どんな所でも商人は仕事をする
私はベスパの作った紙につたないルークス王国語で手紙を書く。
『ライト、シャイン、ごめん。お姉ちゃんは今日、帰りが遅くなっちゃうかも。今度埋め合わせするから、許して! おねがい、この通り! だから、死の1000本勝負はなしにして!』
と姉としては情けなさすぎる謝罪文を書き、ベスパに渡した。
死の1000本勝負とはライトと500回、シャインと500回、戦うと言った、そのままの意味。
つまり死を意味する言葉だ。
「天才児と1000回戦ったら凡人の私はさすがに死ぬ……。ブラックベアーと同等に恐ろしく感じてきた……」
「では、ビーに運ばせますね」
「うん、お願い」
ベスパの持っている手紙が数匹のビーに渡され、私の住んでいる村の方向に飛んで行った。
「これで多少は罪が軽くなったかな……。もう、本当に早く帰らないと、姉の威厳が落ちる。レクー、全力疾走で移動して」
「え、でも……」
「うん分かってる、分かってるよ。人が出てくるかもしれないし、材料を運んでいるバートン車にぶつかるかもしれない。でも、このままだと私が死にかねない……。だから、出来るだけ早く走って」
「わ、分かりました」
レクーは今日ずっと走りっぱなしとは思えない速度を出し、闘技場に向った。
☆☆☆☆
「は~い、魔物の串焼きが一本、銅貨1枚だよ。年に一度の最安値だ! ただし、お一人様、二本限りとさせてもらってる。多くの方に食材が回るようにしたいのでどうかご理解ください!」
「シトラスが一個、銅貨1枚です。みずみずしくて美味しいですよ。お一人様、一個までですが、喉の渇きとお腹の満腹感を得られます。押さずにお並びください」
「新鮮な魔物の干し肉が一袋で銅貨1枚だ。こんな時にこそエールのお供にいかがですか~。美味しい干し肉がありますよ~。噛めば噛むほどうま味が出てきて、お腹が膨れる優れ物、子供から大人までみんなが大好きな肉をこんな時だから食べましょう。元気が出ますよ~」
闘技場の周りには街のお店や露店、屋台などが並び、多くの人に激安で販売していた。
その中には私が一度だけお店を手伝ったカールさんもいた。
7日前とは打って変わって接客が相当上手になっている。
――毎日練習したのかも。あと、ちゃんと生きてたんだ。
レクーは荷台を引きながら闘技場の近くに向う。
私は少し高い位置から辺りを見渡すと、街の人の笑顔が戻ってきていた。
「へぇ……、この街、廃れてると思ってたけど、案外捨てたものではないのかも……」
「ほんとですね。皆、お金よりも友情を取っているみたいです」
ベスパも辺りを見回して笑顔になっている。
私達はルドラさんがどこにいるのかを探していた。
「あ、キララさん。こっちです。こっちこっち」
ルドラさんらしき声が聞えて来た。
私は荷台の前座席から降りてルドラさんを探す。
「キララ様、あの闘技場のすぐ入口のところに、ルドラさんがいます」
「ほんとだ。何ていい位置を取っているんだろう。さすがすぎる」
闘技場の入り口は東と西の二か所あり、ルドラさんは東の入り口にいた。
レクーに乗って進むには人通りが多すぎて移動できないので、私は徒歩でルドラさんのもとに向う。
「ルドラさん。こんな所で何をしているんですか?」
「何って、商売ですよ。私が持ってきた毛布を貸し出しているんです」
「こんな時にも商売ですか……」
――まぁ、私が言えたことではないんだけどね。
「はい。冬の時期に売れ残った王都の毛布を安く買っておいて正解でした。毛布を一枚銅貨5枚で一夜貸すと言った賃借り商売です」
「へぇ~。梅雨が明けても夜は結構冷えますからね」
「そうなんですよ。また、毛布一枚を銀貨5枚で購入してもらっても構わないと言ったら爆売れでした。毛布が100枚ほど売れたので、銀貨500枚。つまり金貨50枚ですよ。私は王都で毛布100枚を金貨25枚で買ったので、金貨25枚の儲けですね」
「こんな時にでも新しい商売を考えているなんてさすがですね」
「いえいえ、キララさんこそこの時間まで街に残っているのは不自然ですから、お仕事をしていたのでしょう。キララさんも仕事熱心ですね」
「仕事をしないと、牧場で働いてくれている皆に食事を与えられないので仕方ないですよ。さ、ルドラさん。私の住んでいる村に行きますよ。早くしないと私が殺されてしまいます」
「殺される? いったいどういった状況なんですか?」
「今日、弟と妹の誕生日なんです。早く帰らないと私……殺されます」
「そ、それは大変ですね。でも、キララさんは今日、大変な思いをされているじゃないですか。遅れてしまうのは仕方ないんじゃないですか?」
「い、いえ……その。帰ろうと思えば、帰れたんです。でも私、弟と妹が誕生日なの、恐怖で忘れてて……」
「あぁ……。それは不味いですね。何か誕生日の贈り物、又は謝罪の品を買っておいた方がいいんじゃないですか?」
「そうですけど、こんな時間にやっている、お店なんて……」
「ふっふ~。ここにいますよ。ここに~!」
ルドラさんは声高らかに自分の胸に手を置いた。
「え……、ルドラさん。確かにルドラさんは商人さんですから、物の売買を行っていると思いますけど、誕生日の贈り物なんて売っているんですか?」
「ま、その話は移動しながらにしましょう。時間がもったいないですから」
「そうですね。私、ルドラさんを信じますよ」
「ええ、任せてください。私の荷台には王都から仕入れてきた特売品が大量にありますから、お気に召すものが必ずあるはずです」
「そうだといいんですけど……」
私とルドラさんは闘技場から移動する。
共に街の門に差し掛かった。
「お、嬢ちゃん。こんな夜遅くまで仕事してたのか。早く帰らないと、親が心配するぞ」
そこには兵士のおじさんが立っていた。
「おじさん! 無事だったんですね」
「ああ、1日寝たらだいぶよくなった。起きたら街が大変な状況でな。寝ていられずここに立って仕事をしているんだ。こんな状態の街に魔物でも襲ってきたらたまったものじゃないからな」
「そうですか。でも体には気をつけてくださいね。おじさんは病み上がりなんですから」
「分かってる。俺はこの道15年の兵士だぞ。自分の体の状態くらい自分が一番よく知ってる」
おじさんは少し笑って、私達を見送った。
私とルドラさんは村に向う。
――ベスパ、街の周りに魔物がいないか一応調べておいて。いたら追っ払ってくれるとありがたい。
「了解。今すぐ調べさせます」
ベスパは上空に向かい、暗闇で発光する。
数秒して、ベスパは私のもとに戻ってきた。
「数匹のゴブリンとスライム、ウォーウルフ、などの小型の魔物が出現していましたので、街から距離を取らせました」
――そう。ありがとう。
「それにしても、ここの道はほんと暗いですね。盗賊にでも襲われたら一巻の終わりですよ。キララさんはいつもこんなに暗い道を一人で移動しているんですか?」
私はルドラさんの冷蔵車の前座席に乗っていた。
レクーはルドラさんの荷台の後ろに着かせている。道幅が狭いのでこうするしかないのだ。
「そうですよ。でも、この通りで一度も盗賊に合った覚えはありません。逆に盗賊がいたら捕まえようと考えているので、出てきてもらってもいいんですけどね」
「はは……、私の考えの斜め上を行く回答が帰ってきました。まさか捕まえようとしていたとは……」
ルドラさんは暗い夜道でも分かるほどの苦笑いを浮かべる。
「だって、人の物を盗むなんて犯罪じゃないですか。私は罪を犯す人はちゃんと裁かれるべきだと思うので、とっ捕まえて法の裁きを受けさせます」
「それはそうですが、中々上手くいかないものですよ。法の裁きなんて甘いお菓子のようなものです。法律は貴族の為にあるような制度ですから」
「え? そうなんですか? 民の為の法律だとずっと思ってました」
「民の為の法律だなんてとんでもない。なんせ、裁判をするなんて貴族くらいですからね。一般人が殺しあおうが貴族たちにとっては日常の出来事すぎて気にも留めませんよ。一回殺しあったくらいで裁判を開いていたら、きりがありませんからね」
――殺しが罷り通る世界って怖すぎ……。大量殺人者くらいしか裁きを受けずに済むのか。と言うか、殺人が罷り通るなんて絶対にだめでしょ。死体が転がってないだけ、あの街の治安は良い方だったのかも。そんな世の中で一人行動とか、私めっちゃ危ないじゃん!
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