神様の言葉
「私が村に連れて来た子供達の中に一〇歳を超えてもスキルを貰えていない子が二人いるんです。その子達にスキルを与えていただけないかと思いまして」
「なるほど……。だから、聖典式なのですね」
「はい。というか、一〇歳になったら誰でもスキルを貰えるんですよね? 貰えていない子達に話を聞いたら、拒否されたというんですよ。まぁ、相手がドリミア教会だったのが悪かっただけかもしれないですけど……」
「聖典式にはそれなりのお金がかかりますからね。人数が少なければそれほどの出費にはなりませんが街や王都では大勢の子供達が一斉に聖典式を受けます。その為、費用が高くついてしまうのですよ。ドリミア教会はそれを嫌ったのではないかと」
「ここでもお金の話ですか……。ほんと、神様もお金が大好きなですね」
「キララちゃん、皮肉が過ぎますね……。ですが否定も出来ません。神はお供え物が好きですから、お金が好きといってもおかしくはありませんね」
「お供え物? 私とアイクの聖典式が行われた時にお供え物なんてしましたか?」
「したじゃないですか。聖典式後に宴が行われましたよね。神へ感謝の気持ちを伝えるのが人々の笑顔や踊りなどの楽し気な雰囲気といいますか、魔力といいますか。それがお供え物です」
「へぇ~。神様とんでもなく良い方だ……」
「キララちゃんはお供え物を一番してくださいました。神はとてもお喜びになっていましたよ」
「え? 私、お供え物みたいなことしましたっけ……」
「歌や踊り、舞などで多くの村人を笑顔にしてくれていましたからね。それはもう、神は嬉しがっていました」
「歌や踊り……。はっ! 思いだした……」
――貰ったスキルが最悪だったから忘れようとして歌ったり踊ったり黒歴史張りのアイドル時代の特技を村人に披露したんだった……。まさか神様に喜ばれてたなんて……、というか見られていたなんて凄く恥ずかしい!
私の顔が熱くなっていく。
「えっと、それじゃあ、一〇歳を過ぎても聖典式を受ければ子供達はスキルを貰えるんですか?」
「ええ、もらえますよ」
「じゃあ、すぐにでも聖典式をしてもらうことは?」
「無理ですね」
神父様は笑顔で言った。
「そうですよね……」
「聖典式は神の都合上、年に一度しかないのです」
「まぁ、何となくそんな気はしていました。でも、一〇歳を過ぎてもスキルがもらえると分かってよかったです。私、また聖典式の時に歌ったり踊ったりして神様にお供え物しますね」
「はい、ぜひそうしてください。神も喜びます」
神父様は穏やかに笑った。
その時、ステンドグラスから陽光が差し込み、神父様に当たる。
首飾りに光りが反射し、真っ白いローブも光を反射するため、放射状に拡散する。
神父様にご光が差したのかと思い、神を目の前にしたかと思った。
「なむなむ……」
私はあまりにも神々しかったので手をこすり合わせて祈った。日本人の癖が出てしまう。
「それが、あなたの国の神に祈る行為ですか?」
「へ?」
私の目の前にいた神父様から女性の声がした。
「神父様?」
「あなたの歌と踊り。今年も楽しみにしていますね。キララちゃん」
陽光は高くなり、神父様からずれた。
「ん……。今、何か仰いましたか? キララちゃん」
「え、えっと……。神様に喋りかけられました」
「おお……、キララちゃんは神に相当気に入られているようですね。やはり、あの歌と踊りのおかげでしょうか。忙しい神がわざわざ声をかけてくれるなんて滅多にありませんよ。よかったですね」
「は、はい」
――さっきの声。マザーに凄く似てた。やっぱり、神に近づくにつれあんな優しい声になっていくんだな……。
私はそのまま神父様と一緒に神に祈りをささげた。
目をつぶり、両手を握り合わせて祈る。
――ラルフさんとマザー、領主が意識を取り戻しますように。時間は掛かってもいいですから、いつか必ず目覚めますように。
神に願いがとどくかは分からないが。祈れるときは祈る。
神頼みはあまり好きではないが自分ではどうしようもないことのみ願うようにしている。
自分でなれるかもしれない時は自分で手に入れるので願う必要がない。パティシエになりたいとか、強くなりたいとか、他の者に願っても叶えられるはずがない。叶えられるのは自分の意思だけ。
――ただ、一つだけどうしても叶えてほしい夢がある。胸はBカップ以上にしてください……。いや、ここまで来たらBカップ寄りのAカップでもいいです。もうAAカップはいいですから。
切実な願いだった。そう、強く思う。
日本にいたころは意思が弱かった。流される日々。結局、本当にやりたかった夢に挑戦することも出来ず、あっけなく死に、夢半ば倒れると言った悔しい思いすらできなかった。
私の過去に価値があったのか自分では分からない。
アイドルとして多くの人に感動と勇気、元気を与えてきた。それは分かる。私の死は他の人にとって、キラキラ・キララというアイドルが永遠に不滅の存在に置き換わっただけだ。
でも、当人の私からしたらただ死んだだけだ。結婚もしたかったし、子供も欲しかった。親友と呼べる仲間が欲しかったし、ライバルも欲しかった。何もかも順調に行っていたがゆえに何もない。それが私の一回目の人生。
昔の私に多くの仕事をふってくれた脚本家さんが。私の潜在能力を見極めたおかげでトップアイドルになれたわけだが、もし彼に会っていなかったら。私はどんな人生だったのかと思わずにはいられない。
――まぁ、私のことだから普通の一生だったんだろうな。結局普通なら、死んでるのと同じか。
今の私は昔の記憶があるからここまで生きてこれた。
こっちの世界の人の平均寿命は五〇歳から六〇歳くらいらしい。王都では九〇歳まで生きる人が多いらしいが他の農村では低い年齢で亡くなってしまうため、平均年齢が下がっている。
加えて、冒険者という危険な職業も平均年齢を下げていた。死因の多くが怪我や栄養失調、病気によるものでちょっと残酷だ。子供の死亡率も高いため、他の村には活気がない。そんな、世界に生きている私だが、今、とても楽しい。
世界は違えども、生きている悦び、誰かに感謝される悦びは同じだ。私はそれだけで生きて行ける。そう、思い知らされる日々。村のお年寄りが感謝してくれたらどれだけ嬉しいか……。その日の一日がウキウキ気分で過ごせるくらい舞い上がれる。そんな単純な性格なのも、ありがたい。
私は今日までを振り返り、神に祈った。
「ふん~はぁ。気持ちィ~!」
私は好きなだけ祈ったあと、教会の長椅子の上で盛大に伸びをする。
周りにチラホラと人がいるが気にしない。
なんせ、他の人も寝たり、神父様の言葉をうつらうつらと聞いていたり、しているからだ。
この場所はそれだけ自由な場所であり、誰も怒らない。
神父様も私に笑いかけてくれる。こんないい場所で朝の時間を過ごせたのは最高だった。
私はすっきりした気持ちで教会を出る。
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