戦いの後始末
「キララ様。やり返しの仕方が幼稚すぎませんか?」
――別にやり返しているつもり何てさらさらないけど。妹とか言われてちょっと悲しかったから意地悪したくなったわけじゃないし。
「はぁ~」
ベスパは深いため息をついて空中をだらーっと飛んでいた。
私達はルドラさんの冷蔵車に到着した。
「き、キララさん。よく無事でしたね。カイリがやられた時はどうなるかと思いましたよ」
ルドラさんはカイリさんの体に包帯を巻き、応急処置をしていた。
「いやぁ~、油断しました……。まさかブラックベアーがあんなに早く順応するとは思っていませんでしたよ」
カイリさんは包帯グルグル巻きにされて、顔だけ出ている。
その姿はさすがのイケメンでもカッコ悪かった。
「カイリさん、体の方は大丈夫なんですか?」
「まぁ、生きてるから問題ないかな。骨は何本か折れてるね。内臓は咄嗟に『バリア』で守ったから無傷だよ。普通に食らっていたら内臓破裂で死んでたかな。ハハハ」
「笑い事じゃないですよ……」
カイリさんの笑い声が本当に面白がっている時の声でこの人達は頭が少しおかしいのではないかと私は思ってしまった。
私がルドラさんのもとに来て数分後、フロックさんも戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。きっつ……。もう、うごけねぇ」
フロックさんはその場で仰向けになり寝転がった。
「ちょっと、フロック。私の大切な商品を七本も無駄にしてくれましたね。後でちゃんと弁償してもらいますから!」
ルドラさんは今まで怖がって動けていなかったにも拘わらず、フロックさんが戻って来るや否や駆け寄り、形相を変えて怒っていた。
「な! そ、そこは助けてやったんだから恩情ってことに……」
フロックさんは寝ころびながら両手を合わせ、ルドラさんに許しを請う。
「恩情なんかになりませんよ。それとこれとは話が別です。街に帰ったらきっちり払ってもらいます!」
「はぁ……。分かったよ、払えばいいんだろ払えば。俺は疲れたから寝る!」
フロックさんは魔力の使い過ぎで様々の体調不良が出ていたので即座に眠った。
「はぁ……。こんなところで寝られても困るんですけどね。私が運ばないといけないんですから、本当に勘弁してほしいですよ」
ルドラさんはフロックさんの肩を持ち、荷台に運ぶ。
「ルドラさん。大丈夫ですか。重かったら私が運びますよ」
「まぁ、そこまで大柄な男性じゃないので気にしないでください。キララさんも魔力を相当枯渇しているはずですから。休んでもらってもいいですよ」
「あ、ありがとうございます……」
――どうしよう。もう、魔力が回復してきているって言えなくなっちゃった……。
「なら、後始末を行いましょう」
ベスパはある方向を見ながら私に話しかけてきた。
――え、後始末?
「はい。キララ様、あのボロボロになった地面を見てください」
ベスパはブラックベアーの死闘で抉れまくっている道を指さした。
――うわ、本当だ。これじゃあ、バートンが走りにくくて仕方ないじゃん。ベスパ、改修と補強の工事をお願いできる?
「お任せください。ものの10分程度で終わらせて見せます」
ベスパは草原の上空に飛んで行き、空中で光った。
『ブブブブブブブブブ!!!!』
「なっ!」
草原から大量のビーが現われ、辺りを覆いつくす。
ルドラさんはフロックさんとカイリさんを荷台に詰め込む作業で手一杯みたいで、周りが全く見えていない状態だった。
私は大量のビーが目の前に現れた衝撃で立ったまま気絶した。
数分後……。
「う、うん……。は! び、ビーが!」
「キララさん。大丈夫ですか?」
私は既に冷蔵車の前座席に座り、道を移動していた。
私に声を掛けてきたのはルドラさんだった。
少し視線を前に向けると、レクーと他の二頭のバートンが力強く走っている。
「いや、いつの間にか道が元に戻ってて驚きましたよ。キララさんも立ったまま気絶しているし、何が起こったのか全く分かりませんでした」
――ちょっとベスパ。ビー達がいきなり現れすぎて私、気絶しちゃったじゃん。もっと後先を考えて動かしてよ。
「すみません。魔力の調整を間違えました。先ほどまで全力で戦っていたので魔力を多く使い過ぎてしまったみたいです。でも、そのお陰で道はすぐ直せたので大目に見てください」
――まぁ、それなら仕方ないか。許す。
「感謝します」
ベスパは私の右斜め上付近を飛びペコリとお辞儀した。
「えっと、ルドラさん。今は街に向っているんですよね?」
「そうですよ。とりあえず皆さんを病院に早く連れて行かないといけないので、全速力で走っています。それにしてもキララさんのバートン、凄く脚が速いですね。他の二頭が遅れちゃって上手く操縦できませんよ。何なら、キララさんのバートンだけで私達を運べてしまいそうな勢いです」
「そりゃあ、私の育てた自慢のバートンですから。あ、前も言いましたけど絶対に売りませんよ」
「分かってますよ。えっと、キララさん。何があったのか概要だけでも教えてもらえませんか?」
「そうですね。ルドラさん達は全然分からないですよね。じゃあ、概要だけ話すとドリミア教会が街を滅茶苦茶にしました。これだけで説明がつきます」
「凄い簡単な説明ですね……。でも、何となく分かりました。ドリミア教会があの化け物を生み出したのなら納得できます」
「あの、ルドラさん。この道をドリミア教会のバートン車が通りませんでしたか?」
「あぁ~、通りました。凄い勢いで駆けてたので何事かと思いましたよ。でも、あの速さで走るバートンは初めて見ました。多分、無理やり走らされていたのだと思います。死ぬ前提の全力疾走をさせられてたんでしょうね。荷台はなかったので誰か人を運んでいるだけのようでしたよ」
「そうですか……」
――ベスパ、ドリミア教会にいたあのおじさんが逃げた方向はルークス王国の王都だよね?
「はい。そう推測されます。ビーが追っている訳ではないので確定できる情報ではないですが、ルークス王国の王都に行く可能性が最も高いと思われますね」
――王都に逃げられたら、今の私達には何もできないね。距離が遠すぎる。
「ですね。何をするにしても、キララ様に負担が掛かってしまいます。今は休養して大人に任せましょう」
ベスパは私の膝に人工魔石を置いた。
サッカーボールほどの大きさで、結構重たい。
「キララさん。その魔石は何ですか? さっきのブラックベアーから採取した魔石にしては小さいと思うんですが……」
ルドラさんは横目で人工魔石を見てくる。
「これがあのブラックベアーを無理やり動かしていた元凶です。ドリミア教会の人たちが作った人工の魔石で、この魔石の中に『再生』の魔法陣が書き込まれています。そのせいでどれだけ肉体を傷つけても再生し続ける恐ろしい化け物が生まれました」
「そんな……。魔石を作るなんて、ほぼ禁忌じゃないですか。加えて作り出した魔石に魔法陣を組み込むなんて常人の考えとは思えません」
ルドラさんは考え込むように頭を下げる。
「キララさんはその魔石をどうするんですか?」
「この人工魔石はドリミア教会が街を襲ったという証拠にしようと思っているんです」
「でも、キララさん。その魔石を作ったのが本当にドリミア教会だという確証はあるんですか? その証拠がないと、人工魔石を事件の証拠だとつきつけたところでドリミア教会の上に立つ正教会に潰されるだけです」
「え……。た、確かに、そこは分かりません。じゃあ、今の状態ではドリミア教会の人たちを裁けないということですか?」
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