フロックさんとライト
「ご、ごめんなさい。フロックさん。でも、私は嫌いじゃないですよ。まぁフロックさんだったら大きかろうと小さかろうとどっちでもいいんですけど……。身長なんて気にする必要ないですって。何なら、奇跡的に伸びるかもしれないじゃないですか! 諦めるのはまだ早いですよ!」
私は両手を握りしめてフロックさんを応援する。
「姉さん、なに熱くなってるの?」
「え、ああ、いや。別に、何でもないよ。フロックさんが落ち込んでたから慰めようかと思っただけ」
「俺はお前に落ち込まされてるんだけどな……」
「えへへ~、それほどでもないですよ」
「褒めてねえよ。いったいどこで褒められたと思ったんだ」
「ま、茶番は置いておきましょう。これ、お見舞いに持ってきた果物です。よかったら食べてください」
――ベスパ、フロックさんの手もとにバスケットを置いてくれる。
「了解です」
ベスパはフロックさんのもとに大きなバスケットを置いた。
「色々入ってるな。ありがとう。俺、果物が好きなんだよ」
フロックさんはバスケットを覗き込み、子供のような笑顔を浮かべる。
「ほんとですか! 良かったです。フロックさんに何を持って行こうかずっと迷っていて結局無難な果物になっちゃったんですけど、フロックさん、果物が好きだったんですね。でも、なんか可愛らしい……」
「うるせえ。好きなもんは好きなんだよ」
「ライト、フロックさん達が食べやすいように切ってあげて」
「分かった」
「うおっ」
ライトはフロックさんの持つ、バスケットの中からゴンリとシトラスを浮かび上がらた。
「『切る(カット)』」
ライトが詠唱を言うと、風の刃がゴンリとシトラスをシュシュシュっと切り裂き、食べやすい、くし形切りにした。
「おいおい……。誰だよ、そいつ。いきなり、わけ分からねえくらい正確な魔法を見せつけてきやがってよ」
フロックさんは腕を組んでライトを睨みつける。
「フロック、どう見てもレディーの家族でしょ。顔がそっくりだ」
カイリさんがやれやれと言った表情でフロックさんに話す。
「は? キララはこんなカッコいい顔してないだろ。もっとバカっぽい感じだ」
――ば、馬鹿っぽい……。私、フロックさんに馬鹿っぽい顏って思われてたの。なんか衝撃なんですけど。
「フロック、もう少し言葉遣いを治した方がいい」
「何でだ? 二人は子供なんだからため口でもいいだろ」
「それは確かにそうなんだが……。どうも子供っぽくないと言うか、大人っぽいと言うか……」
カイリさんは苦笑いをしながら、私の方を見てくる。
「それで、お前は誰なんだ?」
「初めまして、僕の名前はライト・マンダリニア。姉さんの弟です」
「弟……。キララ、お前に弟がいたのか?」
「はい。あと妹もいますよ」
「へぇ、そうだったのか。まあ、家族くらいいるよな。で、ライトの歳はいくつだ?」
「僕の年齢は八歳です。つい最近、八歳になりました」
「八歳……。今の魔法を使ったのが八歳。なぁ、カイリ、どう思う?」
「うん……。規格外としかいいようがないね」
フロックさんとカイリさんは、冗談だろ……と言いたげな表情をしていた。
「ん? 二人はなぜ驚いているんですか?」
ライトは訳も分からず二人に質問した。
「ライト、お前は二つの魔法を一度に使えるのか?」
フロックさんはライトに質問する。
「え、まぁ。浮かせると切るの魔法を使いましたけど。それが何か?」
「二つの魔法を一気に使うのは高ランクの魔法使いでも難しい技術なんだ。スキルと魔法であればだれでもできる。でも、魔法と魔法を一気に使うなんてそうそう出来ない」
カイリさんはライトと高ランク魔法使いを比べて話した。やっぱり、ライトは規格外らしい。
「へぇー。そういうものなんですか。知りませんでした。では、普通の人は二つの魔法を使いたい時どうするんですか?」
「誰かに補助してもらうしかない。それくらい、二つの魔法を一気に使うのは難しいんだ」
――えぇ、そうだったの。私も、二つの魔法を合わせて時々使ってるけど、あれって難しい技術だったんだ。確かに練習しても中々上手くならないからな。ライトなんて特効薬を作る時に三つの魔法を使って三工程踏んできたのに……。こんなことをフロックさんとカイリさんに言ったら嘘だと思われそう。
「ライトはまだスキルを貰っていないんだろ?」
「はい。貰っていませんよ。まぁ、期待はしていませんけどね」
「はは……、既に才能に恵まれているとそう言った余裕も出るよな……」
「フロック、才能だけで凄さを決めつけてはいけないよ。ライト君はきっととんでもない努力をしている。私には分かる。子供が魔法を使うには遊ぶのも我慢して努力するしかないからね」
「まぁ、人並みに努力しているつもりです。でも姉さんがいたから僕はここまで魔法を使えるようになりました。姉さんがいなかったら僕は非力な体で薪割りをする羽目になっていたと思います。でも、魔法の楽しさを知ったので今の自分がいます。どれもこれも、姉さんのおかげなんですよ」
――ライト、だから私の評価高すぎ。私はライトも魔法が使えたら練習相手が出来るなー、くらいの気持ちで教えてたんだけど……。
「話し方からしても賢さがにじみ出てるな……。キララの弟。本当に八歳児か? まぁ、一〇歳児とは思えない姉を持てばこうなるのも必然なのかもな。どーせ、妹の方もどこかぶっ飛んでるんだろ?」
フロックさんは後頭部に両腕を持っていき、組む。
「凄いですね、フロックさん。当たっていますよ。僕の双子の姉は身体強化なしで地面を陥没させます。ただ走るだけでバートンよりも速いんです」
「はは……、嘘くせーけど、本当なんだろうな。ま、今度お前らの村に行くからその時に合わせてもらう。そんな化け物みたいなやつがいるなら丁度いい鍛錬が出来そうだ」
フロックさんは戦闘狂なのだろうか、強そうな相手がいると分かるや否や口角をあげて笑っていた。
「双子の姉は僕が身体強化や他の魔法を使いまくらないと互角に戦えないくらい強いので、今のところ姉さんと剣聖のアイクさんしか勝った相手がいません」
「何で、ここで剣聖が出てくるんだ?」
「剣聖のアイクは私達の住んでいる村にある教会で剣聖の加護を貰ったんです。なので私達とは幼馴染なんですよ。ただ、アイクはスキルを貰った次の日に王都に連れていかれましたけどね」
「はぁー、剣聖と接点があったとはな。加えて幼馴染か。ん? カイリ、剣聖って年は一〇歳だよな?」
「ええ。今年で一一歳になるけどね」
「じゃあ、キララの聖典式に剣聖も参加してたのか?」
「ええ、それはもう凄い盛り上がりでしたよ。剣聖のスキルの名が出た時は……」
「で、お前のスキルを呼ばれた時はどうなったんだ?」
「そりゃ~もう、すっごい静まり返りました」
「ハハハ、だろうな!」
フロックさんはお腹を抱えて笑い出した。身長を弄られた腹いせに、私を弄り返してきたのだ。
「ちょっと! そんなに大笑いしないでくださいよ」
「そりゃあ、剣聖の次に呼ばれるスキルなんてどれもかすんで見えるだろ。賢者や聖女ならよかったのにな。ま、キララにはどっちも似合わないけどな」
「フロック、そんな奇跡的な聖典式があるかい? もしあるのなら行ってみたいよ」
「俺もだ。まぁ、お前ら二人がどちらも規格外なのは分かった。キララが姉なら、ライトが道を踏み外すこともない。姉がしっかりしすぎているからな。ライトにとってキララは追いがいのある背中だろ」
「それはもう、追ってもおっても追いつけなそうですよ」
――いや、もう抜いてるって。何なら突き放されてるよ。
「ライト、キララの高火力な魔法を知ってるか?」
「姉さんの爆発魔法なら知ってますよ。僕じゃあそこまで大きな爆発は作れません」
「いや、爆発も凄いが大地を裂き、天高く浮かぶ空島を真っ二つに切り裂いた魔法だ」
「え、姉さんいつの間にそんな魔法開発したの! 僕も見たい!」
ライトは私の方を見て眼を輝かせていた。
「い、いや、あれは……危ないから。というか、フロックさん見てたんですか」
「あんな魔法はどっからでも見えるだろ。さすがにぶっ飛んでる火力だったからな。カイリのバリアでも防げるかどうか分からない」
「いや、フロック。多分あれは無理だ。魔力が満タンの時で軌道をずらせるかどうかって威力だったよ」
――ど、どうしよう。超高圧熱放射が見られてた。あんな魔法使う女の子なんていないよ。そりゃ女騎士の四人に男の子っぽいと言われてもおかしくないか。
「あ、あの、フロックさん、カイリさん。一つ質問してもいいですか?」
「何だよ、キララ。改まって」
「私は女の子っぽいか、男の子っぽいか、どっちですか? 正直にお願いします」
「……」
「……」
フロックさんとカイリさんは顔を見合わせた。
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