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気障な冒険者

「あ……。そうですか。なら、走ってください」


「え、ちょ、私もバートンの背中に……」


 私はレクーの背中に乗り、200メートルほど移動する。


 カイリさんを乗せなかったのは、ちょっとイラっとしたからだ。


 どこかベスパに似た不快さ感じる。


――よし、ここら辺が200メートル地点だね。普通に私の射程距離の二倍はある。『転移魔法陣』のおかげでほぼ、射程距離の概念は無くなったけど、ここから詠唱を言ったらあの黒い塊は気づくのか。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。レディー、私を置いていくなんて酷いじゃないか」


 カイリさんは大変お疲れの様子だった。


 魔法が使えないと、ここまでへぼい人間になってしまうのは、きっと魔法に頼り過ぎな部分があるのだろう。実際、私も同じなのだが……、現実は考えないようにしよう。


「カイリさん。もっと体力を付けないとだめですよ。たった200メートル走っただけで息が上がってたら、戦場で戦えません」


 レクーはカイリさんに告げる。


 レクーの声はカイリさんに聞こえていないが、私には聞こえていた。


 その時、私は思った。


――バートンと人の心臓を比べたら駄目だと思うよ。特にレクーはバートンの中でも心臓が強いんだから、普通の人じゃ勝てないよ。魔法しか取り柄のないカイリさんじゃ、もっと無理か。まぁ、シャインならどうか分からないけど……。


「カイリさん、魔法を使わずに200メートル走ってみてどうでした?」


「はぁ、はぁ、はぁ。もう……、走りたくない……」


 カイリさんは(ランス)を地面に突き刺し、両膝に手を置き、息を切らしていた。


――この人、根性ないのかな。私、こういうところが苦手なのかも。


「はぁ、はぁ、はぁ 『ヒール』」


『ズリュルルルルルルルルル!!』


「な! レクー蹴飛ばして!」


「はい!」


「うわっ!」


 カイリさんが回復魔法の詠唱を行った瞬間、200メートル離れていた黒い塊から、触手がものすごい速さで伸び、カイリさんの体目掛けて攻撃した。


 レクーはカイリさんをすかさず蹴飛ばし、黒い触手の攻撃を回避させる。


「あ、危なかった……。まさか200メートル離れていても、詠唱の声が気付かれるなんて」


「れ、レディー、もう少し優しく蹴飛ばしてほしかった……」


 カイリさんはレクーに蹴飛ばされ、結構離れた位置で情けない格好をしていた。


 顔を地面に突っ込み、土下座をしているように見える。


――何だろう、いつも気障(きざ)にふるまっている人が間抜けな姿曝しているの、凄い面白い……。カイリさん、本当は凄い間抜けな人なのかも。ほんとベスパに似てる。


「どこがですか! 全く似てませんよ!」


 ベスパはカイリさんに対抗心を燃やしているのか、突っかかってきた。


――ベスパ、気にしないで。別にどうでもいいことだから。私、カイリさんとベスパ、両方とも苦手だし。


「うぅ……。了解しました」


 ベスパはなぜか悔しそうな顔で私の頭上に移動する。


「カイリさん。早く起きてください。フロックさんは今でも懸命に戦っているんですよ。カイリさんだけ、今のところお荷物になっています。体が、ただキラキラ光ってるだけの人になってますよ」


「はは……、実際に言われるとその通りで何も言い返せないね。では、もう200メートル離れてみよう」


 カイリさんは立ち上がって、走り出した。


 先ほどは走りたくないと言っていたのに、私の煽りが効いたのかもしれない。


――やっぱり誰かにやる気を持たせるには自分と近しい人が頑張っていると言って対抗心を持たせるのが大事だよね。本当は一人でやる気になってほしいけど、今の状況なら仕方ない。


「あれ、思っていたよりも走るのが辛くないようだ。きっとさっきは久々に走って体が驚いていたんだろうな」


 カイリさんは気づいていないのか、私の『クイーンラビンス』で身体能力が上がっているだけだと思う。


 自分に過信しすぎなのでは……と思ったがそこも気障っぽくて苦手だ。


 私達はブラックベアーから400メートル離れた。


 黒い球体ははっきりと見えるがフロックさんはあまりにも小さく、ハエ同然である。


 黒い塊は何本もの触手を伸ばし、フロックさんに攻撃していた。


 フロックさんは警ビーの機動力を上手く使い、何とか攻撃をいなしている。


「やっぱり、フロックさんは凄いな……。一人で戦ってるよ。あの大剣に火でも纏わせたらもっと戦いやすくなりそうなのに」


「フロックは魔力量が多いが、何かに変換するのが苦手なので攻撃魔法があまりうまく使えないんだ。レディーの言った剣に火を纏わせる斬撃の魔法を『バーニングソード』と言うのがありますけど、フロックは常に維持できない。逆に剣に魔力を溜める、魔力操作は得意なので『抜剣』で大剣に溜めた魔力を放出し、巨大な剣に変形させられるんだよ」


「へぇ、そうなんですか……」


「今、フロックが懸命に戦っている。私達も何か成果をあげなければ……」


 カイリさんの表情から気障な部分が抜けた。


 それを見ると、今から戦いに行く戦士のような凛々しい顔をしている。


――その顔なら、不快感無いな。いつもそんな感じていたらいいのに……。


「カイリさん。魔法を使ってみましょう」


「分かりました。 『バリ……』」


『ズリュルルルルルルルルル!!』


「くっ! ここでも聞き取ってくるのか!」


 黒い触手がカイリさんを襲うが今回は事前に予測していた為、容易に避けられる。


「400メートルでも反応されるとなると、魔法攻撃しながら動いたほうがましな気がしてきました」


「魔法を放ちながら動く……。カイリさんはそれが出来ますか?」


「ええ、もちろん。魔法を使う者は出来るだけ魔法を使いながら動けたほうが得だからね。威力の高い魔法程準備に時間がかかるから動けなくなるけど、この大きな槍に魔力を込めながら動けば時間短縮になるんだ」


「あ……、その槍、魔法の杖代わりだったんですね」


「それもあるね。私の職種は物理攻撃はできないが魔法で強化した体で魔力の攻撃を放って戦う魔法騎士です。今は魔法が使えませんからただの騎士だけどね」


「カイリさんは援助特化の冒険者だと思ってましたけど、攻撃も出来るんですね」


「フロックが完全に攻撃よりなので私は裏方に回っているだけだよ。実際『バリア』の汎用性は高いから、攻撃、防御、援助どれでも賄えるんだ」


「ほんと……、バリアって便利なスキルですよね。私もそんなスキルが欲しかったですよ」


 私はベスパの方を見て苦笑いする。


「はは……。でも、今のところ、全く発動させてもらえないから使えてないけどね」


「なら、カイリさんは動きながら炎属性魔法を放つ準備をしてください。私はもっと遠くからあの黒い塊を狙います。フロックさんの近距離攻撃で注意を引いて、カイリさんの中距離攻撃で気を散らす。私の遠距離攻撃で仕留めます」


「分かった。では、私はここら辺で攻撃魔法を準備に入る。準備が出来たら空に『ファイア』を放つので、フロックを飛ばしている魔法を使い、黒い塊の頭上から回避させてください」


「分かりました」


 カイリさんは槍を地面に突き刺し、魔力を練り始めた。


 その後、脚に魔力を溜めて走り出す。


『燃える柱、空に伸びし行く末に、黒き塊の滅却せしめんとす。それ持って神の御心があらんことを……』


 カイリさんは口から長ったらしい呪文を唱える。


 すると、黒い塊が反応し、触手が真上からカイリさんを襲っていた。


 だが、カイリさんの脚が速くなっている手前、攻撃は当たらない。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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