最後の一撃
『スタッ……。ザシュ!』
フロックさんは地面に着地し、大剣を地面に突き刺す。
「はぁ、はぁ、はぁ、すまねえ、キララ。助かった」
「いえ、私の仕事はフロックさんの援護ですから」
「まさか、空中でも停滞できるとは思わなかった。クソ……キララがいなかったら今頃俺は死んでいる。なさけねえ」
フロックさんは片膝をついた状態から起き上がり、大剣を地面から引き抜いて担ぐ。
「大剣だけを使って勝ちたかったが……、そんなことも言ってられないかもな『武器操作』」
フロックさんはルドラさんの荷台がある方向に手を翳す。
すると、何かが浮き上がりフロックさんのもとに向ってきた。
『ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ』
フロックさんを中心に七本の剣が地面に突き刺さる。
「攻撃の手数を増やす。それでブラックベアーの速さに対抗する」
フロックさんは地面に突き刺さっていた剣を一本、左手で持つ。
「おらあああああ!!」
フロックさんは左手で持った剣を空中で停滞しているブラックベアーに向って投げ込んだ。
『グラアアアアアアア!』
ブラックベアーは背中から一本の黒い触手を伸ばし、剣を弾く。
「ふっ!」
フロックさんは伸ばしていた左手の指をブラックベアーに向うよう曲げる。
すると、弾かれた剣が空中で体勢を立て直し、ブラックベアーの喉元に突き刺さった。
『グラ……』
ブラックベアーは喉に剣を刺されて声が出せなくなる。
喉を再生しようにも、喉に剣が突き刺さったままなので、再生できない。
「これで、お前は咆哮を使えない。使うには、その剣を抜くしかないぞ」
『グラ……』
ブラックベアーは黒い触手を使って剣を抜こうとする。
「させない!」
私は黒い触手に狙いを定める。
「『ファイア!』」
私の指から放たれた『ファイア』は喉元の剣を抜こうとする黒い触手に命中し、燃え盛った。
「!!!!!!」
ブラックベアーは声を出せないが、その苦しみは痛いほど伝わってくる。
「効いているみたいだな。キララ! 一気に畳み掛けるぞ!」
「はい!」
フロックさんは残りの剣を一気に持ち、空中に投げた。
その仕草に無駄はまったくなく、流れるような動きだった。
空中に放たれた六本の剣は弧線を描き、ブラックベアーに向っていく。
「串刺しにしろ!」
六方向に広がった剣は中心にいるブラックベアー目掛けて物凄い速度で動き、体に突き刺さる。
「!!!!!!」
六本の剣に串刺しにされたブラックベアーから、黒い血液が地面に落ちていく。
攻撃は効いているはずだ。
だが、ブラックベアーの体内から人工魔石をまだ取り出せていない。
このままではあのブラックベアーは死なず、あのまま苦しみ続けてしまう。
「キララ様。警ビーの体力が回復しました」
――分かった。丁度必要だったころだよ。
「フロックさん! 今から浮遊の効果を付与します。止めを刺してあげてください!」
「ああ、任せろ」
私はレクーから降りてフロックさんの背中に触れる。
実際はこんなことしなくてもいいのだが、一応魔法といっているので魔法を掛けるふりだけでもしておく。
断じて体に触れたいから触れている訳ではない。
私がフロックさんの背中に触れてから、警ビー達はフロックさんの背中にくっ付く。
「フロックさん、付与できました」
「よし。なら、行ってくる。ブラックベアーの頭上へ!」
『ブオンッ!』
フロックさんは大剣を持ちながら、勢いよく浮上し、ブラックベアーの頭上100メートル付近に移動した。
「これで俺の魔力も切れそうだ。一発勝負。はっ、俺らしいな」
フロックさんは大剣に魔力を込めて、眩い光を発させる。
『グラアアアアアアア!!』
「な! ブラックベアーが声を取り戻した。何で……」
「どうやら、自力で抜き取ったみたいです。あの人や魔物を屠るだけの手を使って剣を抜き取るなんて、相当執念深い奴ですね」
ベスパは私と共にブラックベアーを見ていた。
『ズシャンッ!』
ブラックベアーの首元から抜けた鋭い剣が地面に突き刺さる。
『グラアアアアアアア!』
私に黒い触手を焼かれ、ブラックベアーは地面に仰向けに落ちたが、またもや背中から黒い触手を出し、フロックさんのいる上空に向う。
「ふぅ……。いいぜ、一対一の真剣勝負だ」
フロックさんの持っている大剣は眩い光を放ちすぎて元の形を上手く見いだせない。
あのまま『抜剣』を使い巨大な剣にさせたら相当大きくなるはずだ。
でも、ただ大きいだけでは当たらない。
「ふっ!! 急降下!!」
フロックさんは垂直に降下した。
このままでは地上から向かってくるブラックベアーと衝突してしまう。
「え! 何でそのまま突っ込むの!」
フロックさんは輝く大剣を持ったままブラックベアーに突っ込む気だ。
でも、それじゃあ……。
『グラアアアアアアア!』
ブラックベアーは体から黒い触手を何本も出し、フロックさんに向わせる。
――やっぱり。あの黒い触手は『物理耐性』をもってるから、あのままじゃフロックさんの大剣がブラックベアーにとどかない。私が何とかしないと。
私はブラックベアーから伸びる黒い触手に狙いを定める。
初めはブラックベアーを支えている背中から生えた黒い触手を攻撃しようとしたが、フロックさんが攻撃し始めているため、攻撃の狙いがずれると思い、フロックさんの進行を邪魔する触手を攻撃しようと決めた。
「おらあああああ!!!!」
『グラアアアアアアア!!!!』
ブラックベアーはフロックさんに向って咆哮を放つ。
空中の雲を吹き飛ばすほどの威力が出ているにも拘わらず、フロックさんは止まらない。
地上に向けて突き出している大剣が咆哮を切り裂き、フロックさんの体が吹き飛ぶのを防いでいた。
――大丈夫、落ちついて。あの黒い触手に『ファイア』を当てればいい。それだけでいいんだから。私にでもできる。
私はフロックさんが黒い触手とぶつかり合う前に、障害となる黒い触手を消し去りたかった。
――私の魔力も限界ギリギリなんだ……。フロックさんもあの一撃が最後。ここで倒しきれなかったら、あのブラックベアーは倒せない。大丈夫、私なら出来る。あんなに的が大きいんだから、絶対に当てられる。
私は指先を黒い触手に向けた。
「『ファイア!』」
私は指先に発動させた『ファイア』の魔法陣に練り込んだ魔力を押し出す。
すると、炎の塊が勢いよく発射された。
私の放った『ファイア』は一直線に黒い触手に向う。
『ズリュルルルルルルルル!』
「な! 何で! さっきは反応しなかったのに!」
枝分かれした一本の黒い触手が『ファイア』の目の前に進み、先端がブラックベアーの腕に変わる。
――どうしよう。このままだとフロックさんを襲う触手を燃やすどころか『ファイア』が消されちゃう。あのままの勢いで私に突っ込んで来たら、私の方もやられるかもしれない。
私は焦り、次の一手を考えていなかった。
「『転移魔法陣』」
「な! ベスパ!」
ベスパは『転移魔法陣』を発動し、触手と『ファイア』がぶつかる前に転移させる。
移動させた『ファイア』はフロックさんを狙う触手のすぐそばに展開してあった出口の『転移魔法陣』から射出し、見事命中させる。
私に進んでくる黒い触手も一緒に燃え、崩れ去っていった。
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