街までマラソン
「ライトは空を飛んで移動できるだから、バートンは必要ないじゃん」
「でもさ、でもさ。魔力がなくなったら空を飛べなくなるんだよ。僕の魔力量は多い方だけど、それでも無くなる時は無くなるんだ。そうなったら僕はただの男の子になっちゃうよ」
「私だって魔力が無くなったらただの女の子になるよ。魔力が無くなっても動けるシャインとは違うんだから」
「シャインはもう、ブラックベアーみたいなものだよ」
「ライト……。女の子にそんな悪口を言ったらだめだよ」
「だって。もう、人の域を超えてるんだもん」
――人の域を超えているのはライトもだけどね。自分でちゃんと自覚してほしいな……。でも確かにシャインの力は人の域を逸脱している。でも何であんなに強いのか分からないんだよな。特異体質とかなのかな。
「なにはともあれ、女の子をブラックベアー呼ばわりするのはやめなさい。ライトがビーだって言われているようなものだよ」
「うえ……、それは嫌だな。僕、最弱じゃん……」
「でしょ。だから、言わないようにね」
「は~い」
ライトは手をあげて返事をした。
「キララ様、遠巻きに私を貶しましたよね?」
ベスパは仕事中にも拘わらず、私の頭上に飛んできて疑いの眼を向けてくる。
――はて? 何のことかな~。
私は知らん顔で誤魔化す。
「なら、いいんですけど……」
ベスパは上空に戻り、仕事を続ける。
「ともかく、僕も相棒が欲しい」
ライトは珍しく何かを欲しがっていた。普段は何も欲しがらないのに……。
「相棒ね……。相性もあるしさ。長年の付き合いみたいな友情を育んでからじゃないと相棒にはなれないよ」
私はレクーの頭を撫でて、どや顔をする。
「姉さんはレクーと知り合ってまだ半年くらいしか経ってないでしょ」
「はは……。まぁね。じゃあ、ライトも牧場のバートン達の中から選べばいいんじゃないの?」
「牧場のバートン達は皆凄いけど、レクーとレクーのお母さん以上のバートンはいないでしょ。僕もレクー並みの相棒が欲しいんだよ」
「何ともまぁ、難しいお願いだな……。レクー並みであれば別にバートンじゃなくてもいいの?」
「うん。相棒と言える友達? 仲間? みたいな存在が欲しい。僕はブラックベアーでも全然かまわないんだけど、あれは魔物だから言うことを聞いてくれないか」
「ライトがブラックベアーを相棒にしちゃったら大変なことになるよ……」
「え……、何で?」
「だって、魔法と物理攻撃を兼ね備えられるでしょ。加えて近距離と遠距離で別れているから役割分担も完璧。ブラックベアーは物理攻撃でしかほぼ倒せない。だけど、遠距離でライトが攻撃をすればブラックベアーに近づけない」
「なるほど……。でも、姉さんの考えは敵と戦う前提に感じるんだけど?」
「いつどこで誰と戦うことになるか、わからないからね。私は嫌って程、ブラックベアーに襲われてるから、ライトも気をつけないとだめだよ」
「僕とブラックベアーの相性は最悪だからね。魔法の攻撃は全然効かないからさ。でも、倒し方はちゃんと考えてあるんだ~」
ライトはローブ内にある杖ホルダーから指揮棒程度の杖を取り出す。
「いったいどんな風に倒すの?」
「まずは『ウォーター』で水を出現させて『フリーズ』で凍らせる。氷の槍を何本も作ってめった刺しにするんだ」
ライトは水を出現させ、槍状に一瞬で凍らせた。
――魔法で生み出した氷の槍は物理攻撃になるのだろうか……。まぁ、ライトが言うのなら倒せるんだろうな。
「はは……。ライトくらい機転が利けば、何も怖くないね」
「いやいや。僕にも怖い存在がいるよ」
ライトは杖をしまい、首を横に振る。
「え? ライトにそんな存在がいるの。だれだれ」
「怒った時の母さんと姉さん」
「…………」
「そ、そんな顔しないでよ、姉さん。ただ、ちょっとそのぉ……」
ライトは私の顔から視線を背ける。
――私の顔って、怒ったら怖かったんだ。なんか、悲しい。
「キララ様の場合、顔が怖いというよりかは怒りによって溢れ出た魔力が強大な雰囲気となって見えているんじゃないですかね。ライトさんは魔力に敏感ですから」
ベスパは仕事が終わったのか、私の頭上に戻ってきた。
――なるほど。私の魔力量が多かったから、怖がられていたのか。
「まぁ、いいや。ライト、私が怖いんだったら怒らせないようにしなよ」
「も、もちろんだよ。姉さんを怒らせないように頑張ろうってシャインと言いあっているんだ。仕事とか、生活とか、いろんな面で」
「へぇ。そうだったんだ」
――私、怒ったらそんなに怖いのかな。自覚がないから分からないや。
ライトは荷台の前座席に乗る。
私はレクーの横に着いた。
「あれ? 姉さんは荷台に乗らないの?」
「体力をちょっとでも着けようと思ってさ。魔法だけじゃこの先やっていけるか、わからないし、基礎体力だけでも鍛えておこうと思ったの」
「姉さんが運動するの……。なら、僕もしないとだめじゃん……」
ライトは面倒くさそうな顔をして荷台の前座席から降りる。
「ライトは別に走らなくてもいいんだよ。私が勝手にやろうとしているだけだからさ」
「でも、姉さんがやるなら僕もしないとだめでしょ。もっと差が開いちゃうじゃん」
「何の差よ……」
「運動能力の差。僕と姉さんは今のところほぼ同じでしょ。だから、このままでいたら僕が取り残されちゃうよ」
「取り残されるって……」
――ライトとシャインは私のはるか先を行っているのに、なんで私と歩幅を合わせて歩いているみたいな言い方をするんだろうか。全く持って違う。ライトの一歩は私の一〇歩。才能の違いといいたくないけど、そう思わざるおえない。私には天才的な才能が無いから他の人より努力しないと夢を叶えられないんだよ。でも、まぁ、姉弟だし気にしなくてもいいか……。
「ライトがいっしょに走ってくれるのなら闘争心が湧いて競い合えるね。どっちが長く走っていられるか勝負だよ」
「うん! シャインには『身体強化』をしていないと歯が立たないけど、姉さんなら僕の素の力で戦える! 魔法を使わない闘いなんて久々だよ!」
「ふん! 私を舐めないことね。こう見えても元陸上部なんだから」
「え?」
「あ、いや、何でもない」
私は咄嗟に誤魔化す。例えライトの記憶に陸上部という言葉があったとしても意味は理解できないはずだ。
――危ない。危ない。昔の記憶を喋っちゃった。
「何でもないならいいんだけど……」
ライトは少々考えたあとに喋る。
「じゃ、じゃあ。街まで走って行こうか」
「うん!」
「レクー、私達の後ろについてきて」
「分かりました」
私とライトは牧場から走り出す。
全力で走るとすぐに力尽きてしまうので長距離走を行う。
私は元短距離走を行っていたので短い距離には自信があったが、長い距離は準備運動くらいにしか行ってこなかったので未知すぎて昨日倒れてしまった。
今日は筋肉痛が少しあるが、我慢してちょっとだけ走ろうと思う。
レクーは私とライトの後ろをいつもの速度の半分以下でついてきていた。いや、ほぼ歩いている。それほど私とライトの走りが遅い。
村を出て三○分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう無理、もう無理……。走れない」
「はぁ、はぁ、はぁ……。きっつ、きっつ、なにこれ。運動ってまじで糞過ぎる。これの何が楽しいんだ……」
私とライトは両者共にふらふらになっており、顎が上がって手足が死人のようにプラプラと動かしている。息も粗く、これ以上走ったら倒れてしまうと思った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ライト、今日はここまでにしよう。このまま走っていたら街に着く前に動けなくなっちゃう」
「はぁ、はぁ、はぁ、そうだね。運動をいっぱいしてすぐに強くなるわけじゃないから、少しずつ少しずつ着実に力をつけていこう」
私とライトは草の生い茂る地面に倒れ込み、大きく息を吸って呼吸を整えた。
「すーはー、すーはー、すーはー。いやぁ、すごい長い距離を走った気がする。まぁ、時間的には三○分間くらいしか走ってないけど……」
私とライトは村の入り口が見える位置で息をあげており、苦笑いしながら立ち上がる。
「これだけ走ったのなら十分だよ」
「そうだね。じゃあ、あとは楽そうにしているレクーにお願いしようか」
「うん」
私とライトはレクーが引いている荷台の前座席に乗る。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。