仏の顔も三度まで……。
「それで、キララさん。選んでくれましたか?」
「キララ、もちろん俺の料理だよな?」
「キララちゃん、私の飲み物が一番だよね?」
ショウさん、ウロトさん、カロネさんの圧が凄い。
料理人はどうも自己主張が激しい傾向にある。
特にこの三人は自分の職業に誇りを持っているのでとても真剣だ。
私も蔑ろにする訳にはいかない。
「では、それぞれのいい点と悪い点を言いたいと思います」
「いい点と悪い点?」×ショウさん、ウロトさん、カロネさん。
「まず、ウロトさんの料理から言いますね。サンドイッチの量と味、食べ応えはとても良かったです。逆に、この量を街の人全員に出せるのか考えた時、問題が起こるのではないかと思いました」
「う、うぅむ。た、確かに……」
「次にショウさんの料理について言います。パンケーキの良い点はとにかく美味しかった。ウトサを使わずとも、天に上るような美味しいお菓子が作れるんだと感動しました。悪い点として手間が掛かりすぎるというのとウトサと同じく、ベリーも値段が結構高いですよね。パンケーキを一品出すのに、銀貨一枚以上の価値がある食材を使うのは難しいと思います」
「ですよね……」
――ですよねって。なら最初から考えておきなさいよ。絶対に作りたいから作ったでしょ。
「最後にカロネさんの飲み物について言います。良い点は花の香りがするフローラルティーはとても心が落ち着きましたし、疲れた体に沁み渡るようで美味しかったです。悪い点を挙げるとすれば、紅茶だけではお腹は膨れないということですね。今、騎士団が食事を配っているのでそこまで問題じゃないかもしれないですけど、少なくとも飲み物だという点を忘れないでください」
「は、はい」
「総称して言うと皆さんいい点があり悪い点もあると言うことで、同率一位と言うことにします」
「同率一位……」×ショウさん、ウロトさん、カロネさん
三人は顔を見合わせ、少し微笑んでいた。
「はい。なので、皆さん自分のお店に戻って街の為にせっせと働いてください」
「?」×ショウさん、ウロトさん、カロネさん
皆、頭上に? を浮かべ、首をかしげていた。
「皆さんのお店の修繕が終わりました。調理場も使えるようになっています。ただ、火の取り扱いだけは注意してくださいね。最悪、お店が燃える可能性がありますから」
「い、いったい何がどうなっているのか、訳が分からないんですが……」
ショウさんは私の言葉を信じられないみたいだ。まぁ、そりゃそうか。
「とりあえず、皆さんは自分のお店に走ってください。お店に到着しだい、街の人の為に私の助言を踏まえて新しく考えた品を街の人に提供してくださいね」
「よく分からないが、自分の店に行けばいいんだな」
ウロトさんは前に出てお店の状態を早く知りたいと言った表情をしている。
「はい。今すぐお店に向ってください。料理が作れるはずです」
「それなら、向かうしかねえな」
ウロトさんはいち早く飛び出し、食堂をあとにする。
「あ、ウロトさん。あとで牛乳の配達に伺ってもいいですか!」
「もちろんだ! こんな時こそ、キララの牛乳を飲んでないとやってらんないぜ! 店で待ってる!」
ウロトさんは食堂の入り口から顔をのぞかせて私に合図を送った。
「ショウさんとカロネさんもあとからお店に伺ってもいいですか?」
「はい。構いませんよ」
「いつでも待ってるから。好きな時に尋ねてきて」
私はショウさんとカロネさんからも了承を貰う。
「では、また後で合いましょう。気をつけてお店に向ってくださいね。建物の崩壊は起こらないので安心してください。でも、火の取り扱いには十分に気をつけてくださいね」
「分かりました」
「うん」
ショウさんとカロネさんも食堂を出て行った。
「私一人になって凄い寂しくなっちゃった……。さてと、リーズさんの病院に行こうか。他の人たちが心配だよ」
「そうですね。ですが、キララ様。覚悟しておいた方がよろしいかと思います」
ベスパはテーブルにおり、険しい顔をしていた。
「覚悟? いったい何を覚悟するって言うの」
「キララ様、過去の言動を思い出してみてください。病院で話した言葉あたりを特によ~く思い出してくださいね」
「ん~~。あ……。私、街にいちゃいけないんだった。リーズさんに村に帰りますって言ったのに……」
「はい。その件です」
ベスパはうんうんと頷き、やっと思い出したかと言った表情をしている。
「い、今すぐ帰ろうかな……。でも、ショウさん、ウロトさん、カロネさんのお店に伺うって言っちゃったし……。ベスパ、牛乳だけ運んで置いて。私は村に帰るから」
「どうやら、もう手遅れのようですよ」
ベスパは腕を組み、逃がさないとでも言いたげな顔をした。
「ど、どうして?」
「フロックさんとカイリさんがリーズさんにお話ししていましたから。キララはどこだ? って」
ベスパは右の口角を上げて話す。
私の顔から血の気が引いていく。
「リーズさんは困惑していましたが、フロックさんが誇らしげに『キララが死にそうだったんでな。助けたんだわ。その後逆に助けられる羽目になるとは思ってなかったぜ』と喋っていました」
「リ、リーズさんの顔はどうなってた?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「キララ様が心的外傷を負う可能性がある程、怒っていましたね……。ですが病院に行かない訳にはいきません。キララ様の腕の怪我もありますから、しっかりと直してもらいましょう」
ベスパは私の腕を指さして言ってきた。
「そ、そうだよね……。何ともないように見えて、左腕が結構痛いんだよな。一回見てもらわないと、どうなっているのか分からない。はぁ、仕方ないか。皆の様子を見に行くのと私の怪我を見てもらう、あと説教されにリーズさんの病院に行こう」
「はい。その方がよろしいかと思います。キララ様にはもう少し自分の身の危険を感じてほしいですから。これ以上死にに行かれても困りますよ」
「はいはい……」
私は食堂をあとにして騎士団の外で待っているレクーのもとに向う。
レクーのもとに到着した私はリーズさんの病院に移動した。
その間、街の至る所で復興作業が始まっていた。
冒険者の人たちや騎士団の人たちが一生懸命に仕事している。
加えて、低身長のおじさん達も一緒に働いていた。
大きな木や、大量のレンガを軽々と運んでいるその姿は七日ほど前に骨を折って入院していたドワーフさんだった。
――よかった。あのドワーフさん、骨折が治ったんだ。でも、骨がたった七日間で治るなんて……。さすがドワーフと言うべきか。凄い生命力だ。私、ドワーフがどういった種族か全然知らないけど。
「おいそこ! もっと急げ! 仕事が遅れてるぞ!」
「はい! 親方!」×若いドワーフ達。
「俺達にとっては稼ぎ時だ! 死ぬ気で働け!」
「はい! 親方!」×若いドワーフ達。
――凄い仕事熱心な種族だな。私も手伝いたいけど、今からお説教と言う私の精神を抉られる時間が待っているんです。すみません。
私はドワーフさん達に感謝しながら、病院に向った。
リーズさんの病院の前はブラックベアーと交戦中の時よりも落ち着きを取り戻しており、今は避難者たちが安心しきった様子で地面に座っていた。
厩舎付近にまで人が集まっているので、レクーを止めておく場所がない。
私は仕方なくレクーを道の端に止め、待っていてもらうことにした。
「レクーちょっとここで待っていて。私、結構遅れるかもしれないけど、おとなしくしているんだよ」
「分かりました。キララさんが帰ってくるまでおとなしく待っています」
私はレクーから離れ、リーズさんの病院の中に入っていく。
「あ! やっときましたね……。キララちゃん……」
リーズさんは病院内の入り口付近で待っていた。
顔面の半分がぴくぴくと痙攣し、上手く笑えていない。
「あはは……、リーズさん。こんにちは……。えっと、どこまで聞きましたか?」
「そうですね。あらかた聞きましたよ。キララちゃんが巨大なブラックベアーを引き寄せる囮になっていたことも全部ね」
「あちゃ~、私の頑張りを一杯聞いちゃったんですね~」
「私達が気絶している間に何とも危険な真似をしてくれましたね。その前に言っておきたいのは、私はキララちゃんに村へ帰るよう二回も言いました。いいように事が進んで終息しましたが、もしキララちゃんに何かあれば、どうするつもりだったんですか!」
リーズさんは私の綺麗なブロンドの髪が靡くほどの風を起こしながら怒った。
「ご、ごめんなさい……。私にも出来る仕事を見つけて皆の役に立ちたかったんです……」
私は泣き寝入りも笑って誤魔化すのもやめて、誠心誠意を込めて謝った。
その後、リーズさんの長いお説教は続き、ベスパに私の聴覚を切ってとお願いするも、逆に過敏にされて大音量でリーズさんの声が耳にとどくようにされてしまった。