天然一〇〇パーセントのぶりっ子と恥ずかしがりやの天才剣士
「あ~、キララさん、ここにいたんですね」
テリアちゃんは私がルドラさんから貰ってきた無地のTシャツを着て居間にやってきた。
「て、テリア……。お兄ちゃん。頑張るから、そこで見てて……」
ガンマ君はテリアちゃんが来たため、無理やり笑顔を見せる。
「あ、お兄ちゃん。また、シャインさんに鍛えてもらってるんだね。うん、いいよ。私がいっぱい応援してあげるね!」
テリアちゃんは満面の笑みでガンマ君を応援し始めた。
「頑張れ~お兄ちゃん。頑張れ~お兄ちゃん。凄い、凄い、お兄ちゃん。カッコいいカッコいいお兄ちゃん~!」
テリアちゃんの満面の笑顔による応援は、天使の舞だった……。後光のような輝きが見える。
「うおおおおお!!」
応援されているガンマ君はやる気を漲らせ、体勢を立て直した。
――やっぱり、テリアちゃんはアイドルの才能がある……。
「いや、キララ様。あれはガンマさんが異常体質なだけじゃないでしょうか」
ベスパは壁をすり抜け、私の頭上に現れる。
――あ、ベスパ。戻ってきたんだ。いやいや。テリアちゃんの応援がガンマ君に力を与えているんだよ。
「そうなんですかねぇ……」
ベスパは眼を細め、私の言葉を疑うようにガンマ君を見つめる。
「テリア……。お兄ちゃんは、もっと頑張るから。もっと頑張って強くなって、テリアを守れるようになるから」
ガンマ君は顔から汗を滝のように流し、全身をガクガクと震わせる。
「うん! 頑張って頑張って~。弱いお兄ちゃんもカッコいいけど、強いお兄ちゃんはもっとカッコいいよ~」
「うおおお!!」
テリアちゃんとガンマ君の掛け合いを面白くなさそうにシャインは見ていた。すっごい真顔で。
――しゃ、シャインの眼が怖いよ……。なんか、色々と怖いよ……。
「なら、ガンマ君。もっと上まで行けるよね?」
「うぇ……。ちょ、シャインさん。これ以上は!」
五個の石のブロックをシャインは一気に持ち、ガンマ君の膝に乗せようとした。
私は咄嗟に飛び出し、シャインの肩に手を置く。
「シャイン! さすがにやり過ぎだよ! 鍛えるなら、ガンマ君の状態をよく見て適切にしないとガンマ君の体が壊れちゃうでしょ!」
「お姉ちゃん……。ご、ごめんなさい」
シャインは石のブロックを床に戻した。
そのまま、椅子に座り、しゅんとしてしまっている。
私はシャインに耳打ちする。
「シャインも、テリアちゃんみたく、ガンマ君を応援してあげなよ。きっと喜ぶから」
「え……。私がガンマ君を応援するの……。な、なんか……恥ずかしいよ」
シャインはテリアちゃんの方を見る。
テリアちゃんはぶりっ子並みの可愛さを天然一〇○パーセントで醸し出している。その姿はまぁ、恥ずかしいったらありゃしない。だが、きっとどの男が見ても可愛いと言うだろう。今の私が見ると嫌悪感を抱きかねないが可愛さを作っている訳ではないので許せる。
シャインにも同じ応援をしてみろというのは酷な話だ。でも、あの天使に勝たないといつまで経っても関係が発展しない。
「頑張れ~、頑張れ~、お、に、い、ちゃ~ん! 私の大好きなお兄ちゃ~ん!」
テリアちゃんはチアリーディングのような可愛い舞を行いながら応援する。
「うおおお!!」
――さ、さすがにあれをシャインにやれって言っても無理か……。もっと他の応援方法はないものか。
私はシャインにもあれに勝る応援をしてもらいたいと思い、考えに考える。
「キララ様……。疲れているのに、無駄な思考をされるのはお体に触りますよ」
――無駄なんかじゃないよ。これはとってもとっても大切な思考なの。シャインの可愛さを一〇○パーセント引き出して、かつ、天然ぶりっ子並みの破壊力を生み出すには……。グぬぬ……。
私は両手を組み、頭の血管が切れそうな程、思考を回す。
「はぁ……。キララ様、何とおいたわしや……」
私が考えているとシャインは立ち上がり、ガンマ君の耳元に顔を近づける。
「が、頑張れ……。ガンマ君……」
「なっ!!」
シャインはそれだけ言うと元居た場所に戻り照れくさそうな顔をして視線を泳がせていた。
「な、なな……。は、はい! 頑張ります!」
ガンマ君は大きな声でやる気を漲らせる。
――す、すごい。シャイン、あんな奥義を使うなんて。耳もとに囁いて直接脳を震わせる、高等技術。それを無意識にやっちゃう辺り、さすが私の妹。加えて普段は耳打ちなんて絶対にしない、シャインがやるからこその破壊力。ガンマ君への威力は絶大!
「キララ様、興奮しすぎて鼻から血が垂れてしまいます。少し落ち着いてください」
――はぁ、はぁ。そ、そうだね。ちょっと落ち着くよ。
私はよろよろと歩き、椅子に座って頭を冷やす。
ガンマ君は脚から血が噴き出すかというほど筋肉を酷使し、家での鍛錬を終えた。
「うぅ……。頑張りすぎました……」
ガンマ君は地面にへたりこみ、意気消沈している。
「もぅ。頑張り過ぎだよ、ガンマ君」
シャインは椅子を降りてガンマ君のもとに歩いていく。
「しゃ、シャインさんが頑張れって、言ったんじゃないですか……。だから、頑張りすぎてしまったんですよ」
「はぁ、ほんとに律儀なんだから。ここまで頑張るなんて思ってなかったよ。さすが、ガンマ君だね。これからも、私と一緒に頑張ろうね」
シャインはガンマ君を置き上がらせ、満面の笑みを見せた。
「は、はい。頑張ります」
「テリアも応援頑張ったよ~。褒めて褒めて~」
テリアちゃんはシャインとガンマ君の間に割り込み、愛くるしいさまを見せる。
「テリアもありがとう。テリアの応援も凄い力になったよ。いろんな人にも応援してあげたらいいんじゃないかな。テリアくらい可愛くて、天使で、愛くるしい子はいないから、皆絶対に喜ぶよ」
「も~、お兄ちゃん。褒めすぎだよ~」
テリアちゃんに自覚はないかもしれないが、私が見てきた子の中でダントツ可愛い。そう言い切れるほどの才能を持っていた。
私は運よく一番に慣れた感が否めない。きっとテリアちゃんなら運など関係なく、なるようにしてなっていただろう。そう思えるほど、テリアちゃんは可愛い。
「あぁ……。なんか、考えすぎて眠たくなってきた……」
「キララ様。疲れている体を酷使したからですよ。これ以上は体が持ちませんから、潔く寝てください」
――で、でも……。まだとんでもなく面白い出来事がおきそうな予感がするんだよぉ。ここで寝たら、絶対にもったいない……。
「さ、ガンマ君。脚を揉んであげるから、伸ばして」
シャインはガンマ君の太ももに手を伸ばす。
「じ、自分でやりますから、シャインさんは休んでいてください」
「いいのいいの。今まで休んでたんだから。いっぱい、揉んで気持ちよくしてあげるからね」
――ほらぁ……。絶対に面白い出来事が起こりそう……。もっと起きてたい……のに、意識が遠のいていく……。
「キララ様、これ以上無理に起きようとするなら『ハルシオン』で無理やり眠らせますよ」
――それは嫌だ。だって、ベスパに刺されるんでしょ……。気絶どころじゃなく心臓発作で死にそう……。
「なら、潔く寝てください」
――もぅ……。分かったよ。寝ればいいんでしょ、寝れば……。あぁ、楽しい夜になりそうだったのにすごくもったいないことをしている気分だよ。
私はテリアちゃん宅のテーブルに頬を着けて死ぬように眠った。
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