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私一人じゃない

――この大きさ……どう見ても警ビーだよね。なんか一段と大きくなった気がする。


 ビーは元々小さい個体で一センチメートルから三センチメートルほど。今、飛んでいる警ビーの大きさは六センチメートルから七センチメートルほどあり、私を殺したオオスズメバチにますます似ていた。


 光学迷彩で消えてないとフロックさんでもびっくりするかもしれない。


 私は驚き過ぎて声が出ない。


 二匹の警ビーがフロックさんの背中に張り付き、翅を動かす。


「お、おお……。浮いたぞ。じゃ、じゃあ、ブラックベアーの額に向かう!」


 フロックさんは大きな声で向かう場所を叫ぶ。


「どわっ!! はっや!」


 警ビーはフロックさんの命令を聞き、ブラックベアーの額にまで連れていく。


 その速さはまさしく弾丸で、私の眼で追うのは難しかった。


「これは、便利だな!! うらああああ!! ぶった切れろ!!『斬撃強化』」


 大剣が淡く光り、ブラックベアーの額付近でフロックさんは大剣を横一線に振り抜く。


 大剣から魔力で作られた大きな三日月状の斬撃が放たれ、ブラックベアーの眼に飛んで行った。


『ザシュッツ!』


 魔力の斬撃はブラックベアーの眼に当たり、黒い血しぶきをまき散らす。


『グラアアアアアアア!!』


 フロックさんはブラックベアーの眼を潰し、視界を奪った。


 ほんの数秒間だけかもしれないが今のフロックさんなら十分かもしれない。


「次は腹だ!」


 フロックさんは額付近に浮いていたが真下に降りるようにして移動した。


「おらおらおらおらああ!! デカくて捌きやすいぜ!!」


 フロックさんは額から真下に落ちていく間に、ブラックベアーの胸元に大剣を突き刺して移動しながら切っている。


『グラアアアアアアア!!』


 ブラックベアーは視力を失ったせいで方向感覚が狂い、自分の血にまみれたフロックさんをにおいで見つけ出すのは困難だった。


 そのせいで適当な位置に咆哮を放っている。 


 どうやら痛みに鈍感になっているため、腹部を攻撃されていてもすぐには気づけないみたいだ。


『グラアアアアアアア!!』


 ブラックベアーは腹部の痛みにやっと気づいたのか、口をワニのように大きく開き、先ほどと同じように咆哮を放ってフロックさんを地面に叩き落とそうとした。


「くっ!」


「甘いですね! 同じ手は私達に通じませんよ!」


 カイリさんは『バリア』の檻を解除し、咆哮を遮るように『バリア』を張る。


 加えて、フロックさんの体が少し輝いているように見えた。


 どうやら『バリア』を体に纏わらせることも可能みたいだ。


『ドドドドドドド』


 竜巻のような咆哮は透明な『バリア』で堰き止められ、風が拡散していた。


『グラアアアアアアア!!』


 ブラックベアーは咆哮を口からさらに放つ。


 だが、咆哮はカイリさんの『バリア』によってまたも防がれ、フロックさんには当たらなかった。


 ブラックベアーの攻撃が当たらず、フロックさんを止められなかったため、ブラックベアーのお腹はどんどん開かれていく。


「おらああああああ!! 裂けろやっ!!」


 フロックさんはブラックベアーの胸から股までを一気に裂き切った。


 黒い血が切り口からが一気に噴き出す。


 その光景が迫力満点すぎて……私の口が塞がらない。


『グラアアアアアアア!!』


 ブラックベアーは相当痛いのか、苦痛の叫びを放つ。


「そんなに叫んでるのに、もう治りかけているのはさすがに再生するの速すぎるでしょ」


 ブラックベアーの胸元は再生し、既に閉じ始めていた。


 私はそんな簡単に完治させまいとベスパに命令する。


――ベスパ、胸元の傷に入り込んで。胸元を爆破するよ。


「了解!」


 ベスパは再生されかけているブラックベアーの胸元の傷に光りの速さで飛び込んでいった。


「キララ様、内部への侵入が成功しました!」


――よし。胸元が抉れるくらいの爆発の威力でお願い。


「了解!」


 私は指先に『ファイア』と『転移』の魔法陣を展開し、魔力を流し込む。


『ゼロ距離爆発!!(ゼロデステンス・エクスプロージョン)』


 私の詠唱紛いな発言が放たれた0.1秒後にブラックベアーの胸元が内部から爆発し、皮膚が吹き飛んで肋骨や肺が損傷しているのが丸見えになった。


――私の予想では重要な器官がある部分を最優先で再生させるはず。なら、胸元は肺やら首の神経が大量にくっ付いている背骨が近いから最優先で直すでしょ。あの部分を爆発させ続けて、マザーを探し出す時間を稼ぐ。


「フロックさん! 腹部の辺りに女性がいるはずです。服は着ていないかもしれませんが、見つけてください!」


「今探してる! く……、何じゃこら……。ブラックベアーの体そのものだな。脂肪の壁が厚すぎるだろ。体がギトギトだ……」


 フロックさんは浮遊しながらブラックベアーのお腹をさらに切り開いていた。


 脂肪の壁が分厚すぎてまだ体内に行きつかないらしい。


 先ほどまで出ていた血液は皮膚近くの細い血管が出血しただけらしい。


 その為、ブラックベアーの内部はまだ傷付けられていないようだ。


「仕方ない。一気に切り裂く!『斬撃』」


 フロックさんは大剣に魔力を込めて、真上から真下に切り下げる。


 すると、ブラックベアーの腹部から血が大量に噴出し、腸が垂れる。


「よし、切れた。あとは体内を探すだけだ。だが……暗すぎるな。カイリ、明かり!」


「はいはい。人使いが荒いんだから『ライトボール』」


 カイリさんは光輝く玉を右手から出現させ、フロックさんのもとに飛ばす。


 光の玉は浮遊し、ブラックベアーの体内に潜り込んでいった。


「少し探してくる。その間、ここの傷口を閉じさせるなよ」


「分かりました!」


 フロックさんはブラックベアーの体内に入っていった。


『グラアアアアアアア!!』


「くっ……。肺は潰されているのになんでそんな大きな声出せるの」


「キララ様。ブラックベアーの回復が既に始まっています。すぐに先ほどと同じことを繰り返しましょう」


――分かってる。今、魔力を練ってるから。


 ベスパは治りかけているブラックベアーの胸元に飛びこんでいった。


「ここからなら、今のベスパを狙えるはず……」


 ベスパまでの距離が丁度一〇○メートル程だったので、私は狙いを定めて『ファイア』を撃ち込む。


 『ゼロ距離爆発』を使えば確実なのだが、この先何があるか分からない。


 フロックさんやカイリさんがいる状況で、危険を下手に曝すわけにはいかない。


 今、私の魔力が枯渇したら、フロックさんの背中に着いている警ビーが制御できなくなる。


 そうならないために今は魔力の無駄遣いを出来るだけ抑えたいのだ。


 『ファイア』も進行方向を空中である程度修正できる。


 加えて先ほどよりも胸元の傷が広いため、狙いやすかったのだ。


『ドッゴー!』


 ベスパに『ファイア』が当たったとたんに爆発した。


 治りかけていたブラックベアーの胸元はまたしても大きく損傷する。


 だが、今度は先ほどよりも回復が速い。


「もう、治りかけてる。何で……?」


「キララ様、ブラックベアーもバカではないようです。同じ部分を狙われ続けると予想し、回復させる意識を事前に向けているのでしょう。そのお陰で先ほどの回復速度から、三倍ほど上がっています」


――そうか。なら、別の部分を損傷させないといけない訳ね。でも、お腹の部分にはフロックさんがいる。今、お腹を攻撃したら、フロックさんに当たってしまうかも……。


 私が悩んでいると、疲れ切っているカイリさんが私達のもとに移動してきた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。レディー、フロックのことは気にしなくていい。今は私の『バリア』で守られているはずだ。多少の爆発であれば耐えられる。フロックは体が吹き飛ばされる程度の爆風で死ぬほどやわな体をしていません」


――そうだった。今、フロックさんは『バリア』で守られているんだ。


「そ、そうですか。分かりました。なら、ブラックベアーの全体を爆破していきます」


 私がそう意気込んだのも束の間、ブラックベアーは二足歩行から四足歩行に体勢を変え、動きだした。


「バリア!」


 カイリさんはブラックベアーの四足歩行による突進を巨大な『バリア』で何とか防ぎ、進行を妨げる。


「くっ! いきなり動きだした。傷を治すのは後回しにする気なんだ」


「レディー! 私が抑え込んでいる間に移動するんだ!」


 カイリさんは腕の血管や額、首の血管が浮き上がるほど、全身に力を入れていた。


 きっとそれだけの魔力を込めないとブラックベアーの突進を止められなかったのだろう。


「は、はい!」


 私はレクーのもとに走る。だが……


「うわっ!」


 私はどんくさくも転んでしまった。


 転びやすそうな石すらない、草原で転ぶなんて、全く思っていなかったが、私の思っている以上に体にガタがきているらしい。


――そりゃそうか……、今日でもう何度魔力を全部使いきっているか分からない。その状態で動き続けてきたのだから、体が悲鳴を上げてもおかしくないか。今日、私は魔力を少なくとも三回空っぽして、何度も死にかけている。


「そうか……。もう、私の力だけじゃ逃げられないんだ。でも今は……私一人じゃない」


 私は全身の力を振り絞って立ち上がり、ルドラさんのバートン車に向った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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