口の悪い姉弟
「姉さんのスキルって凄く便利だよね。最初はクソザコだと思ってたけど、今はそのスキルがないと立ち行かないもん」
ライトは美形美声なのに不意に言葉使いが悪くなる。
「ライト、また口が悪くなってるよ。適当に言葉を話すとそうなるから気をつけて」
「あ、ごめん。姉さんの真似をしていたら癖になっちゃって」
私が魔法を練習している時、口の悪い発声練習をしていたら、ライトも真似してしまい、姉弟揃って発言が不意に悪口っぽくなってしまう。
私とライトはいつも控えているが悪口が出てしまう時が多々あるのだ。特に威力の高い魔法を放つ時。
「じゃあ、牧場に行って準備したら街に出発するよ」
「は~い」
ライトは大きく手を上げて返事をした。こういうところを見るとまだまだ子供だと思えるのだが……最近はそうも思えなくなってきた。私とライトが家の外に出た時。
「じゃあ、姉さん。僕が牧場まで運ぶよ」
「え?」
「『浮かぶ(フロウ)』」
ライトは指揮棒程度の魔法杖を持ち、私に魔法をかけた。
地面に魔法陣が出現すると私の体が浮かび上がる。
ライトの足もとにも同じ魔法陣が生まれており、共に浮かんでいた。
「姉さん、手を掴んで」
「ちょ、ライト、なにをするき?」
「浮いて牧場に向うだけだよ。絶対に落ちないから安心して」
「そ、そう言う問題じゃなくて……。高くない?」
私達は地上から二○メートル付近まで浮かんでいる。パラシュートもなく、命綱すらついていない生身の状態で浮いているのだ。
「そう? 僕は全然平気だよ。僕が平気なら、姉さんも平気でしょ?」
「そうやって自分の価値観を他人に押し付けないの。ライトはそう言うところがあるから気をつけないとデイジーちゃんに嫌われるよ」
「そ、それは嫌だな……。分かった、気をつけるよ」
ライトはしゅんとして落ち込む。だが、ライトの基準で物事を進めると絶対に上手くいかないのは眼に見えて分かる。なんせライトが他の人と逸脱しているのだから。
「じゃ、牧場に向うね。『風』」
「うわぁー!」
私は地上二○メートル付近を物凄い速さで移動した。あまりにも速いため、一瞬で牧場についてしまう。常に帽子を手で押さえてないと一瞬で吹き飛んでしまう速さだ。世界最速のジェットコースターより速いかも……。
「あぁ……。なんか、眼が回った……」
私は牧場の地面に着地し、固い地面に安心勘を覚える。頭がくらくらして少しの間、真面に立っていられなかった。
「三半規管が狂っちゃったのかな。ごめんね、姉さん。次はもっと加減して飛ぶから」
「も、もぅ。飛ぶのはいいかな……」
私は家から牧場までの道のりを走る予定だったのだが、魔法によって一瞬で到着してしまい、体を鍛える必要があるのかと思ってしまう。
――いや。魔法は魔力が切れたら使い物にならない。私は魔力が多いけど無限というわけじゃないから、体も鍛えておかないと絶対に後悔する。いざという時、体を鍛えておけばよかったなんて思いたくない。
私は魔法に頼るだけではなく、体も鍛えると覚悟を決める。
「ライト、荷台に牛乳パックの入ったクーラーボックスを積んでくれる」
「もうやってるよ」
ライトは空中に浮遊しながら別の魔法を使い、荷台に荷物を積んでいく。加えて動物たちの餌やりや厩舎内の掃除、配達の準備などできる限りのことをいっぺんにこなしていた。
「ほんと……。ライトが一人いれば牧場が回るの凄すぎるよね……」
「姉さんも、一人でこなせるでしょ? 僕は姉さんみたいに仕事しながら遊べないよ」
「いや……、別に遊んでるわけじゃないから」
確かに私もベスパ達にやってもらえば自分で仕事しなくて済む。だが、それは私の力ではなく、ビー達の力であって私が操作している訳ではない。私はただ、命令を下しているだけだ。
でも、ライトは全てを考えて行っている、一人なん役やっているのか分からない。頭の中はどうなっているのだろうか。
「キララ様。ライトさんがいると私の出番がないので、何をしたらいいか分かりません……」
ベスパは呆れた様子で私の前に降りてくる。
――ベスパは……。ん~~。索敵担当で。
「ですが、ライトさんはこの村を包むほどの索敵網を張れます。実際そんなに広い範囲を見て回る必要もないですから……」
ベスパはどんどん縮こまっていく。自分の出来る仕事はライトが全て出来てしまうため、自身の存在価値を失っていた。
――ベスパ、仕事がないならくつろげばいいんじゃない? 休みってことで寝ててもいいよ。
「ですが……、キララ様の為に働いていないと体がうずうずしてしまって落ち着かないんですよ。キララ様、何でもいいので私に仕事をください~」
ベスパは社畜精神が既にすり込まれてしまったのか、働きたい欲にまみれていた。
――ん~、そうだなぁ。じゃあ、ライトの方を休ませるから、ベスパがライトの替わりをやってくれる?
「なるほど。ライトさんは別に働きたいわけではないですもんね!」
ベスパは眼を輝かせていた。仕事を与えられてとても嬉しそうだ。
「ライト。あとは私がやるから、もう休んで良いよ」
「ほんと? なら、休むよ」
ライトは空中から地面に下りてきた。
――じゃあ、ベスパ。あとはお願いね。
「了解しました!」
ベスパは意気揚々とビー達に命令し、仕事をし始める。
「もうちょっとで準備が終わってたけど、姉さんに任せた方が確実だよね。僕は失敗するけど、姉さんは失敗しないし」
ライトは私の方に歩いてきた。
「私だって失敗するよ」
「でも、姉さんの失敗しているところ、僕は見た覚えがないんだけど……」
「それは、私の苦手なところをスキルに全部やってもらってるだけ。別に私が完璧な訳じゃない。スキルが仕事させてほしいって言うから、いっぱいさせてあげてるの」
「スキルに意思なんてあるの?」
「あるというか……。まぁ、言うなれば独り言と同じなんだけど、別の人格があるというか」
「へぇ……。だから姉さん独り言が多いんだね」
「出ちゃってる?」
「結構ね」
「独り言はなるべくしないようにしてるんだけどな……。まぁ、仕方ないか」
私は念話でもベスパと話せるが、口頭で話した方が実際とても楽なのだ。
頭の中で話すとどうも変な気分になる。その為、日常生活では口頭でベスパと話をしているため、独り言に見えてしまうのだ。
「皆、姉さんが何かを考えてるから喋りかけないようにしてるみたいだよ。僕たちはスキルの影響だって知ってるけどね」
「別に話しかけてもらってもいいんだけどな……。でも、独り言が多いのは元からだから」
「そうだね。姉さん昔から一人で喋ってるし。僕は別に嫌じゃないから。だって僕もよく一人で喋ってるし」
「他の人が独り言していると少し驚くけど、自分がしていると全く気付かないよね」
「うんうん、分かる。僕もシャインによく言われるよ。自分では全く気付いてないんだけどね」
私はレクーの厩舎に歩いて行きながらライトと喋る。
私はレクーを厩舎から出し、荷台に縄で繋いだ。
「今日はライトさんも、いっしょに行くんですね」
「そうだよ。色々手伝ってもらおうと思って」
「なるほど。ライトさんがいれば心強いですもんね」
レクーの体調は今日も万全だった。たっぷり休みを取り、疲れが抜けているからだと思う。
「姉さんはいいな~、僕もレクーみたいな相棒が欲しいよ~」
ライトはレクーに抱き着き、頬を擦りつける。
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