気球ならぬ、ビー球
「キララ様に籠の中に入ってもらって私達が引っ張り上げます。そうすれば、キララ様は空を飛べるんですよ」
ベスパの説明を解釈するに、私を籠に入れて宙ずりにして運ぼうって言っている。まぁ、気球と同じ方法で空に飛びたとうとしている。
――えっと、ありがとうベスパ、でも私はいいや。だって、あまりにも多いからさ……。
「え? そうですか?」
籠の真上には真っ黒な球体が三つほど浮かんでいた。そのすべてがビーだと思うと私の脚は止まる。私以外には見えていないらしいが、異質すぎるその物体に視線すら向けられない。
「皆、キララ様と一緒に行きたいと言っているんですが、駄目ですかね?」
――うん。ダメ。無理。絶対に気絶して景色どころじゃないよ。すぐそこに大量のビーがいると思うだけで冷や汗がすごいんだから……。
私の額にはポツポツと汗が浮かび上がり、手の甲で拭う。
「そうですか……。なら仕方ないですね。今回の作戦は失敗のようです」
ベスパはあからさまに落ち込んでいた。
背中を丸めて落ち込む姿を見ると、私の為に考えてくれていたのかと思い、少しいたたまれなくなった。
――ベスパ、私は乗れないけど、他の人を乗せてあげられる?
「他の人ですか?」
――うん。ここにいる女騎士さん達に見せてあげなよ。八八八八メートルの景色。
「そうですね。せっかく運んだので何かしないともったいないですし、この際、キララ様じゃなくてもいいです」
ベスパは開き直り、自分の考えを実行しようとしている。
「皆さん。少し時間いいですか?」
私はライトにじゃれている女騎士さん達に話しかけた。
「ん?」×ミリア、トーチ、マイア、フレイ
「グラウンドに大きな籠があると思うんですけど、あの箱に乗って空の景色を見てきてください。絶対に安全なので怖がらなくてもいいですよ。空の景色なんてめったに見れるものではありませんから」
「と、トーチ、ど、どうする……」
ミリアさんは既に怖がっている。
「キララちゃんが安全だというのだからきっと安全なのだろう」
トーチさんは私の発言をしっかりと信じてくれているようだ。
「でも、空に行くって怖くないですか……」
マイアさんは高い所が苦手なのかもしれない。
「ですが、こんな好機ありませんよ」
フレイさんは結構乗り気だ。
「んーー」×女騎士達。
四人は腕を組み、真剣に悩んでいた。
――まぁ、いきなり空に行くなんて怖いだろうし、乗ったらいいことがあると付け加えてみるか。
「皆さん、空の景色を知っている女性になれますよ。上空からこの世界を見たらどんな風になっているのかをしている女性なんてほとんどいません。他の人より男性と話せる種が増えます。どうですか、乗ってみたいと思いませんか?」
「の、乗りたい!」×女騎士達。
――ちょ、ちょろい……。この人達、悪い男に騙されないといいな……。
「なら、籠に乗ってください。空の旅にご招待します」
女騎士達は大きな籠に向って全力疾走をして、飛び乗った。
「それじゃあ、皆さん。空の旅に、行ってらっしゃ~い!!」
私は某夢の国の住人らしく、笑顔で四人を見送った。
――じゃあベスパ、後は四人をよろしくね。
「了解しました」
ベスパは浮き上がる気球ならぬ、ビー球を先導しどんどん浮上していった。
「姉さん、あんな乗り物いつ作ってたの?」
ライトはビー球を見ながら呟いた。
「さぁ、いつ作ってたんだろうね。私にも分からないよ」
「いい加減だな……。姉さんのその帽子だって僕は朝に初めて見たよ」
「だって、今朝作ったんだもん。可愛いでしょ~」
私はアイドルの写真集のような姿勢をとる。少し前屈みになり、手を膝の上に置く、麦わら帽子の唾を左手の親指と人差し指で挟んで少し持ち上げた後、満面の笑みでライトを見た。
「いらないよ、その姿勢。それより、あの籠は大丈夫なの?」
「心配ないよ。あの四人がどんな表情で帰ってくるのか凄く楽しみ」
私は女騎士達が帰ってくるまでの間、暇になったので食堂にでも向かった。
「姉さん。食堂に勝手に入ってもいいの?」
ライトは思って当然の質問をしてくる。
「勝手に入ってもいいかなんて知らないよ。でも、入ってはいけないのなら、私達はとっくにはじき出されてるでしょ。でも、誰も何も言わないんだからいいんじゃない?」
「また、いい加減な発言して……。姉さんはそう言う所があるよ。もっと先を考えてさー」
「先を考えて動かないより動いた方がいいでしょ。私は考えながら動く。たまに動きが先に着ちゃうけどね」
「姉さんは行動しすぎだよ。じっと待っていられないの?」
「じっとしてると時間がもったいなく感じちゃって……」
「ほんと姉さんは時間に厳しいよね。僕達が仕事するとき、一分一秒遅れただけでもおこるじゃん。何であんなに怒るんだよ」
「仕事は時間通りに行うのが当たりまえ。遅れたらあとにしわ寄せが来ちゃうでしょ。時間通りに始めて時間通りに終わる。そうすれば体が上手い具合に集中力を持続してくれるんだよ。仕事中は仕事、遊ぶときは遊ぶ、鍛錬の間は鍛錬に集中! 何事もめりはりが大事なんだよ!」
私は日本人の当たり前を未だに貫いており、仕事人間だと家族に思われてしまっている。
「はいはい、分かってますよ。僕も姉さんと同じような生活をしているからさ、確かに何も決めないで動くよりかは集中できていると思う。でもさ、今は何をしているの?」
ライトは私の持っている木製のお盆を見て聞いてきた。
「何って、食事にしようと思ってるよ。ここにお盆があるでしょ。お盆を持って食堂にいるおばちゃんにくださいって言えばくれるよ。多分……」
「今は女騎士さん達を待つ時間じゃないの? いつの間に食事の時間になっちゃったの?」
「だって、三○分以上も待てないよ。食事が取れるなら取っておこう。時間がもったいない」
「姉さんってきっちりしているのかせっかちなのか分からないな……」
「どっちもだね」
「それって男っぽいんじゃ……?」
「え? なんか言った?」
『ドドドドドドドドドドド……』
またもや地震が起きた。珍しい、そんな頻繁に地震が起きるなんて。
「い、いえ。何も言ってないですよー。そんな女子も可愛いなーって」
ライトは冷や汗だらだらで声を張り上げる。
「そう。ならいいんだけど」
私が周りを見ると多くの騎士が腰を抜かして倒れている。地震がそんなに怖かったのかと思い、皆に声をかけた。
「皆さん、安心してください。地震なんて火山があれば頻繁に起こりますからー」
「姉さんが火山なんだよな……」
私とライトは食堂のおばちゃんにパンと水、野菜と干し肉の入ったスープを貰い、開いている席に座った。
「ねー、もらえたでしょ」
「まぁ、もらえたけど……。いいのかな……」
「いいんだよ。別に犯罪をしている訳じゃないんだから。ダメならダメって言われるって」
「そうだけど……。まぁいいか。お腹減ってるし、食べちゃおう」
「そうそう。無駄な思考はせず、流れに身を任せる。それもまた世の中を楽にいきられる方法だよ。でも、楽な生き方ばっかりしているとつまらない人生になるから気をつけてね」
「姉さんは自分の道を行きすぎだよ……」
「楽しいんだから仕方ないでしょ。楽と楽しいは全然違うの。さ、皆が帰ってくる前に食べきっちゃうよ」
「うん」
「いただきます」×キララ、ライト。
私達は騎士団の食事を美味しくいただき、食堂を出てグラウンドに向った。
「あ、姉さん。籠が戻って来てるよ」
ライトは籠を指さして小走りになった。
「ほんとだ。皆は楽しんでくれたかな?」
私も小走りになり、ライトについていく。
「どうだろう、高い所が苦手な人が行ったら失神するくらい怖いと思うけど、女騎士さん達はどうかな」
「キララ様。ただいま戻りました」
ベスパはやり切ったという表情をしており、とても清々しい顔をしていた。
――お帰り、皆はどうだった?
「泣いて喜んでいましたよ。それはもう、絶叫するくらい楽しんでいました」
――それは普通に怖がってるよね~。
私は籠の入り口に向い、女性たちがどうなっているのかを見た。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ。すごく良い景色だった……。でも、道中が怖すぎるよ~~!」
ロミアさんは涙目で震えている。
「じ、実際。空の景色は目の奥に焼き付いている。だが、行くまでの道中の恐怖も体に刻み込まれてしまった……」
トーチさんも涙目で震えていた。
「こ、これはあれですね。男性と一緒に見れたら一番楽しいやつです……」
マイアさんはフレイさんに抱き着き、涙目になっていた。
「そ、そうね。誰か頼れる方と一緒に乗りたかった……」
フレイさんはマイアさんに抱き着き、涙目になっていた。
皆さんは顔色がすぐれておらず、どうやら絶景よりも恐怖の方が勝ってしまったらしい。
「皆さん。とりあえず、深呼吸をして落ち着きましょう」
四人の女騎士は呼吸を整えて立ち上がり、籠から地面に下りた。
「ふぅ……。少しずつ落ち着いてきたよ。キララちゃん貴重な体験をさせてくれてありがとう。これでちょっとは話のネタが出来たよ」
ミリアさんは私に頭を下げてお礼を言ってくれた。
「そうですか。よかったです。あ、そうそう、昼食を早く得ないと昼休憩がもうすぐ終わりますよ」
「なっ! それはまずい! 皆、急ぐぞ! キララちゃん、ありがとう。ライト君もまた会おうじゃないか」
トーチさんは物凄い勢いで走って行った。
「もう、待ってくださいよー。今、腰が抜けて上手く走れないんですけど!」
マイアさんはチョコチョコ歩きしか出来ず、ペンギンのようだった。
「仕方ないわね、私が肩かしてあげるわ。さっさと昼食を得て体力を回復させましょう」
フレイさんがマイアさんを担ぎ、運び始める。
「ありがとう、フレイ」
「お礼はいいから。じゃあ、キララちゃん、またね」
「はい。鍛錬頑張ってください」
女騎士の四人は食堂の方に向って行った。
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