高すぎる目標
「私が学園に通っていたのは五年ほど前なので体勢が変わっているかもしれませんが王都は頭が硬いですからね、ほぼ変わっていないと予想しても問題ないでしょう」
「歴史のある国ってそうですよね……」
「はい。ですから間違いなく、入学試験で嫌がらせを受けます。学園か、生徒か、はたまたその両方か。その嫌がらせを難なく乗り越えてしまえば学園側は何も言えません。キララさんはそう言う逆境に飛び込むのが得意そうな性格をしていますから、一泡ふかせてやってください」
「はは……。そんな簡単に言われても学園を見た覚えもないのに、はい頑張ります! とは言えませんよ。でも私は強くならないといけないので、入学できるくらいには強くなります。なんせ、私には剣聖と渡り合う力が欲しいんですから」
「これはまた、凄い発言をしましたね。剣聖と渡り合えるスキルは勇者と賢者、聖女の三種類しかありませんよ」
「そうだと思いますけど、剣聖を目指すのは悪い目標じゃないと思います。高い目標があった方が努力しがいがあります」
「そうかもしれないですけど、剣聖を目標にするのは度が行き過ぎじゃないですかね……」
「いえ、私は剣聖を目標にします。彼を止められるくらい強くなれば、少しは無茶できる。そう思うんです」
「キララさん……。絶対に危険なことを考えてますよね。いいんですか? 親御さんたちが知ったら、怒りますよ」
「怒るでしょうね。昨日も散々怒られましたから……。でも、悪事は誰かが止めないと手遅れになります。ドリミア教会と正教会の監視はフロックさんとカイリさんにお願いしてありますから何かあれば対処してくれるはずです。私も早く力を付けないといけません。でも、その前に大切なことはこの村にある牧場の経営を安定させることが最重要です」
「そうですね。私は、初めが順調でもその後廃れていった村をいく度となく見てきました。まぁ、その村の特徴はお金欲しさに仕事を甘んじたことに原因があるのですが、どうも人は余裕ができると怠ける癖があるんですよね。キララさんはどうですか?」
「私ですか? 私は……新しい商品を考えたり、ちゃんと休んだり、魔法の練習をしたり、仕事をしているとできない趣味に余った時間を費やすようにしていますね。怠ける時間なんてありませんよ」
「素晴らしいですね。どこまで優秀なんですか、キララさんは……。他の村にも見習ってほしいですよ」
「ルドラさんは王都の貴族なのに、村に詳しいんですね」
「まぁ、私は王都よりも田舎の方が性に合っているんですよ。私はいずれ家を継がなければならないので、王都に戻らないといけませんがそれまでは世界を見て回りたいんです。王都と言う狭い場所だけではなく、もっと広い世界を見るのが私の夢だったので」
ルドラさんは上を向いて凛々しい顔をした。まだ若いのにもういろんな場所を見てきたといわんばかりの表情だ。
「なるほど……、大きな夢ですね。今、その夢はかなったんですか?」
「ええ、七割ほど。あとの三割はまだかなっていませんね。まぁ、あとの三割は私の自己満足具合なんですけどね……」
ルドラさんは頭を掻き、苦笑いする。
「満足できるといいですね。私にも夢がありますけど、まだ一歩くらいしか進んでいません。夢にたどり着くためにはあとどれだけ歩けばいいのかさえ分からない状況です。でも、それが逆にわくわくする要因にもなって、頑張って明日を生きようとする活力になるんですよ」
「分かりますね……。私も学生の頃、夢があったから頑張れたところはあります。くじけそうになった時に何度夢に助けられたか。なので、キララさんの年齢で夢を見つけているのは大きな利益になり得ます。その夢、絶対に叶えてくださいね」
ルドラさんは首を縦にうんうんと動かし、腕を組んで納得していた。
「はい。もちろんですよ。私の夢をかなえるためにはルドラさんの協力が不可欠です。あり得ないほど、ルドラさんを利用しますから覚悟してくださいね」
「いいですよ。私を利用できるだけ利用してください。その分、私もキララさんを利用しますから。私が一生働かなくてもいいくらいの金額を溜めて余生を過ごせるくらいの安心感を与えてくれることを期待していますよ」
「期待しておいてください。私も、村にいる子供達全員が学園に通えるくらいの金貨を稼げると期待してますからね。ルドラさん」
「はは……。凄い目標ですね。でも、任せてください。私も全力で協力します」
私とルドラさんは握手を交わし、それなりの関係を結んだ。
その後、私達は牧場に到着する。
「到着しました。では、ルドラさん、各場所を回りましょうか。レクーを厩舎に戻しに行くので、初めはバートンの厩舎にでも行きましょう。お父さんとお爺ちゃんがいるはずですから。色々話を聞けますよ。あ、でも売るとかそう言った話はしない方がいいです。お爺ちゃんが怒るので……」
「わ、分かりました」
私とルドラさんはレクーと共にバートンの厩舎に向った。
「レクー、今日の仕事お疲れさま。あとはゆっくり休んでね」
「はい。分かりました」
私はレクーに食事と水を与え、頭を撫でる。
「キララさんはバートンによく喋りかけていますけど、言葉でも分かるんですか?」
「えっと……。まぁ、何となく」
――一言一句分かりますけど、そこまで言うと色々気づかれそうだし止めとこ。
「それほど仲が深いと言う証拠ですね。さすがです。愛情をもって育てているのが分かりますよ」
「はは……。ありがとうございます」
――凄い良い風に解釈してくれたよ。ルドラさん、私のこと買いかぶり過ぎては……。
私はレクーを厩舎に戻し、ルドラさんを案内する。
「今いるここが、バートンの厩舎ですね。数は最近増えて……一五頭くらいです。主にバートンが走る競争をして、村人の娯楽になってくれていますね。あと木材を運ぶ時や、人を移動させるときに村人に貸し出したりしています」
「はぁー。どの子も凄い立派なバートンですね……。王都にいてもおかしくありませんよ」
ルドラさんは厩舎の中でバートン達を見回す。
「お爺ちゃんが凄いので、バートン達もすくすく育っていますね」
「バートン達だけでも王都でやっていけそうなんですが……、まだ動物達がいるんですよね?」
「はい。あとから行きますけどモークルとメークルがいますよ」
私はルドラさんに仕事現場を見せた。アイドル時代にテレビ番組で牧場の視察をしていたころを思い出す。
アイドル時代の私はルドラさんの立場だったので、新鮮な感じだ。
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