相手の眼を見ればやる気が分かるスキル
私はベスパの指差す方を見た。
――うわ、たくさんの人……。というか、バートン車ばっかり。食料とかを運んでいるのかな?
「その可能性が高いですね。資材なども含まれていると思います。街の行政が全く働いていないので、騎士団が代わりに動いているようです。といっても行政にいたのは領主ただひとりだったので、独裁されていたわけですから、街の在り方が大きく変わると思われます」
――そうだね。多分、ドリミア教会の人たちが街の行政を回してたと思う。領主は言いなりみたいな操り人形だったし、政治家らしい人は見当たらなかったからさ。
「私もそう思います。今、この街は騎士団という市民の集まりによって回り始めているようです。なので、街の人を考慮した政策になるかと思われます」
――そうなるといいね。まぁ、騎士団の後ろにも正教会がいるんだけどね。
「さ、ライト。私達も並ぶよ」
「うん!」
私達は荷台の前座席に座り、騎士団に入っていくバートン車の最後尾に着いた。
現在の時刻は午前九時頃、レイニーから貰った白パンをライトと分けて食べ、小腹を満たす。
「姉さん! この白いパンすっごく美味しいんだけど!」
ライトは少し千切った白パンを口に放り込んだ。すると眼の色を変えて白パンに齧り付く。
「あれ? ライトはオリーザさんの作った白パンを食べたことなかった?」
「ないない! いつも食べているのは硬い黒パンでしょ。白パンも食べた覚えはあるけど、こんなに美味しくなかったよ」
「やっぱり、温かいと美味しく感じるんだよ。冷たいスープより暖かいスープの方が美味しく感じるでしょ」
「まぁ、そうだけど……。というか姉さん。こんなに美味しいパンがあるなら毎回買って帰って来てよ!」
「いやー。毎回いっぱい貰って帰るんだけど、美味しくて食べちゃうんだなー、これが」
私は頬をポリポリと掻いて苦笑いをする。
「はぁー。姉さん、太ってもしらな……」
「え? なんて?」
『ドドドドドドドドド……』
地面が揺れ、地震のような被害に街は見舞われる。
「な、何でもないよ……」
ライトは冷や汗を掻き、何か言いかけていのに口をつぐむ。
「そう。ならいいよ」
ほんの数秒間だけ、建物が揺れ、周りの人が驚いていた。
「ねえ、今、地震があったよね。もう通り過ぎちゃったのかな?」
「そ、そうだねー。姉さんの感情みたく浮き沈みが激しいんじゃないかな……」
「そんな地震があるわけないでしょ」
ライトの顔は血液が回っているのか、心配になるほど白かった。
私達が並び始めてから三○分。入口の審査を受けられるところまでようやく来た。
私は騎士のおじさんに審査される。
「今日は何のために来たんだ? あと名前も言ってくれ」
「研究員のスグルさんに物資を届けに来ました。キララ・マンダリニアです」
「よし。名簿に名前がちゃんとあるな。では、物資の方を見させてもらう」
「はい」
騎士のおじさんは荷台の後ろに回り、帆を開けて中身を覗いた。
「うん……。危険な物は乗っていないようだな。よし、通っていいぞ」
「ありがとうございます」
私達は騎士団の入り口を通り、レクーに荷台を引いてもらいながら進む。
「食材の物資を運んできた方はこちら、木材などの建設物資を運んできた方はあちらに進んでください」
腕や脚に怪我をした騎士の人たちが誘導を行っていた。そこまでして仕事がしたいと思えるなんて心境の変化でここまでやる気が変わるものなのかと痛感する。
私としてはしっかりと休んでほしいのだが、やる気のある人に休んでくださいなんて言えなかった。
「すみません。研究用の物資はどうしたらいいですか? あまり大きくない物資なんですけど……」
「それなら、道を外れずにこのまま真っ直ぐ進んでいただいて基地の入り口から、そのまま研究室に運んでください」
「分かりました」
私は騎士の誘導に従い、真っ直ぐ進む。
「姉さん、騎士の人たち怪我してたのに働いてたよ。そんなに厳しい所なのかな?」
「あぁ、あれはただ仕事がしたくてしてるだけだと思うよ。眼を見れば分かるでしょ」
「いや……。分からないよ。そんなの」
「そう? やる気に満ち溢れているかどうかなんて、眼を見ればすぐわかるよ」
「凄い……、スキルみたいだね」
「まぁー、スキルと言えばスキルだね」
――人を観察してきた私の技術。そう言った感じでスキルだと思われても仕方ないか。
「あっちで訓練している人達は凄い熱気だし、騎士団ってこんなに熱い所だったんだ。もっと冷静な冷たい感じだと思っていたよ」
ライトはグラウンドの方にいる騎士達を見て言った。
「ちょっと前まではライトの言う通りだったよ。というか、番犬みたいな感じだった」
「番犬……。忠実って意味?」
「そうだね。でも最近、主がいなくなって番犬から狂犬になったんだよ」
「いや、ダメじゃん。悪くなってるよ」
「悪くないよ。狂犬は悪いやつに噛みついていく強さを持っているんだから」
「でも、悪くない人にも噛みつくよ」
「まぁー、例え話だからさ、深く考えないでいいよー」
私はライトの肩に手を回し、話を切る。
「姉さんは軽はずみな発言を避けないと、誤解を生みかねないよ……」
私達は基地の入り口に到着した。
「さてと。ここからは歩いて行くよ」
「うん、分かった」
「レクーは、他のバートン車が来たら、上手く避けてあげてね」
「はい。もちろんです」
私はレクーの頭を数回撫でて感謝を伝えた。
――ベスパ、クーラーボックスを運んでくれる。あと、入口からスグルさんのいる研究室までの道順を教えて。
「了解です」
ベスパはクーラーボックスを荷台から出して私の前方に飛んで行く。
「じゃあ、ライト。あのクーラーボックスについていくよ」
「うん」
私達はベスパを追い、基地の中に入っていった。
「へぇ……。騎士団の中ってこんな風になっているんだね。僕、初めて入るからドキドキするよ」
「ライトは騎士に興味あるの?」
「別に無いよ。でも、あのキラキラした感じは男心くすぐられるんだよね。鎧とか、武器とか。僕は貧弱だからさ。男らしいものにちょっと惹かれるのかも」
「なるほどね。でも、ライトは『身体強化』を使えばシャインまさりの怪力になれるんだから、力持ちも同然なんじゃないの?」
「いや『身体強化』はそこまで万能じゃないよ。魔力は沢山食うし、練習しないとうまく使いこなせない。加えて、元の体が弱いと反動で余計な怪我を招く。僕は扱える範囲ギリギリで魔法を使っているだけ。本当はもっと強く出力できるけど、やったら僕の骨がバキバキに折れると思う……」
「えぇ……。『身体強化』って難しい魔法だったんだ。じゃあ、シャインが『身体強化』を使えたらどうなるの?」
「聞きたい?」
ライトの表情は暗く、重く、怖くなった……。
「な、なに。その反応。どうなるか分かるの?」
「ちょっとだけ試した覚えがあるんだ。シャインが『身体強化』を使えたらどうなるのか」
ライトは淡々と話す。
「う、うん」
「『身体強化』も付与魔法の一種だから、シャインの体にも一応付与できるんだ」
「それで……どうなったの?」
「モークルの雄、八頭以上の怪力に跳躍八メートル、八八八メートルを八○秒で走る速度と八時間走り続けられる体力」
「す、すごい……。さすが『身体強化』の力……」
「今、僕が言ったのはシャインが手を抜いた身体能力だよ」
「ん? あぁ~うん。もういいよ。言わなくて……」
「え? 聞かなくていいの。計算上、シャインが本気を出せば山が潰れるみたいな話をしようと思ったのに……」
「うん、聞かなくてよかった」
私はシャインを改めて化け物だと仮定し、可愛らしい妹を怒らせないよう肝に銘じる。
「さてと、建物内の雰囲気が変わってきたからもうすぐ着くと思う」
「そうなんだ」
私は見覚えのある通路に入り、ベスパが扉の前で停止しているのを見つけた。
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