レイニーとライト
私達は騎士団の前から移動し、レイニーに話しかける。
「レイニー、七日前に魔法を教えてあげるって約束をしたから、私達は仕事の終わりに教会に行くよ。今日はライト大先生がいるから、初回にして超お得な魔法上達方を教えてくれるよ! 良かったね!」
「な、ライトも魔法が使えるのか! キララの弟ということは一〇歳よりも年下ってことだろ」
「はい。僕は八歳です。レイニーさんはいくつですか?」
「じゅ、一四歳……」
レイニーは視線をそらし、恥ずかしそうな表情をする。
「へぇー。身長が高かったのでうすうす気づいていましたけど結構年上の方だったんですね。でも安心してください。魔法の扱いはコツさえつかめば簡単です。僕の教えている子達もすぐに簡単な魔法を使えるようになりました。なので難しく考えないでください」
「キララ、ライトの言葉は本当か?」
レイニーは怪しい勧誘なんじゃないかと疑っているようで、眼を細め、私に聞いてくる。
「うん。事実だよ。じゃあ、ライト。レイニーに良い魔法を一種類教えてあげようか」
「お、教えてくれ。今すぐ!」
レイニーはすぐに食いついてきた。
「ん~そうだな~。銅貨三枚払えば、一生使える魔法を少し教えてあげる」
「おいおい、金とるのかよ……」
「知識はお金より価値があるからね~」
「このガキ……。って、銅貨三枚……」
レイニーは自分の持っている木の箱に視線を移した。
「そ、銅貨三枚。私達、お腹がすっごく空ているの。だから、美味しいパンを譲ってくれませんか~」
「わ、分かった。パン代は俺が払う」
レイニーはオリーザさんの作った白パンをライトに手渡した。
「ありがとうございます。じゃあ、今日教会で教える魔法を見せますね」
「あ、ああ。どんな魔法なんだ?」
「詠唱は『熱』効果は物体を温める魔法です」
ライトは火属性魔法の応用で一番簡単な魔法を使った。
手もとに魔法陣が浮かび、白パンから湯気が出る。
――ライトは簡単ってやっているけど、私は燃やし尽くしちゃうから、まだ無理なんだよな。
「キララ様は魔法に関して色々と不器用ですからね。特に火力の調節とか」
――悪かったね。不器用で。
「温め終わりました。では、少し千切って……。レイニーさん、どうぞ食べてください」
「分かった」
レイニーはライトからパンを貰う。
「あっつ! な、何でだ!」
「いま、温めたからですよ。出来立てのパンくらいの熱さになっているので熱いのは当たり前じゃないですか。ま、原理を言うとパンを振動させて熱を生み出しているって感じですかね」
「そ、そうか。じゃあ、食べるぞ」
レイニーは小さく千切られた白パンを食べる。
「うま……。これはもう、出来立ての味じゃないか……」
「そう。レイニーがこれを覚えれば、どこでも美味しいパンが配れる。今の仕事にピッタリでしょ。魔法の練習にもなるし、一つで二度美味しいね」
「何だよそれ……。だが、これは使えるな。美味しいパンが売れれば、給料も上がるし、子供達にも出来立ての美味しいパンが食わせてやれる」
「うん。だから、死に物狂いで頑張ってね。ライトは結構厳しいから、途中で燃え尽きないよう気をつけて」
「え……? 燃え尽きる?」
「レイニーさん。頑張りましょう。僕、レイニーさんにいっぱい魔法の基礎を教えますから、脳内に叩き込んでください。レイニーさんが気絶するまで何度でも魔法の練習をしましょうね」
ライトは満面の笑みでレイニーを追い込む発言をした。
「えっと、キララ……。俺、死なないよな?」
「多分。うん、ライトの指示にちゃんと従っていれば死なないと思う」
「全然信用ならねえじゃねえかよ……」
「安心してください。人はそう簡単に死にませんから」
ライトは天使のような笑顔で悪魔のような黒い眼をする。
「き、キララ。ライトの性格が変わってるぞ……」
「ライトは魔法の話になると人が変わっちゃうんだよ。まぁ、それだけ大好きってことかな」
「意識がぜってーに違うだろ。人が変わるとか大好きの域が超えすぎてるんだよ!」
「でも、ライトに習えば特殊な体質以外、絶対に魔法を使えるようになるよ」
「うぐぐ……。分かったよ。俺は子供達のために金を稼がねえといけねえし、マザーのために強くもならないといけない。それには魔法が必要なんだ。どんな鍛錬でも耐えてみせる。だから、ライト、キララ、俺に魔法を教えてくれ」
レイニーはライトと私に頭を下げる。
「もちろんですよ。あ、でも……。大っぴらに魔法を教える行為は正教会によって禁止されているみたいなので、レイニーさんにのみ、特別にお教えすることになります。他の子供達にはなるべく教えないようにしてほしいんですけど、もし、万が一、まさか、いろいろあって、最悪見られてしまったら仕方ないので無視するようにお願いします。あ、小声でなら練習の方法を発音してもいいですよ」
「それって……」
「レイニーさんの練習を見て魔法を覚えてしまった子がいたら仕方ないですよね。魔法を使っていたお兄さんを見て覚えてしまったんですから。別に教えている訳ではないですし、たまたまその子が賢かっただけなんですよー。ね、姉さん」
ライトは魔法を教えられないと言う状況を打破しようと、法律の間をすり抜けながら子供達にも魔法を教えてあげられるよう助言した。
「そうだねー。私はお母さんからちょっとしたコツを聞いただけだし。ライトは私の魔法を見て独学で勉強してたもんねー。教会の子供達がレイニーの練習を見ないとは限らないから、気をつけてもらわないとー」
私達はとぼけた感じで会話をする。どうも、バカバカしい茶番だが、こうしないと私達が犯罪者になってしまうのだ。
「あ、ああ。そうだな。子供達は俺のこと大好きだから、見られないように努力するよ。あ、だが、教会の中だと危ないから外の人目につかない所で練習するぜ」
「いいんじゃないですかー。じゃあ、今、魔法の基礎の基礎だけでも伝えておきますね」
ライトはローブの中から一枚の紙を取り出し、指を走らせる。
すると、黒い魔法陣が浮かび上がり、紙に定着した。
「この紙に書かれている魔法陣はさっき使った『加熱』です。この魔法陣に意識を集中させ続けてください。体の中にある魔力を送り込むことで魔法陣は発動します」
ライトは紙に魔力を流し込む。すると、黒色の魔法陣は赤く光った。
「魔力を流すこと自体よく分からないんだが……」
レイニーは首を傾げた。
「今は魔法陣に魔力を流すと発動するという、基礎の基礎を教えただけなので気にしないでください。配達しながら魔法を発動させるには集中力が必要なので、一日中この魔法陣に集中し続けてください。僕達が教会に向うまで、気絶するくらい集中してみてくださいね。では、木箱の下に張り付けておきますから」
ライトは木箱の下にもぐり、魔法陣の描かれた紙を魔法でくっ付ける。
「木箱が燃えたりしないのか?」
「大丈夫です。少し温まる程度なので安心してください」
「わ、分かった。とりあえず、この木箱に意識を向けていればいいんだな」
「はい。でも、周りをよく見てくださいね。そうじゃないとバートン車に跳ね飛ばされますよ」
「そうだな。周りにも気を配らないといけないのか、加えて配達も……。初めから厳しいな」
「でも、これさえできれば魔法の基礎はほぼ出来たのも同然です。じゃあ、頑張ってくださいね」
「ああ、頑張ってみる。それじゃあ、俺は午後三時三○分頃に仕事が終わるはずだ。教会には午後四時くらいに着くはずだから、その時に教会に来てくれ」
「分かりました。姉さん、午後四時で大丈夫かな?」
「うん。午後四時なら問題ないよ」
「なら、よろしく頼むぜ。俺は仕事頑張ってくるからよ」
レイニーは周りを見渡しながら走っていった。
「はい。お仕事頑張ってくださいねー」
ライトはレイニーに大きく手を振り、見送った。
――まさかあのレイニーが働いているなんてね。オリーザさんのお店で働かせてもらえるなんて幸運じゃん。でも、犯罪紛いな行いをしてきたレイニーが一生懸命に働いているところを見たら、ちょっと感動しちゃった。
「キララ様。騎士団に早く行かないと大勢の人で溢れかえってしまいますよ」
ベスパは騎士団の入り口を指さす。
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