息を荒げて声をかけてくる成人の男は皆、ウォーウルフ
「な! 何ですかその板!」
ルドラさんは金貨が出てきた板を見て驚いていた。
「え、ああ、色々説明するのが面倒なので簡単に言うと我が家の金庫です」
「金庫……。この板がですか」
ルドラさんは商人の性格なのか、気になったものに過剰に反応してしまうらしく、買い物の途中なのにキャッシュカードの方に話題が回ってしまいそうになる。
「あの、ルドラさん。今は買い物の途中なのでとりあえずその子袋をくれませんか?」
私は金貨一枚をルドラさんに手渡す。
「あ、すみません。そうでしたね」
ルドラさんは私にビーンズの入った小袋を手渡してくれた。
――よし! 大豆を手に入れた! まさか、各村ではありふれた食材だったとは節穴だったな。もっとよく探せば街でも見つけられたかもしれないのに。でも、今見つけられたのは大きい。よし、ズミちゃんの耕した畑に植えて発芽させよう。って、私はこの後にも仕事があるんだった。あとでだな……。
ルドラさんは私に小袋を渡したあと朝食のビーの子を全て平らげる。そのまま、レモネに齧りつき、案の定、タコのようなしわくちゃな口をして顎の横を押さえていた。
――キューッとなっちゃったのかな。最初の方はそうなるけど、慣れると結構たべられるようになるんだよね。
ルドラさんは早く話がしたいのか、爆速で朝食を終える。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ごちそうさまでした」
「はい、ちゃんと食べてくれましたね」
「キララさん! もっと色々見せてもらってもいいですか!」
ルドラさんは私の肩を両手でガシッと掴み、息を荒げてお願いしてきた。
――この状況、この場面だけを見たら結構危ない状況だよね。二○歳の男性が一〇歳の少女の肩を持って、色々見せてくださいなんて……。
「ルドラさん。姉さんに何をお願いしているんですか?」
「ルドラさん。お姉ちゃんに何を見せてもらおうとしてるの?」
私とルドラさんの間に、ライトとシャインが割り込んできた。
ライトは魔法の杖をルドラさんの脳天に当て、地面には発動前の魔法陣が展開している。
シャインは木剣をルドラさんの首元に当て、木剣の柄を握りつぶしていた。
「どわっつ!」
「ルドラさん!」
ルドラさんは驚き過ぎて尻もちをつき、震えている。
「ちょ、ライト、シャイン、止まって!」
ライトとシャインは子供達と一緒に食事をしていたのだから、さっきまでの私たちの会話を見ていたと思うけど、この二人は物事に集中すると周りが見えなくなるから、私達の会話を聞いていなかったのかもしれないと思い、私は二人を止める。
「姉さん。体をいきなり触ってくる成人の男は危ないってパイパイさんが言ってたよ」
「お姉ちゃん。息を荒げて声をかけてくる成人の男は皆、ウォーウルフになるんだって。パイパイさんが言ってた」
「ちょ! メリーさんの話と今は全く関係ないからね。そもそもルドラさんはもっと大人の女性が好みなんだよ(多分)。私みたいなちんちくりんには興味ないよ」
私は咄嗟に嘘をつく。
「そ、そうですよ。さすがに一〇歳は範囲外です」
「ほんとですか?」
「ほんとに?」
ルドラさんは頭を縦に大きく振る。
「よかったね、姉さん。興味ないって」
「よかったね、お姉ちゃん。まだ大人の魅力がなくて」
「う、うん……。色々棘がある言い方だけど、まずそう言う状況じゃなかったんだってば」
私はライトとシャインに早とちりしてはいけないと叱ったあと、先に仕事に向かわせた。
「はぁ……。弟と妹がすみません」
私はルドラさんに頭を下げる。
「いえ、私も悪かったので気にしてませんよ。にしてもあの動き、ただ者じゃないですね……」
「ですよね」
「もう、ほぼ瞬間移動みたいな動きに見えましたから、相当な強者ですよ。すでにBランク以上の冒険者いや、Aランクでもありえるかもしれませんね。まだ八歳とは思えませんよ」
「もう少し、常識を覚えてほしいんですけどね」
――さっきみたいな間違った教えを、ちゃんと教えなおさないといけないな。その為には元凶のメリーさんを何とかしないと。
私は朝食を終えたメリーさんを探した。
メリーさんは他の子共たちと色々逸脱しているのですぐに見つかる。
「あ~、キララちゃ~ん。探してたの~」
「メリーさん。私も探してました……」
メリーさんは牧場の方向から走ってきていた。それはもう胸元をあり得ないほど揺らしながら。
「す、すごいですね……、あの子。いくつでしょうか……」
ルドラさんは息を荒げ、メリーさんを見ている。
――あれ、もしかしてメリーさんの教え、あってるのかな。
「はぁ、はぁ、はぁ、キララちゃんから貰ったブラジャーが壊れちゃったの。だから、また作り直してくれないかな?」
メリーさんは息を荒げ、両膝に手をついているため胸についている双丘が今まで以上に大きく見える。
「あ、そう言うことならすぐに直しますね」
「うん、お願い。これがないと私、おっぱいが邪魔で仕事にならないの」
メリーさんは見事に留め金(木製ホック)が千切れたブラジャーを私に手渡してきた。
――留め金が三つもあるのに、乳圧に耐えきれず破損するなんて。まだであって二週間も経っていないのに……。成長しているというの。まぁ、いいか。ベスパ、少し大きめのブラジャーに作り直してきて。あと、留め金は四つに増やしておいて。
「了解しました」
ベスパは山の方に飛んで行く。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あ、あなたの名前は何というんですか?」
ルドラさんはメリーさんに息を荒げながら声をかけていた。完全にやばい男の人だ。
「え? メリーですけど」
「メリーさんですか。えっと、よかったらこの後、私とお茶でも」
ルドラさんはメリーさんの肩に手を置いて、鼻の下を伸ばしながら誘っていた。
「ふっ!!」
メリーさんはルドラさんの股間にえげつない蹴りを入れる。
「あぐっ!!」
ルドラさんは悶絶し、その場で縮こまっていた。何とも情けない格好である。
「うわぁ……、痛そう」
「息を荒げて声をかけてくる男の人はウォーウルフ。私の教訓よ! って、ごめんなさい! いつもの癖で蹴り上げてしまいました!」
「わ、私はただ……、顔が好みだっただけで……。うぐ……」
ルドラさんはあまりの痛さに気を失ってしまった。
「メリーさんの蹴り、凄かったですね。ルドラさんの大切な部分がなくなっていないか心配なくらいですよ」
「私の体型が、その……ちょっとばかし大人っぽいと言うか、そのお陰で食いつないでこれたのもあるけど、強姦に合う頻度も高くて、日々撃退してたらいつの間にか、無意識に急所を蹴れるようになっちゃったの。あ、キララちゃんにはまだ分からないか」
メリーさんは口に手を置いてつぐむ。
――ん~~、ちょっとばかし? ちょっとばかしとはいったいどういった言葉の意味なのか私には全く持って理解できないのですが、Hカップの方がちょっとばかし大人っぽいって本気で思っているんですかね。じゃあ、AAカップの私はどうなるんですか! 子供じゃないですか! 赤ちゃんじゃないですか!
「キララ様落ち着いてください。今日は疲れすぎて切れやすくなってますよ。心を穏やかに保ってください」
ベスパは大きなブラジャーを作り直して持ってきた。
「すーはぁーすーはぁー」
私は大きく深呼吸をして無い胸を反らせたり、へこませたりする。
「キララちゃん、いきなりどうしたの、大丈夫?」
「はい、少し取り乱してしまいました。あの、言っておきますとメリーさんはちょっと大人っぽいではなく、だいぶ大人っぽいです」
「え? 私はまだ一三歳なんだよ。全然大人じゃないよ~」
メリーさんはその場で飛び跳ねながら大人ではないと主張する。
すると、大きな胸がブルンブルンと揺れて主張を強めた。
私は自分の胸に手を当てて気分を奈落の底に落とされたあと、大きすぎる壁が目の前に立ちはだかり、絶対に越えられない壁だと確信してしまう。
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