ルドラさんと天才の二人
「ありがとうね、レクー。レクーがいなかったら私はこの世にいないよ。レクーにも何度死ぬ思いをさせたか……。私は悪い主人だよね」
「僕はキララさんの脚ですから。キララさんの行くところ僕、ありです。なので、気にしないでください。僕はキララさんと死ねるなら本望です」
「うぅ……。レクー、ありがとう。本当にありがとう~」
私は厩舎でレクーの頬に愛のキッスをなども行い、感謝の気持ちを最大限伝えた。
元トップアイドルのキッスを貰えるなんて、レクーは幸せ者だ。ま、私はレクーになら何度でもキッスできる。なんせ、私の相棒だからね。
レクーはフロックさんと同じくらい私を助けてくれている存在だと思う。
ほんと、レクーと出会えてよかった。
私はレクーにお休みのキッスをして厩舎をあとにする。
――ベスパ。今日の報酬を地下の金庫に送っておいて。
「了解!」
ベスパは金貨15枚を『転移魔法陣』で地下金庫に送った。
「じゃあ、ルドラさん。私の実家に行きましょう。こんな夜遅くにルドラさんを野宿させるわけにはいきません」
私は厩舎の外で待っていたルドラさんに話しかける。
「私がキララさんの実家についていってもいいんですか? 弟妹の誕生日なんですよね。私なんていたら、お邪魔なんじゃ……」
「いえ、逆にいてくれないと困ります。私に何があったのか説明してくれる人がいないと私が弟と妹に殺されます」
「なるほど……って、いったいどんな関係なんですか? 殺しあうってわけが分からないんですけど」
「仲はすっごくいいんですよ。すっごくね……。でも、色々とかけ離れていると言いますか。私が言うのも何ですけど、弟と妹は天才なんですよ」
「天才……。キララさんも十分天才の領域に達していると思うんですけど、キララさんの言う天才とはいったい。えっとどんな弟と妹さんなんですか?」
「魔法と剣の天才児です。スキル無しでやっている魔法と動きとは思えません。家族の基準が狂っているので、他人のルドラさんにも見てもらいたいですよ」
「魔法と剣の天才……」
私がライトとシャインの話をしていた時、ふと空を見上げて星空を眺めていたら、空中に浮かぶ少年がいた。
「げっ! ライト……」
「え? 誰ですかあの少年。空中に浮いていますよ」
私につられて空を見た、ルドラさんもライトに気づく。
「あの子が私の弟です……。名前をライト・マンダリニアと言います」
「あっ! 姉さん! やっと帰ってきた! もう、心配したんだよ。……って、誰? その男の人!」
「え、いや。別にただの仕事仲間だよ……」
『スタッ……』
ライトは私とルドラさんの間に入り、空中から降りてきた。
「どうも初めまして。キララ・マンダリニアの弟、ライト・マンダリニアと言います。あなたの名前は?」
ライトは胸に手を当てて少し会釈し、挨拶をした。
「ど、どうも、始めまして。ルドラ・マドロフと言います。しがない商人です」
ルドラさんもライトと同じ動作をしながら挨拶をした。
「なるほど、商人さんですか。つまり姉さんの仕事仲間ですね」
ライトは恋敵を見たかのような表情をしていたのだが、美少年の笑顔を見せる。
「だからさっきもそう言ったでしょ。私を疑ってたの?」
「別に疑っていないよ。もしこの男の人が姉さんをだましてここまで来たのなら、記憶を消して魔物の餌にでもしてやろうと思っていたただけさ」
ライトはスラスラと悪魔のような発言をした。
「私がキララさんをだますわけないじゃないですか」
「犯罪者は簡単に嘘をつきます。手を出してください」
「え……。分かりました」
ライトはルドラさんと握手をした。
「なるほど。嘘じゃないですね」
ライトはルドラさんの手を放し、胸をなでおろした。
「え、ライト何をしたの?」
「ルドラさんの言葉が嘘か本当かを調べただけだよ。人は嘘をつくと魔力の流れが一瞬滞るんだ。それを見つけてから、いろんな人に嘘か本当のことを聞いて回って試したら確信に変わったね。姉さんも出来るようになると思うよ」
ライトは魔性の笑顔を私達に見せてきた。
「ほ、本当に天才だ……」
ルドラさんは恐怖からか言葉を失っていた。
「ですよね……」
私達は三人で家まで戻る。
「ライト、シャインは?」
「シャインなら家の前で鍛錬をしてるよ。姉さんが帰ってくるまで素振りし続けるんだって。夜中も素振りする予定だったらしいけど、今日中に姉さんは帰って来たら徹夜せずに済んでよかったよ」
「なんともまぁ、荒行をするもんだ……」
ルドラさんは呟く。
「素振りならいいんじゃないですかね。まぁ、時間は少し狂ってますけど」
私達は家の前に到着する。
「あ、お姉ちゃん。お帰り~。案外早かったね」
シャインは汗だくの状態で家の前で待っていた。
今の今まで木剣を振っていたのだと分かる。
その証拠に、シャインの後ろには柄の部分で折れた木剣が何本も転がっていた。
「えっと……。この木剣はなぜ折れているんでしょうか?」
ルドラさんは気になり過ぎたのか、自己紹介よりも先に質問をした。
「えっと、誰ですか? 怪しい人なら切ります!」
「んッぐ!!」
シャインは眼力を飛ばしてルドラさんを震え上がらせる。
「シャイン、この方は姉さんの仕事仲間なんだって。そんなに威嚇したらダメだよ」
ライトはシャインにルドラさんの素性を話す。
「あ、そうだったんですか。ごめんなさい。私はてっきりお姉ちゃんが男の人に騙されているのかと思ってた」
シャインは深く頭を下げ、にっこりと笑いながら呟く。
「何か、二人して私のことどう思ってるの……?」
「だって、お姉ちゃんは大人の男性が好みなんでしょ。牛乳を売っていたらそれを狙ってくる悪いやつに付け込まれるかもしれないし」
「私がいつ大人の男性が好みなんてシャインに話したの? 言った覚えないけど」
「え? 何となくそんな気がしただけ。お姉ちゃんは子供の男に興味なさそうだから、そうなんじゃないかなと思ったんだよ」
――す、鋭い。私は年下より年上の方が確かに好みだけど、まさか七歳児に心を読まれるとは思わなかった。いや、今日で八歳か。
「えっと、さっきは眼力を飛ばしてすみませんでした。私の名前はシャイン・マンダリニアと言います。私はキララお姉ちゃんの妹で、ライトとは双子の姉です。よろしくお願いします」
シャインはルドラさんに頭をさげる。
「私の名前はルドラ・マドロフと言いますこ、こちらこそ。よろしくお願いします」
ルドラさんは胸に手を当てて軽く会釈をした。
「ルドラさんですか。つかぬことをお伺いしますが、今日はなぜこの村にやってきたんですか?」
「牛乳パックをルークス王国の王都に運ぶ際、キララさんに街まで運んでもらうのが申し訳ないと思い、私が直接取りに来ました」
「なるほど。それなら何ら問題ないですね。ささ、家の中にどうぞ、どうぞ」
シャインはルドラさんを家に招き入れる。
その後から私もついていく。
「ライト、シャイン。その方は?」
お母さんが家の奥から出てきて二人に話掛けた。
「姉さんの仕事仲間なんだって。ルークス王国の王都に牛乳パックを運ぶらしいよ」
「あぁ、そうなんですか。ライトとシャインがご迷惑をおかけしなかったでしょうか。そもそも、キララがご迷惑をおかけしているかもしれません。どうぞ家の中にお入りください」
お母さんはルドラさんに何度も頭を下げ、家の中に招き入れた。
「失礼します……」
ルドラさんは靴を脱いで家の中に入っていった。
「じゃあ、私も……」
「姉さんはまだ」
「お姉ちゃんはまだ」
「え……?」
私はライトとシャインに止められてしまい、腕を掴まれて家の外に出た。
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