一三歳は未成年
「ぐぬぬぬ……。メリーさん、これが新しく作ったブラジャーです」
「キララ様。ブラジャーを握りしめすぎですよ。悔しいのは分かりますが、物に当たるのは情けないですよ」
ベスパはブラジャーの周りを飛び回る。
――分かってる。分かってるけど……。でもやっぱり悔しいよ……。
「わーい、ありがとう、キララちゃん。私、これがないと生きて行けない体になっちゃった。少し前まで、肩こりが酷すぎて頭痛がするくらいだったのに、ブラジャーを付けたら一気になくなったの。もう、絶対に手放せないよ~」
メリーさんはルンルン気分で喜んでくれた。
「へぇーえ、良かったですねー。私は一度も経験した覚えのない辛さでしょう……。なんせ肩が軽いですからね。はい、もう、すっごく軽くて動きやすいのなんのってー」
私はロボットのような喋り方ですっごい嫌味を言ってやった。元二一歳の成人女性が一三歳の少女に嫉妬なんて大人げない……。
「キララちゃん、いいな~。今なら私もぺったんこが良かった~」
「ぐぬぬぬぬ!!」
私は奥歯が砕けそうなくらい、歯を噛み締めていた。加えて指先に魔力を集める。
「キララ様! 落ち着いてください。メリーさんに悪気は一切ありません。彼女の切実な思いですよ」
ベスパは私の前に飛び出し、止めてくる。
――分かってるってば。分かってるけど……。あの大きさに比べた時の私の貧弱さが悔しくてさ。どうしようもないのは分かってるのに、憧れるところがあるんだよ。
「キララ様。あんな脂肪の塊に魅了されて寄ってきた男性を捕まえるよりかは、キララ様自身を見てくださる男性を見つける為に、無駄な脂肪は無い方がいいと考えます」
――ベスパ……。よくもまぁ、そんな人の本質を突いた助言をしてくるね。何も言い返せないよ。そうか、悪い男を引き寄せるくらいだったらいらないか……。そう思うと結構楽になるかも。
「メリーさん。ブラジャーを着けてみてください。大きさや形を確認しますから」
「分かった」
メリーさんは私の目の前で服をおもむろに脱ぎ始めた。
「あわわ! ここは外ですよ! 荷台の中でお願いします!」
「あ、そうだね。ごめんなさい。つい、いつもの癖で……」
――ほんと、危機感のない人。よく、街で生き残って来れたよな。
私とメリーさんは靴を脱いで荷台の中に入る。
メリーさんは荷台の中で服を脱ぎ、ブラジャーを着けた。
「どうですか、メリーさん」
「うん。凄くいい感じ。全然苦しくないし、着け心地が最高だよ」
「隙間もほどよく合って、締め付けている感じもない……。問題なさそうですね」
「ありがとう、キララちゃん。私、もっと一生懸命に働くからね~!」
「ふぐぐぐ!!」
メリーさんは私に抱き着いてきた。私の顔は豊満な胸に包まれ、息が出来ない。だが、メリーさんの体からミルキーな甘い良い香りがしてとんでもなく落ちつく。
――あ、凄い……。なぜか眠たくなってきた……。これが母性か……。
「キララ様! 窒息しますよ。永眠してしまいます!」
――はっ!
私はメリーさんの脂肪の塊から頭を離し、何とか呼吸を確保した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。メリーさん。不意に人に抱き着くのはやめてください。死人が出ます」
「ごめんなさい。つい、いつもの癖で」
――メリーさんはいったいどれだけ癖があるんだ。
メリーさんは脱いだ服をもう一度着て、荷台の外に出ていく。
私も荷台から出て靴を履いた。
「じゃあ、キララちゃん。私達は仕事をしないといけないから、先に行くね」
「はい、よろしくお願いします」
メリーさんと他の子供達は先に牧場に向う。
私は未だに地面に蹲っているルドラさんを叩いて起こすことにした。
「おーい、ルドラさーん。起きてください。男性はそこを蹴られると、気絶するくらい痛いんですかー?」
「う……。痛いってものじゃないですね。この世の終わりが見えますよ……」
「へぇ~、どんな結末でしたか?」
「恐ろしくて口にするのも……」
「ぷっ! 何ですかそれ。答えになってないじゃないですか」
私はルドラさんに手を貸して立ち上がらせた。
ルドラさんは私に背を向けて下半身を調べていた。
「よかった、ありますよ!」
「報告しなくて結構ですから……」
私とルドラさんは荷台の前座席に乗り、牧場に向う。
「いやぁ……。恥ずかしいところをお見せしました。まさかあれほど綺麗な方がいるとは露知らず。あの攻撃的な性格もいいですねー」
「ルドラさん。あの方は一三歳なので未成年ですよ」
「え?」
ルドラさんの表情が固まった。あまりにも驚き過ぎて声も出せないみたいだ。
きっとメリーさんを初見で未成年と見抜けるのは肉親くらいだろう。つまり、誰もいないということだ。
「う、嘘だぁ……。あの体形で一三歳なんてありえませんよ。だって、幼児体型のキララさんと三歳しか変わらないじゃないですか」
「ルドラさん、何気に酷いことを言っていると気づいてますかね。まぁ、私も思いますけど……」
「じゃあ、私は未成年の子に食事を誘った不審者と判定されたわけですね……。なるほど、蹴られた理由が分かりましたよ」
ルドラさんは失恋したかのような表情で俯いていた。
「ルドラさん、気を落とさないでください。女性なら沢山いるじゃないですか。カイリさんまでとはいかなくても、ルドラさんは中々博識な顔をしていますから結構カッコいいですよ。私は好みじゃないですけど」
「ありがとうございます、なんか棘がありますけど。誉め言葉として受け取っておきますよ。でも、あの方は未成年なのですね。はぁ~~」
――ため息が重い。この感じ、恋愛経験ゼロっぽいな。私と同じじゃないか。
「ルドラさんは恋愛ってしたことありますか?」
「え? いきなりですね……。もちろん無いですよ」
「やけにあっさり言うんですね。もっと恥ずかしがると思ったんですけど」
「だって、恋愛なんて出来ませんよ。私は既に婚約した人がいるんですから」
「既婚者……」
「既婚者と言うか、許嫁がいるんですよ。私は地方の商人家系の弱小貴族です。まぁ、弱小貴族と言っても王都の学園に通えるくらいの蓄えはある家ですけどね」
「ルドラさんって貴族だったんだ……。初めて知りましたよ」
「だって言ってませんでしたからね。言ってない情報を知られていたら怖いですよ」
「まぁ、調べたら分かると思いますけど、調べようとも思っていませんでしたから凄く驚いています。そう考えれば、フロックさんとカイリさんも貴族なんですよね。私、凄い人達と知り合いになってたんだな……」
「フロックは騎士の家系の弱小貴族で、カイリは魔王を倒す際、尽力した功績が認められたクウォータ家の息子です。まぁ、大貴族ってやつですね」
「はぁー。学園にはそんな凄い人達がいっぱい集まるんですね」
「キララさんはこの先、ルークス王国の王都の学園に行くんですか? 年齢的にあと一から二年で学園に入学できますよね。村の少女に『ルークス王国の王都の学園に行くんですか?』と聞くのも変ですけど、考えを聞かせてもらってもいいですかね」
「えっと、まぁ……。私は王都の学園に通ってみようと考えています。まだどの学園に通うか決めていませんが、ルークス王国の王都であればどの学園でもいいと思っているので、私のこれがしたい! と言う心の叫びが通じる学園に入る予定です」
「もう、受かる前提みたいな喋り方ですね……。でも、キララさんなら全く問題ない気がします」
「ただ、受かったとして、とんでもなく階級の違う人たちと混ざり合って上手く生活していけるかが少しだけ不安なんですよね」
「話の上手いキララさんなら心配しなくても、全く以て問題ないですよ」
「ほんとですか?」
「はい、キララさんなら十分やっていけると思います。ただ、今はスキル重視社会なので、差別される可能性は高いですね。でも、学園に入学して試験でいい成績を取っていれば、落第する可能性はありません」
「そうですか……。というか私、学園に入ったあとの話をしていますけど、入学するのも大変ですよね?」
「まぁ、勇者、剣聖、賢者、聖女の四種類のスキル以外の村人がルークス王国の王都にある学園に入学したと聞いた覚えはないですけどね……」
「えぇ……。入学できるかどうかさえ怪しくなってきたんですけど……」
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