三種類の料理の試食
「いえいえ、私の仕事はキララ女王様に仕えることですから、どんな仕事でも遂行しますよ」
――本当に頼もしいね。これからもよろしくね。ディア。
「はい! もちろんです。こちらこそよろしくお願いし……」
『ドガッツ!!』
「え……」
ディアは角材で叩き潰された。
「こんな所にブラットディアが出るとは……。あらかた潰したはずなんですがね」
「しょ、ショウさん……」
ショウさんはブラットディアに恋人を殺された人のような眼をしていた。
「ちっ、まさか俺達が見逃すとは、どこに隠れてやがったんだ」
「う、ウロトさんも……」
ウロトさんはブラットディアに娘を殺された人のような眼をしていた。
「あぁ~あ、先を越されてしまいました。忌々しいブラットディアを潰すのが楽しみなのに……」
「こ、コロネさんまで……」
コロネさんはブラットディアを殺すためだけに産まれてきた人のような眼をしていた。
三人はとんでもなく怖い形相で、瞳が黒い。
――そ、そうか。この人達は料理人。人一倍ブラットディアが嫌いなんだ。ディアごめん。成仏して。
「はぁ、奴らのせいで気分が台無しですよ。せっかくいい品を作ったというのに……」
ショウさんは角材をパシパシと叩き、呟いた。
「さて、誰から試食してもらおうか?」
ウロトさんはショウさんとカロネさんを見る。
「えっと、私とショウさんの料理が相性良さそうなのであとからにしましょう。初めはウロトさんの料理をお願いします」
「分かった」
ショウさんとカロネさんは後ろに下がる。
ウロトさんが私の前にきて一品、出してきた。
「こ、これは……サンドイッチ」
「お、キララはこの料理の名前を知っているのか。なら話は早いな」
差し出された皿の上に載っているサンドイッチは食パンに複数の野菜が挟み込まれ、干し肉をふやかしたのか、数枚の肉も見える。
見た目はとても美味しそうであとは味だけの問題だった。
「それじゃあ、いただきます」
私はサンドイッチを手に取り、一口食べる。
「ハム……。モグモグ……」
――ん~。よく言えば優しい味わい。悪く言えば薄味。でも、パンの香ばしい風味と野菜のシャキシャキとした触感、干し肉のうま味が絶妙に合わさってとても美味しい。
ウロトさんの出してくれたサンドイッチはお腹が空いていた私にとってとてもありがたい一品だった。
手に持っていたサンドイッチを全て食べると小腹が丁度満たされて私の気分がよくなる。
「ふぅ~。美味しかったです。ウロトさん。これ、調味料ほとんど使ってないですよね。それでこの味が出せるなんてすごいです」
「そうか。キララにそう言ってもらえると作った甲斐があった。キララの言う通り、調味料は使ってない。干し肉のうまみに頼った感じだな」
「でも、そのうまみが丁度いい具合に他の具材と合っていました。強いて言うなら味がもう少し濃ければ言うことありません」
「まぁ、そうだろうな。ソルトを一つまみ加えるだけでも大分変ると思うんだが……。街の者に配るとなると、難しい」
「ですよね」
私は皿に置かれていたサンドイッチを全て食べきると、ウロトさんは皿を持ち、後ろに下がった。
「では、次は私の品を出します」
ショウさんが前に出てきて皿を私の前に置いた。
「お、おぉ~! こ、これは……、もしや、パンケーキなのでは!」
「その通りです。ベリーを乗せたパンのケーキとなります。略してパンケーキですね」
――ま、まさかこんなところでご対面できるとは思っていませんでしたよ~! ふわっとしたパンケーキに半分に切られたベリーが乗っている。このベリーってイチゴかな。見た目は真っ赤でまんまイチゴなんだけど。でも、ウロトさんと同じくショウさんもウトサを使うわけにはいかないだろうから、甘くはないはず……。あまり期待するのはやめよう。
私は綺麗に乗せられているベリーとパンケーキをフォークとナイフで一切れずつ分けていく。
切り分けたパンケーキとベリーをフォークで突き刺し、食べる準備を整えた。
「では、いただきます」
私はパンケーキを鼻に近づけ、匂いを少し嗅ぐ。
――あ、イチゴの香りだ。凄い……。地球でイチゴの旬は春から初夏だからこっちの世界でも旬は同じはず。凄いみずみずしくていい赤色。甘酸っぱいイチゴの匂いが懐かしい。
私は恐る恐るパンケーキとベリーを口に入れて頬張る。
「ぁ、ぁ……。あ、あぁ……」
「き、キララさん。大丈夫ですか。お口に合いませんでしたか」
「いえ……、口の中がパンケーキだと思いまして……」
「はい?」
私は不意にも大粒の涙を流してしまった。
口の中がパンケーキなのだ。
わけが分からないかもしれないが、口の中でパンケーキの味がしたのだ。
もう、それだけで私は感無量。
私の頑張りが報われたような気がした。
ショウさんの作ったパンケーキは決して甘くない。
ウトサは使われていないみたいだ。
小麦粉に卵、水を混ぜて焼いただけのパン生地に旬のベリーが合わさって、とても質素なパンケーキが口の中で完成していた。
モークルの乳の匂いがほのかに広がり、ベリーの甘酸っぱさと調和している。
「美味しいです……。うぅ……、まさかパンケーキが食べられるなんて……。ウトサは使われていませんけど、ここまでお菓子に似せられるんですね」
「泣いて喜んでくれるなんて、菓子職人として光栄の極みですよ。キララさんの言う通りウトサは使っていません。ですが、ベリーの甘みを使って限りなくウトサを使った状態に近づけてました。今出せる菓子がこの程度なのがとても歯がゆいですけど見た目と味で街の人を元気に出来ると思います」
「うぅ……。ウロトさんのもよかったですけど、ショウさんのもまた一段と凄い……。ハグ、ハグ……」
私はパンケーキを全て平らげる。
私も家で作りたくなるくらい、ショウさんの作った質素なパンケーキは美味しかった。
「次は私だね」
カロネさんはティーカップを私の前に置いた。
「これは、紅茶ですよね。でも、匂いが花。フローラルティーですか?」
「そう。人の心を落ち着かせる効果のある花を乾燥させて匂いを閉じ込め、匂いに特徴のない茶葉と一緒にお湯で出した紅茶。すぐに提供できて、大量に作れる。街の人に温かい飲み物で元気になってもらうの」
「とりあえず、いただきます」
私はカップの取っ手に指を掛け、持ち上げる。
鼻の下にカップの淵を持ってきて匂いを嗅いだ。
「ふぁ~、花のすっごい良い香りがします。心が溶けそうです……」
――匂い的にはバラが近いのかな。この世界にバラがあるのか分からないけど、花の香りがとにかく落ち着くなぁ……。何でこんなにいい香りがするんだろう。
私は紅茶を啜った。
「ん~。さすが、言わずもがな完璧な味ですね……。とても美味しいです。一皿前に食べたパンケーキと相まってより美味しく感じます。花の香りも凄い広がって花畑にいるみたいですよ」
「ありがとう、キララちゃん。そう言ってもらえると、嬉しいよ」
カロネさんは笑顔を見せ、私の飲み干したカップを下げた。
「ん~~~~。どうしましょう……。この三種類から選ぶなんて無理ですよ」
「でも、選んでもらわないと料理が作れないんですよ」
「そうだ。調理場を分けて使うと不満が溜まって料理の質が落ちちまう」
「匂いも混ざるし、完璧な配合が出来なくなっちゃうの」
――三人には申し訳ないが、私の茶番に付き合ってもらってどうもありがとうございます。と言うか、やっぱりこの三人、ほんとにすごい人たちなんだな~と改めて感動してしまった。この人達の情熱があれば、壊されたお店もすぐ立て直してたかもな。まぁ、私は三人の料理が食べられて大満足なので、喧嘩がまた起こる前に解散させないと。
私がそう思っていた矢先……。
「キララ様。三店の修繕が終わりました。崩壊の危険は火事が起きない限り、起こりません。友達の力を借りて、火が燃え移っても一瞬で焼失しないよう加工してきました」
ベスパは騎士団の基地のガラス窓から食堂に入ってきた。
――あ、ベスパ、お疲れさま。こっちも丁度終わったところだよ。それじゃあ、今から三人をお店に向わせようと思う。
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