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武器操作

「ルドラ。君は怖がり過ぎだ。そんなんじゃ御者をやっていけないよ」


「私は商人! 御者じゃありません! 私をいいように使わないでくださいよ!」


「ははは、知っているよ。少しからかっただけさ。それじゃあ、私もあのブラックベアーと戦ってくる『バリア』」


 カイリさんは足場に円形の『バリア』を出現させ、その上に乗る。


『バリア』は浮き上がり、高速で動き始めた。


「あの『バリア』移動手段にもなるのか。便利すぎない……」


「まぁ、あれがカイリのスキルですからね。攻撃を守る障壁にもなれば、味方を援護する足場、自分や味方を移動させる手段にも使えます。他にも、敵を捕獲したり、水を汲んだりできるみたいですよ」


「有能すぎますね……」


「ほんとですよね。って、キララさん。冷蔵車の前座席に速く乗ってください。この場を離れないと、私たちが巻き込まれてしまいます」


「で、でも。あのドロドロになった地面に人がいるはずなんです。その人を救出するまで待っていてくれませんか?」


 私はブラックベアーの頭があった部分に指をさす。


「な……、キララさん以外に人がいるんですか?」


「まだ調べてないので、分かりませんがいるはずなんです」


――ベスパ。ブラックベアーの頭部があった場所を見てきて。誰かいたらここまで連れてきて。


「了解!」


 ベスパは眼元が赤くなった表情で凛々しく命令に従う。


 ルドラさんはバートンの進む方向を変えてフロックさんとカイリさんの様子を見守っていた。


「おらああああ!! ぶったぎれろや!!」


『グラアアアアアアア!!』


 フロックさんの大剣はブラックベアーの腹部に突き刺さっており、重力によってフロックさんが落ち、腹部は切り裂かれていく。


 黒い血が腹部から噴き出し、気持ち悪くてなかなかに見ていられないが、領主かマザーのどちらかがブラックベアーの体内にいるはずなのだ。


「キララ様! 領主を発見しました! 黒いヘドロの中で倒れています。今、そちらに運びます!」


――ほんと。分かった。と言うことはお腹にいるほうがマザーなんだ。


「おらああああ!!」


『グラアアアアアアア!!』


「ぐおっ!」


『ドッシャン!!』


 お腹を切り裂かれていたブラックベアーは腹部に向って咆哮を放った。


 フロックさんは超至近距離で地面が抉れるほどの破壊力を持つ咆哮を食らってしまい、地面につき落とされる。


 大剣はブラックベアーのみぞおち辺りで止まっており、フロックさんは柄を手放してしまったのだと分かった。


「フロックさん! 大丈夫ですか!」


 私は声がとどくかも分からないのに、声を出さずにはいられなかった。


 今、私を助けてくれた人が、私を殺そうとしていた化け物を戦っている。


 そんな心を締め付ける場面で見てみぬふり何てできなかった。


「チッ……いってぇ。カイリ! 『バリア』あと一歩遅かったら俺、死んでるぞ!」


「はぁ……。だったら素直にありがとうと言いなよ。フロックの大剣、あんな所に刺さってるけどいいの」


「いいわけねえだろ。あれがねえと、俺は普通の男じゃねえか!」


「身長の低い男でしょ。フロック少年」


「バカにしやがって……。俺はまだ身長の低い男だ。これから大きくなるんだよ!」


 フロックさんとカイリさんは目の前に超巨大なブラックベアーがいる中口喧嘩を始めていた。


――ブラックベアーが近くにいて小話を挟むなんてあり得ない。あの二人、心臓が強すぎるでしょ……。あれが目の前にいて怖くないのかな……。


「おかしいですよねー。あの二人。学園の頃からあんな感じなんですよ」


 ルドラさんは、二人が言いあいをしている場面を見て昔を懐かしんでいた。


――二人がおかしいと言うのは、まぁ、分からなくもない。


『グラアアアアアアア!!』


「くっ!」


 ブラックベアーがフロックさんとカイリさんの会話を黙って聞いているはずはなく、腹部が再生させたのちフロックさんに攻撃を再度仕掛ける。


 フロックさんは仰向けの状態から後方にバク転で攻撃を回避し、ブラックベアーから距離をとった。


「戻ってこい! 俺の相棒」


 フロックさんが叫ぶと、ブラックベアーの腹部に刺さっていた大剣が引き抜かれ、フロックさんの手に大剣の柄が向かっていく。


『パシッ』


「よし……。いい子だ」


 大剣はフロックさんのもとに戻り、構え直す。


「今、大剣を操っていたのはフロックさんのスキルですか?」


 私は隣にいるルドラさんに聞く。


「そうですね。フロックのスキルは『武器操作』と言って武器を自在に操るスキルです。本当なら大剣じゃなくてもいいんですけど、フロックの師匠が使っていた武器が大剣なんだそうで、あれがいいそうです」


「へぇ……。大剣の固有スキルじゃなかったんだ。でも、凄い威力で切っている場面を見たことがあるんですけど、あれはスキルじゃなくて魔法なんですね」


「フロックは魔力量が多いので魔法の威力が強くなります。昔は付与系や斬撃強化系などをよく使っていましたね」


「キララ様。ただいま戻りました」


 ベスパは領主を連れて戻ってきた。


 領主は眠るように目を閉じ、体の力がなくなっていた。


 だが、呼吸はしているので生きているみたいだ。


「よかった……生きてる。これならマザーも生きてるはずだよ」


「マザーとは誰ですか?」


 ルドラさんは知らない名前を聞いて疑問に思ったのか、私に聞いてきた。


「えっと、あのブラックベアーの中にもう一人取り込まれているんです。フロックさん達はその人を助けるために大技を使わず、見つけ出そうとしているんだと思います」


「なるほど。あの二人は人命救助を行っているんですね」


「そうです。ですから私達も出来るだけ近くにいた方が、人命を救出した際、すぐに確保できるので身を隠しましょう」


「ですが、この近くで隠れる場所なんてありませんよ。広大な平野ですし、近くの森でも数十キロメートルは離れています」


「大丈夫です。身を隠すだけなら、少しわき道にそれてくれるだけでいいので」


「?」


 ルドラさんはよく分かっていない様子だったが、バートン車を動かし道を逸れる。


――ベスパ、ビー達で半球状の壁を作ってバートン車を覆って。あと『光学迷彩』で透明になって外の景色が見えるようにしておいて。


「了解です」


 ベスパが光ると草原からビー達が現れ、私達を覆っていく。


 魔力がほぼなくなってから五分ほど経ったのか、魔力が体内に溜まってきたみたいで私の体調が少しよくなる。


「え、えっと……、何か変わったんですか?」


 ルドラさんはバートンを脇道に反らしただけだと思っているらしい。

 

「はい。今、私達は外からの景色に溶け込んで見えなくなっています。透明人間ってやつですね」


「透明人間……。そんなことがキララさんにはできるんですか! いったいあなたは……」


「まぁ……。今は置いておきましょう」


 ルドラさんは私がいったい何者なのかを詮索してきそうだったので私は出来るだけその話をしないよう話を無理やり切る。


 私はベスパが連れて来た領主の体調をもう一度よく見るため、荷台の方に向った。


「ちょ、キララさん危ないですよ。すぐ近くにあれだけ大きなブラックベアーがいるんですから、あまり動かれるとすぐに逃げられません」


「大丈夫です。あの二人が簡単にやられるとは思えませんから」


「そ、それもそうですけど……」


 私は荷台に近づき、横たわっている領主さんを見る。


 顔つきは私が初めて会った領主邸の部屋で見た時より清々しい。


 領主は何かが抜けた状態で、セミの抜け殻を思わせられる。


 人の魂がないと体だけ見たら恐怖しか思えない。


 全身黒いヘドロ塗れで汚かったので、私は『ウォーター』で洗い流す。


――ベスパ……。本当に生きているんだよね?


「はい。疑われるのなら、心臓に耳を当ててみてください」


 私は領主の心臓に耳を当てる。


 すると、鼓動がどくっどくっと聞こえる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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