


「ライト、もう時間がないから病院を出るよ」


「えぇ~。フロックさんが女風呂に突っ込んだ話をもうちょっと聞きたいよ」


「その話は私もぜひ聞きたいけど、今度、フロックさん達が村に来た時に聞けばいいよ」


「そうだけどさ~。カイリさんが女子寮に七日間も監禁されてた話も聞きたいよ」


「はぁ、楽しみはあとに取っておくものだよ。今、全部聞いちゃったら面白くないでしょ」


「は~い。分かりましたよ」


 ライトはベッドから降りて、私の横につく。


「じゃあ、フロックさん、カイリさん。今日のところは帰ります。傷が治ったら村にぜひ来てください」


「ああ、分かってる」


「もちろん。私も楽しみにしているよ」


 フロックさんとカイリさんは私達に微笑みながら、見送ってくれた。


 私達はフロックさんとカイリさんのいる病室を出て、もう一方の病室に向う。


「姉さん、もう病院を出るんじゃなかったの?」


「あと一人入院している子がいるの。セチアさんの大切な人なんだよ」


「セチアさん。あぁ、そうなんだ。どんな状態なの?」


「そうか。ライトは何も聞かされてないんだっけ。まぁ、セチアさんも言わないか」


「ん?」


 私とライトはラルフさんの眠っている病室の前に来た。


 私は扉を開けて、中の様子を見る。リーズさんや看護師さんはいなかったので、そのまま中に入った。


「寝てる。でも、包帯は巻かれてないから、もうすぐよくなるのかな?」


 ライトはラルフさんの顔を見ながら呟く。


「ラルフさんは体のどこも悪くないの。ただ、頭にちょっと後遺症が残っちゃって。目を覚まさないんだ」


「頭に後遺症。目を覚まさない……」


 ライトの表情が暗くなる。


「ラルフさんはまだ生きてるんだけど、目を覚ます確率は限りなく低いの。私がもう少し早く助けていればよかったんだけど、無理だった……」


 私はラルフさんの病室に来ると、どうも自分の不甲斐なさで涙が出てくる。


「姉さん。でも、生きてるならまだ何とかなるよ。きっとよくなるって」


「私もそう信じてる。セチアさんもそう信じている。ラルフさんは今、目を覚ますかもしれない。数年後かもしれない。はたまた何十年後かも。もしかしたら一生目を覚まさないかもしれない。ただ……私はラルフさんが生きて動いていた時を知ってるから、よけい悲しくなっちゃって……。セチアさんは自分に負い目を感じてる。でも、ラルフさんに目を覚ましてほしいと言う気持ちは同じ。ここに来て毎回、頑張ろうと思うの。少し不純だけど、同じ思いをしたくないからって」


「そうなんだ。でも、ラルフさんも幸せ者だね」


「何でそう思うの?」


「だって、待ってくれている人がいるんだよ。早くよくなってほしいと思ってくれる人がいる。それだけで、幸せ者だって思わない?」


「まぁ、そう言う考え方も出来るけど、私としては可愛そうって思う。大切な時間が寝ている間に流れていく。それを考えただけで私は耐えられない」


「姉さん、時間を本当に大切にするからな~。でも、お休みの日は寝て過ごしている時が多いような気がしているんだけどな~」


 ライトは後頭部で腕を組み、白々しく話す。


「う……。ま、まぁ、時と場合によるんだよ」


「姉さん。確かに時間の流れは僕達に止められない。ラルフさんも寝ている間に時間は過ぎていく。それが悲しいか悲しくないかは当の本人が決めることであって、姉さんが苦汁を感じる必要はないと思うよ。ラルフさんもそう思っているはずさ」


「ライト……」


「ま、八歳児の甘い考えだよ」


「甘い考えでも、言われてみてそうかもって思わされた。心配してくれてありがとう。でも、この悔しさは私を強くする。だから、甘い考えは受け入れられない」


「姉さんならそう言うよね。僕は辛いのがあんまり好きじゃないから、楽観視しちゃうけど、姉さんは自分の道を進む。それが、どれだけ苦しいのか分からない。でも、そんな姉さんが僕は大好きだよ。すごくカッコよくてさ、僕の憧れなんだ」


「はは、そんなふうに言われると恥ずかしいな……。って、長居していられないんだった。ライト、病院を早く出るよ」


「う、うん」


 私が病室を出る前に見たラルフさんの表情は穏やかに少しだけ笑っていた。


 私達は病院内を早歩きで移動し、病院を出る。そのまま厩舎に向っていき、レクーを出したあと、荷台にひもで繋ぎ、手袋をはめる。荷台の前座席に乗り、レクーを走らせた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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