真っ赤な一線の攻撃
――私はブラックベアーの体内にマザーと領主がいた場合を想定して助け出す方法を今のうちに模索しないと。えっと、ブラックベアーの肉体を爆発させて二人の命が奪われる状況はないと思う。でも、人工魔石の近くだから回復の効果があるだけで、二人を頭が無い状態でブラックベアーの体内から出したら、そのまま再生せずに死んじゃうかも。
私は攻撃手段が爆発だけでマザーと領主をどうやって助け出すか考えていた。
だが、いくら考えても爆発だけだと手段が足らない為、確実に助けられる方法が思いつかない。
――やっぱり何かしら斬撃の攻撃手段が欲しいな。私にも斬撃の攻撃手段が使えないか考えろ。風魔法もブラックベアーの体には効かない。水魔法もダメ、雷魔法も無意味……。どうしようブウラックベアーの『魔法耐性』が厄介すぎる。
ブラックベアーの何が私と相性が一番悪いかと言えば全て『魔法耐性』と言う能力だ。
私が攻撃手段をベスパの爆発に絞らざるをえないのは、全て『魔法耐性』によって魔法攻撃を防がれてしまうのに原因がある。
ブラックベアーに『魔法耐性』がある限り、私の魔法攻撃はむだになる。
――『転移魔法陣』を二枚使ってブラックベアーの体をねじり切るみたいな攻撃を考えたけど『魔法耐性』があるんじゃ無理そう。あぁ、こんな時にフロックさんがいれば……。って、ダメダメ、この場にいない人を考えても時間の無駄。くぅー、フロックさんのことを考えただけで心臓が苦しい……。
私の心臓が締め付けられる中、ベスパの声が頭に響く。
「キララ様、ブラックベアーの体に針を刺し込んだところ、二つの心音を確認しました」
――ほんと!! 位置は分かる?
「はい。一人はブラックベアーの頭部にいます。もう一人はお腹の部分です」
――どっちが領主かマザーなのか分からない?
「そこまでは変わりません。ただ、ブラックベアーの頭部は幾度となく破壊していますから、二人の体が再生するのは間違いないかと思われます。多少強引に露出させても、腕の一本や二本くらいは大目に見るべきだと考えます」
――そうだよね。それじゃあ、ブラックベアーの頭部にいるほうを助け出すよ。思いっきり爆破させると頭部が肉片になっちゃうから、首の部分だけを落としたい。その為に考えたんだけど、できるか分からないからベスパに質問する。
「はい、何でしょう?」
――『転移魔法陣』の中で爆発できる?
「え……、異空間の中で爆発ですか?」
――そう。『転移魔法陣』の中で爆発が出来たら、その攻撃を『転移魔法陣』の出口から出すとき、出口を極力小さくして線の一撃に変えたい。出来ないかな?
「んーー。不可能ではないと思います。やってみないと分かりませんが『転移魔法陣』の性質を考えると、魔力や魔法はそのままの形で異空間を移動します。物質はバラバラになって出口で再構成される仕組みですので、魔力の私と魔法の『ファイア』なら異空間内でも爆発は可能だと思います」
――入口から逆流してこないかな。異空間での爆発が原因で私の手も吹っ飛んじゃうとか……。
「入口に魔力が逆流することは絶対にありえません。なので、爆発は全て出口に向かいます。爆発の威力が全て出口から一方向に進むので成功すれば、ブラックベアーの首を吹き飛ばすくらい容易だと思われます」
――それなら、やろう。ただ走ってるだけでも、レクーの体力は減り続けてる。ベスパは私のもとにすぐ戻ってきて。警ビーの一匹をブラックベアーの首元に向わせて。『転移魔法陣』の大きさは最小に調整して。
「了解!!」
ベスパはブラックベアーを凌ぐ速さで私のもとに戻ってくる。
「キララ様、到着しました」
「じゃあ、私の指先に『転移魔法陣』を展開するから、ベスパは異空間の中に入って。その後に私は魔力を溜めたら『ファイア』を撃ち込む。ベスパは異空間内で思いっきり爆発して。もちろん遠慮はいらない」
「了解です。警ビーの眼前に『転移魔法陣』を展開し、体を縦に常時揺すらせてブラックベアーの首を切断できるか試してみましょう」
「警ビーが爆発の反動で吹き飛んだりしない?」
「問題ありません。『転移魔法陣』の後ろ側には何の力も働かないと、私が立証済みです。例えどれほど強い威力の攻撃が発射されようとも、魔法陣の裏側は干渉外らしいので、暴発の心配はしないで大丈夫です」
「そう、ならよかった……。はっきり言うと、もう、これ以上の作戦が考え付かないの。私の器用貧乏な魔法じゃ、これが限界。だから、ベスパ……絶対に成功させて」
「了解! キララ様の命、確かに受け取りました!」
「じゃあ、早速作戦を開始する。『転移魔法陣』を展開」
「では、キララ様。行って参ります! 異空間内では念話が通じないので、ここで一時お別れです」
「うん……。よろしく」
私が魔法陣を展開するとベスパは敬礼し、中に入っていった。
その時のベスパは特攻隊のような面持ちで、中性的な顔が少しカッコよく見えた。
「ふぅ……。あとは私が魔力を溜めて『ファイア』を撃ち込むだけ。ブラックベアーの首だけが外れれば、魔石の再生が大きい方の体に優先されるはず。だから、頭の部分はドロドロに溶けて領主かマザーのどちらかの体だけが残るはずだ。最悪、首だけ残ってても、あとから体を取り出せばいい」
――一回目、二回目、三回目の時、頭を吹き飛ばしたけど、頭にいなかったのかな。いや、体の一部がブラックベアーの体の中に残っていたから、そこから再生したんだ。だから、マザーと領主はクローンみたく何体も出てこないはず。
私はレクーに身を預け、眼を瞑る。
目を瞑ってからいったい何秒経っただろうか。
時間の流れがゆっくりに感じて分からない。
ただ、ブラックベアーの地面を抉り取りながら走ってくる音とレクーの地面を掻く走りは私の耳に確かに入って来ていた。
初めはレクーの足音の方が大きかったのだが、ブラックベアーの足音がレクーの足音をしだいに掻き消していく。
私は死の恐怖心を押し殺し、全身の感覚の全てを指先の魔力だけに集中する。
後ろを振り向けばブラックベアーが大口を開けて私達を食べようとしているかもしれない。
でも、今の私に恐怖心はなく、ただ魔力を打ち出すためにだけ意識を向けていた。
私は全身の感覚を捨てる。
渾身の一撃を放つために。
「はぁ……。くっ! 『ファイアアアアアア!!』」
私は眼を開けた瞬間、指先の『転移魔法陣』に向けて『ファイア』を撃ち込んだ。
指先の光は神々しく光っており、レクーの白い毛に光が反射して瞳が焼けるように痛かった。
だが、放たれた『ファイア』は渾身の一撃と言うに遜色ないほど炎々と燃えている。
炎の塊は『転移魔法陣』に吸い込まれていき、0.1秒後に地面の振動が起こる。
『ドドドドドドドドドドドドド!!』
なぜ爆発音ではなく、地面の揺れなのか……。
私は訳が分からず、後ろを振り向いた。
ブラックベアーの首元に警ビーが一匹だけ浮遊しており『転移魔法陣』を下に向け地面に向ってレーザービームのような真っ赤な光を発射していた。
その光が地面に突き刺さり、激しい土埃と振動を発生させているのを私は見た。
ブラックベアーは四足歩行で移動していた為、頭と地面の距離が50メートルの半分ほどだったので、赤い光は25メートルも伸びているらしい。
「上に……あげて」
私は警ビーに命令してみるが警ビーは動かない。
『ブッシャーーッツ!!』
「!!」
ブラックベアーの頭が地面に落ちて、道の脇にそれる。
ブラックベアーの体は脊髄と表面が焼けた跡を私にさらしながら、走っている勢いのまま、地面をするように激しく転がる。
私が振り返った時には既に、ブラックベアーとの距離が100メートルを切っており、巨大な体が、津波のように押し寄せてきていた。
レクーの足の速さがなかったら、きっと私はあの巨大な体に押しつぶされて死んでいただろう。
視界に激しい土煙が舞い、辺りの様子を見ても何が起こっているのか全く分からない。
ただ、赤い光だけは未だに出続けており、いったいいつ終わるのか疑問だった。
私はなぜ警ビーが上を向かないのか知るために、自ら空を見上げる。
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