切れたキララ
「キララ様! 早く起きてください! 私だけではどうすることもできません!」
「ぶっ殺す……」
ベスパの声に反応したように私は体を持ち上げる……。
「ぶっ殺す……、ベスパ、ビーども……、さっきはよくも……」
「キララ様! 目を覚ましてください!」
ベスパは私の脳内に声を掛けてくるが届くことは無い。むしろその声は私の怒りをさらにかきたてる。
「ブルルルウルッ!」
(そこの少女よ、邪魔だ! どいてろ!)
黒い塊が目の前に映る。その姿を見て、私は錯乱した。
「何だ……、ブラックベアーまでいるじゃん……。そろって出てくるなんて駆除のしがいがある……」
「ブルルル……
(私はブラックベアーじゃ……)
黒い塊は私の発言に物申しようとしたがそれよりも先に魔法を繰り出す。
「『ファイア!』」
私は指先を黒い塊に向け、詠唱を大声だ叫び、指先に魔法陣を展開して魔力を押し込む。すると燃える火の塊が黒い塊付近に飛んで行った。
「『ファイア! ファイア!! ファイア!!!』」
私は魔法を連続で放つ。だが、黒い塊は綺麗にすべて回避した。
黒い塊は狭い隙間を縫うように巨体からは想像もできないほど無駄がない動きを観衆に見せつける。
「ブルルルルッツ!」
(はっ! 面白いじゃない……。付き合ってあげるわよ!)
黒い塊は大きく旋回し、助走を付け、勢いよく走りだす。
「『ファイア!!!! ファイア!!!!! ファイア!!!!!!』」
私は無意識化で黒い塊を傷つけまいと足元付近を狙うが、全く止まる気配がない。
私は普段使わない思考回路をフル回転させる。
「ベスパ! 私の掌に来なさい!」
「は……はい!」
私は手を刺し伸ばし、手のひらを開ける。
ベスパが手のひらに乗ると私は思いっきり握りしめた。私の魔力がベスパに込められ光る。
「キララ様! いったい何をするんですか! 私、嫌な予感しかしないのですが!」
ベスパは手の平の中でもごもごと喋る。
「ベスパ……、一回死んできて!」
「ちょっとま……」
「おらぁ!!!!」
私はベスパを黒い塊に目掛けて思いっきりぶん投げた。まるで野球ボールを投げるかの如く腰を落とし腕をしっかりと撓らせて振りかぶる。すると小さいはずのベスパは物凄い速さで黒い塊に飛んでいった。
「ぎゃ~!!!!」
輝くベスパは短い手足をバタつかせながら回転し、黒い塊に向う。
私は指先をベスパに向け、標準を合わせる。
「ドンピシャ! 『ファイアァァァアアアア!!!!!!!』」
私はベスパに目掛けて今放てる最大火力の魔法を放つ。
ベスパは黒い塊とぶつかり押し戻されるが、後ろから放たれた燃え盛る火の塊が輝くベスパに当たる。するとベスパは、ものすごい勢いで弾け飛んだ。手榴弾と言っても良いぐらいの爆ぜ具合。
弾け飛んだ爆風で黒い塊の足がもつれ、地面に倒れ込む。
「んん……。はっ……、私なにして……」
私はベスパが弾け、イライラが吹っ飛んだ瞬間にいつもの意識が戻った。
「く……」
倒れ込んだバートンは目の前で停止し、動かない。その黒い肉体に向って私は指さす。
「私の勝ち……、おとなしくしなさい」
「ブルル……」
(ふ……、わかったよ……)
私の意識は完全に戻っていた。自分がよく知らない牧場の中にいるのはなぜ? いつの間に移動したんだろうか。私は先ほどの光景を思い出したくなかったので、何があったのか無理に想像しないようにした。
「キララ様! 意識が戻られたのですね。いったい、いつから?」
ベスパは復活し、私の頭上を飛ぶ。
「ベスパに魔法を放った時かな。あの弾けようは気分が滅茶苦茶すっきりした!」
「私を殺してすっきりしないでくださいよ……」
ベスパは両手を動かし、苦笑いを浮かべている。
私は屈み、黒いバートンに話しかける。
「あなたの名前は?」
「私の名前? そんなもん聞いてどうする。アンタに関係ないだろ」
負けたのが悔しかったのか、バートンは首を傾げ、すねる。
「だってあなた、お爺ちゃんに育てられたバートンでしょ?」
「爺を知ってるのか! あの爺、どこをほっつき歩てんだ! 草も出しにこないでよ!」
「お爺ちゃんは怪我をしちゃって、来れなかっただけなの。だから私がお世話をしに来たら、あなたが逃げ出してて……」
「じゃあこの村に爺がいないのはなぜだ!」
「ここの村じゃなくて、反対の村にお爺ちゃんがいるんだよ。あなた方向音痴なんだね」
「く……、お前は方向音痴だからな、私の指示に従いなさい……、何て言われた気もする。あんたは私が知っている爺と雰囲気が似てやがるな……」
黒いバートンは私の姿を見ながら言う。
「まあ、嘘はついていないようだな……。私の名前はビオタイト。舎弟たちは姉さんと呼んでる」
「私はキララ・マンダリニア、キララって呼んで。この子はベスパ……別に覚えなくていいから」
「ちょっと! キララ様。私のおかげで話せてるのですから、ちょっとは感謝してくださいよ!」
ベスパは私の周りをブンブン飛び回る。怖いのでやめてほしい。
「姉さん、立てる?」
私は倒れている姉さんに話しかける。
「なめられちゃ困るね、ちょっと転んだだけさ。こんな傷、私にとってはどおってことないよ」
姉さんは巨体を動かし、足裏を地面につけると一気に立ち上がる。
私は自分よりも明らかに大きな姉さんを前にして腰が一瞬引けた。でも、姿を見てビビったら失礼だと思い、踏みとどまる。
「それじゃあ、村の皆さんに謝りに行こう。あの伸びてる人にも一応謝っておこうね」
私たちは何をしようとしていたのかわからない男の人のもとに向かう。とても良い服を着ており、明らかに平民ではなかった。起きた時、色々面倒になると思ったので拘わらないようにする。
「ごめんなさい」
男性は気絶したままだったが一応謝っておいた。
次に迷惑をかけた村長さんらしき人のもとへ向かう。
――何を言われるかわからないな……。姉さんの体に血痕らしき染みはどこにもないから、誰も殺していないと思う。それならちょっと怒られるくらいかな。もし、殺していたらどうすればよかったんだろか。
「あの~、私が住んでいる村のバートンが逃げ出しちゃって……、皆さんにご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい。また今度お見舞いの品を持って伺います」
私は失敗した会社員のように頭をペコペコ下げながら謝った。
「いや~あのバートンをおとなしくさせるなんて大したもんだよ。村の男どもは皆ビビっちまって、使い物にならなかったからな。これでこの村の目標が見えた気がするよ」
「え? いったい何の話を……」
「こんな恥を見せちまったんだ、男ども! これからは男を上げられるよう努力するように! この少女が何か悪いことをしたか?」
おじさんは村人に問いかける。村人は首を横に振り、君は悪くないよ! と言わんばかりにお辞儀を繰り返している。
「皆、気にしていない。だからお見舞いの品もいらん。別に今日の失敗を気にすることは無い。私は逆にありがとうと言いたい」
おじさんは手を差し出してきた。
「そ……、そうですか、ならそれでいいです」
私も手を伸ばし、おじさんと握手を交わした。
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