ブラックベアーが街で暴れた次の日
――危なかった……。ルドラさん、お酒を飲み過ぎだよ。
ルドラさんは木の床で眠りっぱなしだったので絨毯の敷いてある場所に運ぶ。
もちろんベスパに運んでもらった。
このまま起こすのも可哀そうなのでシーツを肩まで掛けて眠らせておく。
「よく寝てる。そりゃあ、あんな戦いに巻き込まれたら疲れるか。私も疲れたし、さっさと寝よう」
お父さんとお母さんは私に怒って来ない。
きっとルドラさんの話をあまり聞いていなかったんだろう。
はじめから晩餐会のような気分で盛り上がっていたのか……。
ルドラさんが話していなかったと知り、私は両親に話しておこうと思った。
お父さんとお母さんにもライトとシャインに話した今日の出来事を伝える。
「はぁ……。まぁ、キララだしな。そう言った危ない事件に首を突っ込むとは思っていたが全身浸かっているような状態だったんだな。でも、無事に帰って来てくれて、お父さんは嬉しいよ。キララが無事に帰って来てくれれば、それ以外語る言葉はない」
お父さんは少々ほろ酔いの状態だったが、すんなり許してくれた。
「お父さん……」
「だって、母さんが全て言ってくれるみたいだからな……」
お父さんの顔が青ざめ、一気にアルコールが抜けていく。
「え……」
私の顔からも血の気が引いていき、視線を横にずらしてお父さんの隣にいるお母さんの方を少しずつ見た。
「キララ……。あなた、また危険な事件に首を突っ込んだのね……。以前もあれだけ言っておいたのに」
お母さんの顔は今日私が見てきた生き物の中で何よりも恐ろしかった。
その顔を表すならクマ、悪魔、いや……母親の顔だ。
この世でも、最も恐ろしい生き物は母親らしい。
私は夜中にも拘らず、お母さんにこっ酷く叱られて意気消沈した……。
☆☆☆☆
朝起きると、昨晩に私は、お母さんの罵声が頭の中を駆け回っている状態でベッドに倒れ込んだのか、服すら着替えずにベッドに乗りきらない状態で眠っていた。
ベッドからはみ出したした布団のような状態だ。
「姉さん! 朝だよ! 起きて!」
「うぅ……ん……。もう朝なの」
私はライトの大声で起きた。
外はまだ暗い。
七月の明け方は午前五時くらいなので、私の眼が覚めた時間は午前五時よりも早いらしい。
『ドンドン、ドンドン』
ライトが私の部屋の扉を叩いていた。今日は何かあったのかと思い出すも、分からない。
「はいはい……、今、開けるよ」
私は二日酔いのようなひどい倦怠感を覚えながら、重たい体を起こして扉を開けた。
「おはよう、姉さん。さ、仕事に行くよ」
扉を開けると作業着を着たライトの姿があった。
加えて、ルドラさんも立っていた。
「どうしたの、ライト……。今日は何かあった? 私、昨日に色々あったせいで凄く疲れてるんだけど……」
「特に何もないけど、ルドラさんが仕事を早く見たいんだって」
「え? ルドラさん……」
私は昨日、酔いつぶれていたルドラさんの方を見る。
「あ、おはようございます、キララさん。昨日は申し訳ございませんでした。キララさんのお父さんとお母さんが気さくな方すぎて、お酒がついつい進んでしまって、すぐに酔っぱらってしまいました……。お恥ずかしい姿を見せてしまったようですね」
ルドラさんは苦笑いを浮かべ、手で後頭部を掻いている。
「ルドラさん、昨日すっごく体調が悪そうにしてたのに、もう元気になったんですか?」
「ライト君が『クリア』を掛けてくれまして、体内のお酒を消してくれたんですよ。ほんと凄いですね、ライト君。まさか、治癒魔法を自分で作り出すなんて思ってもみませんでしたよ」
「はぁ……。なるほど、お酒を『クリア』で消したのか。まぁ、毒と言えば毒だし、可能なんだね」
私は魔力の使い過ぎによる倦怠感なのでライトの『クリア』では回復できない。
とりあえず起き開けの一杯に水を胃に流し込んだ後、栄養を取るためにパン、牛乳、レモネ、蜂の子などを食べれるだけお腹に入れた。
「ふぅ……。食べたら少し元気出てきた」
「じゃあ、キララさん。牧場の方に早速行きましょう」
ルドラさんは遊園地にでも向かう子供のようなキラキラした瞳で、牧場に行きたがった。
私は変わった人だと思いながら、汗を掻いた汚い状態で仕事をするのはさすがに嫌だと思い、ライトに頼むことにする。
「ライト、ルドラさんに牧場を案内してあげて。私、昨日から着替えてないし、準備したらすぐに行くから」
「分かった。じゃあ、行きましょうか、ルドラさん」
「はい。よろしくお願いします!」
ルドラさんとライトは明け方の外に出て行った。
「はぁ……。徹夜明けって感じがする……。何でこんなに倦怠感が酷いんだろう……」
「キララ様、おはようございます。大分お疲れのご様子ですね」
ベスパが私の頭上に現れた。
「そうだね……。さすがに昨日の騒動で身も心もボロボロだよ……。最後のお母さんのお説教が決め手になって私の体力はゼロになったから。もう、今日は仕事に行きたくないくらい辛いよ……」
「キララ様。その倦怠感の原因は昨日戦ってくれた者達への報酬によって引き起っている魔力枯渇症の症状です。戦いが終わってから仲間に魔力をずっと配っているのですが、未だに配り終わらず、あと半日はその状態が続くと思われます」
「昼頃までこの状態か……。まぁ、虫たちには相当頑張ってもらったから文句は言えないけどさ。とりあえず体を拭いて着替えるからどっか行ってて」
「キララ様の裸なんか見ても何も思いませんよ。そもそも私はキララ様の魔力ですから、キララ様と同一人物のようなものです」
「そうやって自分の意思を持って話している時点で私とは別の存在なの。見かけも中性的で変に意識しちゃうから、どっか行ってて」
「そうですか。分かりました。ではブラットディア達も移動させた方がいいですよ」
「はぁ……。ディア、この部屋に何匹いるの?」
「ざっと一〇○匹ですかね! キララ女王様をすぐに移動させられるように配備しております!」
ブローチに擬態しているディアが大声で叫ぶ。
「じゃあ、私が着替え終わるまで部屋に入ってこないよう伝えて」
「分かりました!」
私はディアを握り、テーブルに移動させる。
ディアはカサカサと走り、どこかへ消えた。
私は直径二○センチメートルほどの桶を持って雨水をためている水溜に向い、桶一杯に水を汲んだ後、自分の部屋に戻る。
部屋に入ったら桶を床に置き、服をすべて脱いで全裸になった。
――ほんとに一〇歳の子共だよなぁ。胸がないから下半身を隠していたら男か女か分からん。
私は綺麗な布を桶に入っている水に浸して湿らせたあと硬く絞って水が落ちないようにする。
私は湿った布で体を拭いていく。
――はぁ、冷たい。でもお湯にするのは面倒だし、時間もかかる。シャワーが恋しいな。
私は全裸で体を拭いていた。
誰も一〇歳のお色気場面なんて見たいとも思わないだろうが、不意に視線を感じたので窓際に指先を向ける。
「お、お姉ちゃん……。私、私……。その指おろして……」
窓際に立っていたのは朝練帰りのシャインだった。
「シャインか。どうしたの?」
「いや、お姉ちゃんがこんな時間に体を拭いてるのが珍しいなと思って……」
「確かに。こんな時間に体拭くのは初めてかもね。まぁ、昨日拭けてなかったから仕方なくこの時間に拭いてるんだよ」
「ふぅ~ん。でも、お姉ちゃんの体、全然成長してないね……」
シャインは少し暗い声で話した。
「くっ……。シャ、シャイン……。それは別に言わなくてもいいんじゃないの……」
「いや、何かの病気だったらどうしようと思ってさ。私だってちょっとは胸出て来たのに、お姉ちゃん、まっ平らなんだもん。『お母さんが大きいからキララとシャインも大きくなるわよ』ってお母さんが言ってたのに、何でお姉ちゃんはまだ平らなの?」
私は妹から体の成長に対してズケズケと切り込まれ、もとから体力のなかった心を抉った。
「ひ、人には個人差があって成長速度が違うからだよ。ほら、剣術だってすぐ上達する人と遅くに成長する人がいるでしょ。そういう違いがあるんだよ」
「そうなんだ。でもお姉ちゃん、剣術どれだけ練習しても上達しなかったよね。胸も成長するかどうか分からないね」
「ぐふっ!」
私は前のめりになって倒れる。
それはもう、妹が剣の天才だと言わんばかりに私の弱点を的確に切り裂いてきた。
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