真っ暗な夜道と発行体
「る、ルドラさんは人を殺した覚えがあるんですか……」
「ええ、ありますよ。なんせ、私が殺されかけたんですから、殺さないと私が死んでいました」
「そ、そうですか。その時はやっぱり商人の仕事をしている時ですか?」
「そうですね。私達は職業柄、お金と荷物を共に運びます。なので格好の餌食なんですよ。強い者は商人にならず冒険者や騎士になりますからね。商人は弱いと思われているのが一般的な知識です」
「じゃあ、ルドラさんは強い商人さんなんですか?」
「いえ、弱いですよ。戦なんて専門外ですから。私はお金を稼ぐためだけに頭を使うんです。戦いに割いている場合じゃないんですよ。ま、頭脳派が多いのは商人の特徴ですね」
「そうなんですか……」
「でも、やっぱりキララさんは商人の性格をしていますよ。仕事に忠実、新しい仕事の開拓、時間厳守、加えて物を浮かせると言った商人の腰を守るスキル。適度な魔法。加えてそのキレる頭。商人にならない方がもったいないんじゃないですか」
「凄い、いっぱい褒めてもらって嬉しいですけど、私は別に普通の10歳ですよ。ちょっと未来を見据えている10歳児です」
「もう、その時点で凄いですよね。10歳で未来を見据えているなんて」
「そうですかね……」
「未来を見据えるなんて言葉を放つ10歳の子共を私は見た覚えがありません。仕事をしている子供は多いですが、もっと遊びたいという子や勉強したい、仕事したくないという子が大勢いる中、キララさんは誰からの教えもなく、自分から突発的な思い付きで未来を見ている。関心以外の言葉が見つからないですね」
「も、もぅ、そんなに褒めても何も出ませんよ~」
――私はただ、21歳の精神年齢なだけです。心では31歳な気もしている。31歳……、三十路か。早いな。って、私はまだピッチピチの10歳児なんだ。体は年を取るけど、心は年を取らない。
私はアイドル時代を思い出し、21歳の心を呼び戻す。
――刺激的な物事を行っていれば、心はいつまでも若いままでいられるって大御所の女優さんも言っていたじゃないか。そうだよ、例え心が31歳でも私はまだまだ若い。大丈夫、体は若いんだから、心が少しおばさんでも……。お、おばさん……。
私はおばさんの一言で心臓を抉られる。
「き、キララさん。大丈夫ですか。顔色が悪いですよ」
「る、ルドラさん。私、おばさんですか……?」
「はい?」
「私、おばさんに見えますか?」
「いえ……。どう見ても、美少女にしか見えませんけど」
「そ、そうですよね。私、美少女ですよね。よかった……」
「キララ様、自分で美少女と言うのは自信過剰すぎますよ。加えて他の人がいる前で言うのも少し……」
ベスパは私の頭上に移動し、言葉を投げかけてきた。
――ちょっとした確認作業だから気にしないで。
「でも、キララさんと話している感じ、10歳と言う気は全くしませんね。どっちかと言うと私と近い年齢に感じます。20歳くらいの方と話しているような感覚ですね。何ならもう少し上か……。25歳くらい」
「21歳です!」
「はい?」
ルドラさんは困惑した表情を浮かべる。
「そ、そこは多分。21歳だと思います! 25歳じゃなくて、21歳だと思います!」
「えっと……、4歳しか変わらないじゃないですか」
「何言っているんですか! 4歳も! 変わるんですよ。ルドラさん。女性にそんな口の利き方をたしたら好意を持たれませんよ!」
「うっぐ!!」
ルドラさんは心臓に槍を打ち込まれた様な声を出した。
「ルドラさんが女性に年齢はいくつに見えますか? と聞かれた時、本気で当てに行こうとする正直な男性ですよね」
「え、ええ……、そうですね」
「ルドラさんは多分30歳くらいに見えたら30歳と言いそうです。加えて25歳の方に30歳と言って5歳しか変わらないじゃないですか。と言いそうな雰囲気が今の言葉で分かりました!」
「ぐはあっ!」
ルドラさんは心臓にまたもや槍が打ち込まれ吐血している幻影が見えた。
「その反応を見る限り、言った覚えがあるんですね」
「遥か彼方、学生時代の私に言っておけばよかった言葉はありますか……」
「女性は見た目の10歳下を言え」
「私の手帳に教訓として書かせてもらいます……」
「キララ様は0歳児に見ますよ~」
ベスパはクスクスと笑いながら、言ってきた。どうも煽っているように聞こえる。
――ベスパ、それは違うよ。バカにしているの? って思われるよ。ちゃんと考えてから発言しないと女性は怖いからね。
「も、申し訳ございません……。私には全く持って理解できぬ領域にございまする~!」
ベスパは空中で回転しながら土下座をしていた。器用な虫だ。
☆☆☆☆
私達は街から移動して数時間が経ち、周りの明りがさすがになさすぎて道が見えなくなってきた。
――ディア。道の端にブラットディア達を等間隔に配置できる?
「可能です! 光ればいいんですかね! キララ女王様!」
――うん。道が暗くて分かりにくいから、少しでも分かりやすくしようとおもって。
「分かりました! では一メートル間隔でブラットディアを配置します」
――お願い。あ、そうだ。ベスパは発光体になってバートン達の前を飛んで道を照らして。
「了解しました」
ベスパとディアは私の命令を忠実に聞き、実行した。
ほぼ真っ暗だった道がブラットディアの魔力の発光により、くっきりと見えるようになり、ベスパの輝きで視界が一気に広がる。
「おぉ~。一気に明るくなりましたね。何でですか? ここまで来たら魔道具が発動するようになっていたんですかね?」
ルドラさんは興奮気味になり、驚いていた。
「雷魔法の一種で『ライト』の応用ですよ。私のスキルで発光体を浮かせているんです。道にあるのも発光体を配置しただけなので、魔道具じゃありません」
――ま、本当は虫たちの持っている魔力を光らせてるだけなんだけど、魔法っていったほうが信じてもらいやすいし、ビーやブラットディア達を使役してるとか知られたくないし。
「なるほど。『ライト』をこの数……、って何発『ライト』を発動させているんですか!」
「さぁ、分からないですけど。村に着くまでは光の道を作っているはずです」
「小さいとはいえ、個数が個数ですから、相当な魔力を消費するはず。キララさんは魔力量って計った覚えはありますか?」
「いえ、ないです。でも、結構多いと言われた覚えはあります」
――私のスキルにだけど……。
「魔力量を測る水晶があるんですけど、使ってみますか? ルークス王国の王都の学園でも使われている水晶なんですけど」
「何で、そんな水晶をルドラさんが持っているんですか?」
「地方ギルドに頼まれたんですよ。魔力量をもっと正確に測れる水晶が欲しいって。なので、王都で型落ちした水晶をいい値で買ってきたんです」
「ほんと、王都って何でも売ってるんですね……。というか、魔力量ってそんな大切な基準なんですか?」
「学園のクラス分けや冒険者のランクを決める際に魔力量は大事な判断基準です。水晶で計り取れる魔力量が正確であればあるほど正確なランク設定が出来るんですよ」
「なるほど。でも、私は自分の魔力量なんて知らなくても生きて行けるので、別に興味ないです」
「そうですか……」
ルドラさんは落ち込む。
なぜ落ち込むのかは分からないが、私の魔力量がそんなに気になるのか。
――ベスパ。私が水晶で魔力を計ったらどうなるかな?
「推測ですが水晶が破裂します。容量を超えるとコップの水がこぼれるのと同じ現象ですね」
――破裂ね……。断っておいてよかった。破裂したら水晶を弁償しなきゃいけなかったよ。
「ルドラさん、ちょっと聞きたいんですけど水晶の値段っていくらなんですか?」
「金貨200枚ですよ。型落ちする数年前の場合、二倍の値段で売っていました」
「はぁ~、すっごい高い物なんですね」
――よ、よかった~。金貨200枚が木っ端みじんになるところだったよ。魔力を計る水晶ってそんなに高いんだ。なんでかよく分からないな。ただのガラス玉じゃないの?
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