三人の増援
私はと言うと……。
ブラックベアーの攻撃をかわし、道の草原で何となく知ってる匂いに包まれ、小さくも大きな胸に抱かれている。
「誰に会いたかったって?」
「フ……、フ、フロックさん……。ど、ど、どうしてここに……」
「友達の商人に着いてきたら、こんな大物が現れやがった。糞みたいな汚声が聞こえたからな、一目散に駆けつけてみたら、キララが倒れていたんだよ。また無茶したらしいな。ガキのくせしやがって。だが、安心しろ。俺が来たからにはどれだけデカかろうがブラックベアーはぶっ殺す。何があったかはまた後で聞く。今は休んでろ。カイリ! 回復魔法を頼む!」
「う……、ぅぅ……、ぅう、うわぁぁぁぁぁぁぁ~ フロックさ~ん! 怖かったよ~ぉ」
「ちょ、お前。あんまりくっ付くな」
私は全身の痛みなど感じる間もなく、目の前の男性に抱き着いた。
小さい身長のわりにがっしりとした、がたいで私の心臓の鼓動が止まらない。
先ほど、ブラックベアーに殺されかけていたかもしれないが、フロックさんが現れた途端に鼓動の速度が二倍、三倍に膨れ上がっており、死にそうだった。
私は泣いた。
もう、あり得ないほどに泣いた。
近くにブラックベアーがいるにも拘わらず、わんわん泣いた。
自分が子供なのだから別に泣くのはおかしくないのだが家族の前でもこんなに泣いた覚えがない。
フロックさんの黒い服に大量の涙と鼻水を吸わせ、しがみ付くその姿はどこからどう見ても怖い目にあった普通の十歳の女子だった。
フロックさんはそんな私を抱きしめ、跳躍し、ブラックベアーがのたまう場所を移動する。
「カイリ、こいつを頼む。俺はあの化け物を足止めしておくから、こいつを回復させたあとお前も戦え」
「分かってるよ」
「ひっぐ……、ひっぐ……」
私はフロックさんから、カイリさんに受け渡される。
「あちゃー、これは酷く折れてますね。私の回復魔法では骨を完全にくっ付けられませんよ」
私はいまさら気づいたが、左腕が血だらけだった。
レクーの背中からなげだされ、地面に落ちた時、きっと私は頭を庇うために咄嗟に左手を出したのだろう。
そのお陰で頭は打たずに済んだと思えば安い代償かもしれない。
ただ、リーズさんには相当怒られそうだ。
「じゃあ頼んだぞ、カイリ。キララを回復させたら、あいつのバートン車に移動させろ。あの白バートンも落ち着かせておけよ」
フロックさんは背中に背負っている大剣の柄に手を掛ける。
「ふ、フロックさん……」
「何だ。怪我してるんだから喋るんじゃねえ」
「あのブラックベアーの体内に人がいます。その人は一般人なので……、助けてあげて、ください」
「あのブラックベアーの中に人がいるのか。なんじゃそら……。頭がないのに動いていたのはあのブラックベアーはもう、普通じゃねえってことでいいよな?」
「はい。三カ所に魔石があって、三個の魔石を取り除いたあとに火属性魔法を撃ち込まないと倒せません。私の仮定ですが、根拠はあります」
「そうか。場所が分かるならおしえろ」
「心臓に……ブラックベアーの魔石、右肺辺りと肝臓辺り、腎臓辺りに人工魔石……」
「人工魔石? それはなんですか。まぁ、とりあえず、止血します『ヒール』」
カイリさんは私に『ヒール』を掛けながら聞いてくる。
「人工魔石っていうのは私が勝手に着けた名前で、再生の魔法陣が埋め込まれた魔石です。どれだけ壊しても、再生してしまうので斬撃だけだと絶対に倒せないんです」
「じゃあどうやってブラックベアーを倒すんだ?」
「私の友達が人工魔石を食べて消します。なので魔石をブラックベアーの体内から引き離したあと、あの大きな巨体が黒い塊になると思うので炎系魔法で燃やしてください……。そうすれば倒せるはずです。私も体力が回復すれば力になりますから。その間……あのブラックベアーをよろしくお願いいします」
私はフロックさんに頭を下げてお願いする。
「たく、めんどくさい化け物だな。長ったらしい話はあとで聞こう」
「はい……。何時間でも」
「しゃあ! いっちょ殺るか! カイリ、足場!」
「了解」『バリア』
カイリさんは私の腕を出来る限り治したあと、フロックさんの足もとに長方形型の『バリア』を浮かび上がらせる。
「ふっつ!!」
フロックさんは『バリア』を足場にしてブラックベアーのもとに向っていった。
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーは既に体勢を立て直しており、頭部が元に戻っている。
どうやら、フロックさんが相手だと頭部を戻さなければならないと判断したみたいだ。
「うるせえって言ってるだろうが!!」
フロックさんは空中で叫びながら大剣を両手で持ち、頭上に掲げながらブラックベアーと対面した。
「それじゃあ、レディー。僕達は姫を運ぶ御者のもとに行こうか」
私のすぐ目の前には超絶イケメンの金髪白銀騎士がいた。
だが、フロックさんほどのときめきがない。
「は、はい……」
――ご、ごめんなさい。カイリさん。やっぱり私、カイリさんは生理的に受け付けません。
カイリさんは私を抱き上げ、跳躍する。
すぐ近くまで着ている御者さんのもとに向うらしい。
私達は少し移動すると、見覚えのある人が右手を振ってカイリさんを呼んだ。
「おーい! カイリ! どうなってるんだい!」
「って! ルドラさん! 何で、カイリさんとルドラさんが……」
「あれ、レディーはルドラを知っているのかい?」
「は、はい。私の仕事仲間です」
ルドラさんはレクーを連れて私達のもとに駆け寄ってきた。
レクーの頭部に、はいつくばっているベスパがいる。
ベスパの大きさは元に戻り、なぜ今の今まで戻ってこなかったのか分からなかったが、やっとはっきりした。
――ベスパ、何しているの? 主様が帰って来たのに、レクーの頭の上で情けなくはいつくばってたら会話できないでしょ。
「うぐぅうぅー、キララ様ー、うぅぅぐぅぐぅー、キララ様ー」
ベスパはレクーの頭部をビチャビチャに濡らしながら泣きつくばっていた。
――ちょ、泣き過ぎ……。ベスパ。私は無事だったから、泣き止んで。
「うぐぅ……。キララ様、よくご無事で……、不甲斐ない私をどうか心行くまで燃やし尽くしてください……。キララ様を守り切れなかった私を、うわぁ~ん」
――そんな泣きながら言われても、困るな……。でも、結果的に私は生きてた。だから、もう大丈夫。
「ひっぐ……。はい。そうですね。キララ様が本当に無事でよかったです」
ベスパはレクーの頭部から飛び上がり、私の目の前に飛んできた。
――レクーもよかった。どこも怪我してないみたい。
「ごめんなさいキララさん。僕の踏ん張りがきかなかったばかりに、キララさんの体が浮いてしまいました。僕の不覚です……」
レクーは自分のせいで私の体が浮いてしまったと思っているらしい。
でも、私の体が浮いたのはブラックベアーが咆哮を放ってきたからであって、レクーのせいではない。
――レクー、自分を責めないで。私が怪我をしたのは私が弱かったから。それだけなの。レクーは精一杯頑張ってくれたでしょ。私はそれで十分嬉しい。私をここまで運んでくれてありがとうね。
私はレクーの頭を撫でる。
「キララさん……。うぅ……」
レクーまで涙を流し初め、私は焦る。
「キララちゃん、何でこんな所にいるんですか。私はあんな化け物がいるなんて聞いてないですよ!」
今、この場にいる人の中でルドラさんが最も驚き、脚を震わせている。
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