王都の学園に通う理由
「勇者、剣聖、賢者、聖女って……。伝説上のパーティーじゃねえか。もしかして……」
「ああ、伝書によると悪魔たちを封印したのはその四人なんだ」
「まじかよ……」
――ベスパどうしよう。私、とんでもない話に首を突っ込んでいる気がするよ。
「キララ様。安心してください。首だけではなく全身どっぷりとはまっていますよ」
ベスパは病院の壁に顔の半分だけ出し、体を埋もれさせている。
――もっとだめじゃん。私達には話の大きさが今回の事件と違い過ぎてどうしようもないよ。
「キララ様、別にキララ様は何も心配する必要ありません。カイリさんも言っているじゃないですか。勇者と剣聖、賢者、聖女のスキルを持った方々が世界を救ってくれるんですよ。私達はそれを待っているだけでいいんです。そう、牛乳を配りながら」
ベスパは壁からにゅっと出てきて楽観的に話す。
――そ、そうだよね。剣聖のスキルを持っているアイクがこの世界を守ってくれるよね。って! アイクは正教会に連れていかれてるんだけど……。
「あ……。ですね」
――ちょっと待って。勇者もアイクと一緒にいたって女騎士の四人がこの前言ってた。
「あれ、もしかしてまずい状況ですか?」
ベスパの楽観的な表情はみるみるうちに暗くなっていく。
――どう考えても、まずい状況でしょ。
「あの……、カイリさん。今、勇者と剣聖は正教会にいますよね?」
「はい。王都でも有名人だよ。そこら中で宴かと思うほど盛り上がっていましたね。勇者と剣聖の隣には正教会の大主教が立っていました。あの者が主犯だと考えると……寒気がしますね」
「あの男か……。確かにあいつは何かやばそうな雰囲気出してるもんな」
フロックさんとカイリさんが想像している人はだれか知らないが、アイクを迎えに来た白服の男はどこか不気味だったのを覚えている。
「勇者と剣聖が殺されたりなんかはしないですよね……?」
「それはないよ。なんせ、悪魔に対抗できる可能性のある者だからね。正教会が悪魔を使って世界を手に入れようとしているのなら、奇跡や聖水のほかに抑止力が必要だと考える。つまり、勇者と剣聖を簡単には殺せない。そもそも、正教会が勇者と剣聖を物理的に殺せるとも思えない」
「よ、よかった……」
――とりあえず、アイクは殺されずに済みそう。こんな大ごとに巻き込まれるなんて、アイクも災難だな……。私にはどうしてあげることも出来そうにないよ。
「ですが、キララ様。アイクさんと約束していましたよね。『また会おう』って」
――そ、そうだった……。約束があった。アイクが正教会に保護されているのなら、私がルークス王国の王都まで行かないと絶対に会えないよな……。
「まぁ、会えないでしょうね」
――アイクとは五年間も一緒に鍛錬した仲なんだ。約束を破るなんて簡単には出来ない。私はアイクに合いに行かないといけない。会って、この話をアイクにするんだ。そうすれば、何か変わるかも。思ったら即行動が、私の持ち味だけど、悪魔に合った傍から合いに行くなんて危険度が違い過ぎる。
「ですね、出来るだけ時間を置いたほうが賢明でしょう。少なくとも一年……。いや、二年ほど必要だと考えます。キララ様が学園に丁度入学できる歳になったら、事件の熱も冷めているのではないでしょうか」
――確かにね。正教会に保護されているアイクにはそう簡単には会えないだろうし、王都に長い間滞在しないといけない。そう考えると私は学園に行く理由が出来た。
「フロックさん、カイリさん。私、ルークス王国の王都にある学園に行きます!」
私は突発的に大きな声で話した。
「ど、どうしたんだ、キララ。いきなり大声何て出して」
フロックさんは口をぽかんと開け、拍子抜けた顔をしている。
「私、半年前に約束したんです。王都に行った知り合いにまた会おうって。その子が危険な目に合いそうなんです。なので、忠告しに行きます」
「忠告? 助けに行くんじゃないのか?」
「その子は私よりも遥かに強いですから、内容を知れば自分で何とかするはずです」
「レディーよりも遥かに強い……。そんな子供がいるのか?」
カイリさんは私のことを強い子共だと認識しているみたいだ。
「カイリさん。私は強くないですよ。要領が少しいいだけの10歳児です」
「いや……、ブラックベアーの頭と地面、浮島を抉る熱線を放っていたレディーが弱いとは思えないのだけど」
カイリさんは私の『超高圧熱放射』を見ていたみたいだ。
――ど、どうやって言い逃れよう。私はいたいけな少女で売っていきたいのに、このままじゃ、魔法大好き危険少女になっちゃう。
「あれは……、えっと……。スキルが暴走しただけで……」
「スキルの暴走。なるほど。それならあの威力も納得できるね。レディーほどの魔力量を持っていればスキルが暴走するのも無理はないか」
カイリさんは勝手にいいように解釈してくれた。
「フロックさんとカイリさんにはほんとに助けられました。命の恩人です。何か私にできることがあれば何でも言ってください。卑猥なこと以外なら何でも引き受けます」
「卑猥って……。ん~、そうだな。なら、あの牛乳って飲み物を作っているのは誰か調べてくれないか?」
フロックさんが提案してきた。
「牛乳ですか。えっと、それなら好きなだけ……」
――そうか、フロックさん達は牛乳を誰が作っているのか知らないんだ。ルドラさんが連れてきたのは私に合わせるため。でも教える前にルドラさんは闘技場に行ってしまった。なら、私がここで教えるしかないか。
「よし! 決まりだな。キララに頼んでおけば牛乳を売っている奴に会えそうだぜ」
フロックさんは牛乳を貰えると聞いてとんでもなく嬉しそうな顔をした。
――そんなに牛乳を飲みたいのか。なんか、フロックさんが背を伸ばしたい少年に見えてきた。
「あの、何で牛乳を作った人に会いたいんですか?」
「それが目的でここまで戻ってきたからな。牛乳を飲んだ時の感動をそのまま伝えないと気が済まなくなったんだ」
「フロックはモークルの乳が大好物なんだよ。まぁ、ただただ身長を伸ばしたいがために飲んでるだけなのかもしれないけどね」
「う、うるせえ」
「はは……」
――フロックさん。身長が低いのをそんなに気にしているんだ。私はかわいいと思うけど、やっぱり男の人は身長が高い方がいいって言う女の人もいるし、難しい問題だよね。でも、フロックさんはもう20歳だし、今から成長するのはさすがに無理だろうな……。
「あの、二人には言ってませんでしたけど、ルドラさんが配っていた牛乳を作ったのは私です」
「え?」×カイリ、フロック。
言いあいをしていた二人は私の方を同時に見た。
「キララがあの牛乳を作ったのか……?」
「はい。そうですよ。なので、フロックさん達には助けてもらったお礼として牛乳を格安で販売させてもらいます」
「はは、タダじゃないんだね」
カイリさんは苦笑いする。
「タダでもいいですけど、お二人はとても稼いでいると思いますから、それなりに購入してもらおうかな~っと思いまして」
「現金なやつだな~。だが、もちろん買わせてもらうぜ。牛乳瓶一本いくらだ?」
「銅貨3枚でいいですよ」
「ど、銅貨3枚……。カイリ、ルドラはあの瓶一本いくらだって言ってた?」
「た、確か……。銀貨5枚とか、もしかしたら金貨1枚とかって言ってたよ」
「まぁ、王都だと移動費がどうしても高く着いちゃうんですよ。でも、私の村では格安で販売しています。それと同じくらいの値段設定で売らせてもらいますね」
「お、俺……、腹壊れるまで飲むかもしれないがいいのか?」
「私も……」
二人は育ち盛りの少年かというほど純粋無垢な表情を私に向けてきた。
「いいですよ。好きなだけ飲んで行ってください。何なら五年ぶりに村に来てもらってもいいですよ」
「どうする、カイリ。行くか?」
「迷う必要あるかい? もちろん……」
「ない!」×カイリ、フロック。
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