病院の患者たち
「キララ、怪我が治ったらあの村に即向かうぜ。今回の調査は俺達に任せろ」
フロックさんは腕を回してやる気を漲らせている。
「はい、もとからお任せするつもりです。あと、今回倒したブラックベアーはお二人だけで倒したと報告してもらえませんか。私はその場にいなかったと証言してくれると助かります」
「悪魔に存在を知られているからだね。キララさんの名前がギルドの情報に流れると正教会にも知られてしまうし、その方がよさそうだ」
カイリさんはうんうんと頷き、了承してくれた。
「はい。そうです。私が生きてると悪魔に知られたら、また何かしてくるかもしれません。そうなる前に力を少しでも付けておきたいですし、色々と準備が必要なんですよ」
「分かった。あのブラックベアーを倒したのは俺とカイリということにしておく。俺達はキララの話を聞かなかったら悪魔なんて存在が世界に現れているなんて知る由もなかった。と言うか、あのブラックベアーに勝てるかどうかも怪しかった」
フロックさんは悔しそうな顔をする。
「悪魔の存在を知れたのは大きい。聖水や聖気を帯びた武器の調達をしないとな。最悪、襲われる可能性だってある。そうなると、金が必要か……」
「だね。ブラックベアーの依頼ばかり受けるのは効率が悪い。もっとお金になる依頼を受けて行こう」
「ちっ……、仕方ねえな。そうするか。一番依頼料の高いのはSランクの依頼だ。つまり、俺達は早急にSランク冒険者になる必要があるな」
「フロック。今回、ブラックベアーを討伐したのは冒険者のランクを上げるいい試料になるはずだ。実力はレディーを入れてやっとSランクと言ったところだけど、これからの努力で賄おう」
「おうよ! しゃ! そうと決まれば、こんな病院でちんたらしてらんねえ! 鍛錬のしなおしだ!」
フロックさんはベッドから立ち上がり、窓から飛び出そうとしていたので、私はフロックさんの腕をぎゅっと握ってベッドに座らせる。
「鍛錬なんて駄目に決まっているじゃないですか! 今はきちんと治してください!」
「そ、そうだな……。焦りは禁物だ」
フロックさんは遊ぶのを止められた子供のようにふさぎ込んだ。
――この人、頼もしいのか、いじらしいのか、よく分からないな……。でも助けられている瞬間はとんでもなくカッコよく見えたんだよなぁ。変なの。
「じゃあ、お二方。私はまだ用事があるので、体が治ったら私の村を訪れてくださいね」
「ああ、分かった」
「牛乳を楽しみにしているよ」
フロックさんとカイリさんとの話を終え、私は病室を出た。
「よし。次はリーズさんに話を付けないと……」
私は病院の中を巡回していたリーズさんを見つけて話しかける。
「リーズさん。少しお願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
「ちょ、キララちゃん」
私はリーズさんの腕を掴み、誰もいない診察室に入る。
「キララちゃん。強引にもほどがありますよ。二人との話は終わったんですか?」
「はい。だいたい終わりました。次はリーズさんに話しておきたい内容があるんです」
「私に……?」
――ベスパ、領主をこのベッドに寝かせて。
「了解しました」
ベスパは診察室のベッドに領主を寝かせる。
『光学迷彩』を使用していたビー達が離れ、領主の姿が現れた。
「りょ、領主。いきなり……、いったいどこから現れたんですか?」
リーズさんは小さな眼鏡がずれるほど驚いていた。
まぁ、人がいきなり現れたら驚くのは無理はないか。
「リーズさん。聞いてください。領主はまだ生きています」
「そうですね。呼吸がありますから……」
リーズさんは領主の胸に手を当て、心臓が動いているのを確認していた。
「でも、魂が食われて目を覚まさない状態です」
「魂を食われた……。まるで悪魔がいるみたいな話ですね」
「その通りです、リーズさん」
「え……」
私はリーズさんに事の経緯を話した。
病院なら死体安置所があるはずだ。
――そこに領主を隠しておけば、普段は見つからないはず……。
私はそう考えたのだ。
「なるほど。今回の事件、領主は被害者だったのですか……。そう考えると可愛そうに思えてきましたよ。でも、キララちゃんの言う通り市民は領主を許さないでしょうね。だから、死んだことにしておこうというわけですか……?」
「はい。その方が丸くおさまります。敵も領主が死んだと思っていればこの街に追撃してこないでしょう。街の報道はルークス王国の王都にもとどくはずです。その際、領主は死亡したと記事に記載されていれば少なくとも疑いの念は小さくなります」
「そうですね。分かりました。領主は預かります。魂の抜かれた体がどうなるのか医者としても興味がありますからね。それにしてもキララちゃん。どれだけ事件に首を突っ込んでいるんですか……? もう、どっぷりはまっているくらいですよね?」
リーズさんは眼鏡を掛け直し、腕を組んで私の前に立った。
「えっと、リーズさん。今日はもう怒らないって……」
「怒らずにいられますかね……、子供がこんな危険な地面に頭から突っ込んでいるんですよ。怒るのは当然でしょう!」
「は、はい……」
私はリーズさんにまた怒られた。
――うぅ、何度も叱られると心が痛い。私だって突っ込みたくて突っ込んだわけじゃないんですよ……。
数十分後。
「はぁ、今回の事件によって起こった障害は街の方でどうにかします。キララちゃんはただの被害者ですから、村に早急に帰ってください。外はもうすぐ暗くなりますし、危険がどこに潜んでいるのか分かりません」
「は、はい……。分かりました」
私はリーズさんに何とか許してもらい、診察室を出る。
「はぁ~、何とか解放された。ちょっと心配な人に会ってから病院を出ようかな」
私はオリーザさんとコロネさんが無事かどうか心配だった。
病室を見て回り、名前を見つける。
病室の中を覗き、二人がいるのを確認して入る。
「オリーザさん。コロネさん……、大丈夫ですか?」
「おお、嬢ちゃんか。はは……済まねえな。情けない格好で」
オリーザさんは病室のベッドで横たわっていた。
「体調はどうですか?」
「だいぶ良くなった。パンが早く作りたくて仕方ないぜ。こんなに休んだのも久しぶりだ」
「そうですか。安心しました」
「そうだ、嬢ちゃん。店の入り口に小袋が置いてある。その中に牛乳の代金が入っているから牛乳を店に運んで置いてくれないか」
「分かりました。オリーザさんのお店は被害に合っていなかったと思うので、牛乳の配達をしておきますね。クーラーボックスに入っていますから、14日くらいは大丈夫だと思いますけど、おかしいと思ったら捨ててください」
「ありがとうな。嬢ちゃん。もし、嬢ちゃんが来てなかったら俺達は死んでたかもしれない……。感謝しても、しきれねえよ」
オリーザさんは隣のベッドですやすやと眠っているコロネさんを見つめる。
私はベスパに言われた夜の営みを思い出して恥ずかしくなってしまった。
「そ、それじゃあ、私達はもう遅いので行きますね」
「ああ、嬢ちゃんも体調には気をつけてくれよな」
「はい。では、お大事にしてください」
私はオリーザさんとコロネさんの病室を出る。
「はぁ~、よかった。二人とも無事みたい。これで私のお得意様は皆無事だと分かった」
「私の治療が速かったお陰ですね」
ベスパは胸を張って威張る。
「そうだね。今回はベスパのお手柄だよ。ありがとう」
「いやぁ~、それほどでもありますよ~」
ベスパはあり得ないほどにやつき、嬉しそうな顔をして空中に浮遊していた。
「あ! キララさん! こんな所にいた!」
「え、ノルドさん。ノルドさんも病院にいたんですね。じゃあブレイクさんもいると思っていいんですか?」
「ええ、ブレイクもこの病院のベッドで寝ています。キララさんはお体に怪我はありませんか?」
ノルドさんは腕に包帯を巻き、脚にも巻かれている。
頭も次いでといわんばかりに包帯で治療が施されていた。
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