将来が有望そうな弟
――ライトが心配するのも無理はないか。でも私の精神年齢は地球と合わせたら三十路を超えてるんだよな……。私、心はもうおばさんじゃん。相手の年齢が二○歳でも少し子供っぽいって思ってしまうのは、私の心が年を取り過ぎているからなのだろうか。心と体の差が開き過ぎているんだよな。まぁ、私が死んだのは二一の時だから、二○歳ぐらいの相手が理想なんだよね。
「ライトの質問だけど……私は歳が離れていても別に構わないよ。愛に歳なんて関係ないんだよ。多分だけど……。でも、そんな素敵な人とまだ巡り合えてないんだ~」
「姉さんが別にいいなら、僕は何も言わないよ。まぁ、姉さんならどんな男の人でも尻に敷きそうだけどね。母さんみたいに」
「それは私を褒めてるの?」
「さ、さぁー」
ライトは私から視線を逸らす。
我が家、マンダリニア家はどうも女の方が力強い。お母さんもお父さんをいつも尻に敷いている。
シャインも物腰が柔らかそうに見えて気になる男子にはグイグイと攻撃する肉食系っぽい。私はただただ好奇心が旺盛な女の子。
いつまで経っても若々しくいられたらいいのにと願う中年のおばさんに近づきつつある三十路の元アイドルという肩書付きだ。
「さ、もうすぐ街に着くけど、ライトは自分の力を自重してよね。そうしないとみんな驚いちゃうんだから」
「自重って……。姉さんの知り合いは姉さんを見て知っているんだから、僕の魔法なんて掠んじゃうよ」
「ライト、あんまり自重しすぎると逆に反感を買うよ……」
「だからぁー。僕は全然凄くないんだってば。賢者にはまだまだ程遠いよ」
「勇者、剣聖、聖女に並ぶ賢者と比べるのはやめて。ライトの基準が最強スキルになっちゃってるから。そのまま行くと他の人との差が開き過ぎちゃうから。もっと周りを見て知っていかないと。まぁ、無理に周りに会わせろとは言わないけど、自分がどれだけ逸脱しているのかを知ってほしい」
「そんなにおかしいの、僕……」
ライトは私の方がおかしいと言いたげな表情をしていた。
「だいぶおかしいよ。私が見た限りではね」
「そうなのかな……」
ライトは荷台の前座席に浅く座り、脚をぶらぶらと振りながら街の周りを囲う大きな壁を眺めていた。
その横顔は子役なら間違いなくトップの座をかっさらってしまうほどの美貌で姉の私でも心臓をギュッとつかまれそうになる。愛くるしさの中にある子供っぽさというかあどけなさ。だが、それを加味してもカッコいい顔立ち。私が同年代であれば間違いなく恋してしまいそうな甘い顏。
――うん。さすが私の弟。カッコ良すぎるね!
「キララ様は妹弟に対する愛が絶妙に気持ち悪いですね」
ベスパは私の頭上を飛びながら話かけてきた。
――いいでしょ。カッコいいんだから。王都にもここまでカッコいい子はそうそういないよ。
「私には人の顔の良し悪しが分かりませんから何とも言えませんけど、ライトさんとはもう少し普通に接してくださいよ」
――普通に接してるでしょ。こう見えても仲いいんだから。
「まぁ、それならいいんですけど」
――ベスパは何を心配しているの?
「キララ様が妹弟離れできるかな……と思いまして」
――無理かも……。
「なら、キララ様も少しは自重してください。キララ様はあと一年と半年後にルークス王国の王都の学園に行かれるんですよ。私の調べによると学園は三年通う必要があるみたいです。ここから王都まで、急ぎでないのなら七日以上かかりますから簡単には帰ってこれません。授業もありますし、長期休みしか家に帰れないでしょう。そうなったら、ライトさん達としばし分かれることになります」
――わ、私、大丈夫かな……。耐えられないかも。
「ですから、今から少しでも離れられるよう、遠くから見守れるようになっておかないとキララ様が夢を叶えられませんよ」
――そうか。でも、まだあと一年半あるんでしょ~。大丈夫、大丈夫。その間には私も大人に近づいてるからさ~。
「そうだといいんですけどね」
私はライトを抱き寄せ、抱擁を交わす。
「もう、何、姉さん? レクーの手綱をちゃんと持っていないと危ないよ」
「ごめんごめん。でも、レクーはおとなしいから大丈夫だよ」
「はぁ、姉さんには危機感が無さすぎるよ……」
私達は街の入り口にやってきた。
いつも通り、私のよく知る人がいた。
「おはようございます。兵士のおじさん、体調はもう万全なんですか?」
私は壁の入り口を守っているおじさんに、荷台に座りながら挨拶をする。
「ああ、そりゃあもう健康そのものだ。まぁ、街の方はまだ建て直し中だがな。でも、ドワーフのおかげで仮設住宅が一日で完備されたから住む場所が無い人はいない。雨風を防げるだけでもありがたいって住民は言ってるよ」
「そうですか。苦しんでいる人はいないんですね。よかったです」
「それよか、今日は一人じゃないんだな。顔が似てるのを考えると弟か?」
おじさんはライトの顔を見て、ぴたりと言い当てた。
「分かりますか! いや~やっぱりわかっちゃいますよね~。どう見ても姉弟ですもんね!」
「ど、どうしたいきなり……」
私は過去、一人っ子だったので姉弟の顔が似てますねーと言われるのに結構憧れていた。
――なんかうれしいな~。ライトがありえないくらいカッコいいんだから、それに似ている私はあり得ないくらい可愛いってことでしょ。まぁ、当たり前なんだけどね~!
「キララ様……。もう既に自重できていませんよ」
――あ、ごめん……。
「おじさん、僕と姉さんは全然似てませんよ」
「な! ら、ライト……」
「姉さんの方が何万倍も可愛いです。僕とは似ても似つきませんよ」
「ら、ライト……。も~、ライトは私と同じかそれ以上にカッコいいんだから~」
私はライトに抱き着いて頬を擦りつける。
「ちょ、姉さんやめてよ……。恥ずかしいな」
「仲がいい姉弟は見ていて微笑ましいな」
おじさんは苦笑いしながら私達を見ていた。
「あ、そうだ。兵士のおじさんに聞いておきたいんですけど、この街の経済は動いていますか?」
ライトはおじさんに質問する。
「ああ、動いているぞ。街は半分崩壊しているが経済機能は止まっていない。ブラックベアーに壊されたのが住宅街でよかったと言わざるをえないな。もし、主要な部分まで壊されていたら俺達の生活は終わっていた。放浪者だらけになる所だったぜ」
「そうなんですか。答えてくれてありがとうございます。街が巨大なブラックベアーに襲われてたなんて初めて聞いた時は驚きました」
「まぁ、ブラックベアーが暴れていた時に俺は体調不良で寝てたからブラックベアーを実際に見たやつに聞いた話だがな」
「ね、ね、私の話は嘘じゃなかったでしょ。もっと姉を信頼してよね~」
「信頼はしているけど、信用はしてないよ。姉さんは何をしでかすか分からないからね」
「うぅ……。ごもっとも」
私はふさぎ込む。
「ハハハ! まさか嬢ちゃんよりも聡明な弟がいるとは、凄い姉弟だな」
「姉さんと僕の頭の良さは別方向ですから。姉さんは発想が凄いんですよ。僕は計算とかですかね」
「ほぉー。将来有望そうな弟だな。嬢ちゃんの方はどうなるか全く想像できない感じが、はらはらさせられっぱなしって感じだ」
「おじさん。全くその通りですよ。姉さんをよく知っていますね」
「ま、半年ほど挨拶してきた仲だからな。それくらい分かるさ」
「もう! 私の話はいいの! じゃ、おじさん。私は仕事に行ってくるから。また帰る時、挨拶しますねー」
「ああ。気をつけてな」
私は街の周りを囲う壁を抜けて中に入った。
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