魂の味
(この魔石は……、ドリミア教会が作った……兵器です)
「兵器、いったい誰と戦うための兵器なんですか?」
(悪魔……です。奴らは……悪魔を手に入れようとしています)
「何を言っているのか全く分かりません! マザー、その話はあとでゆっくり聞きますから! 今はどうやったら助かるのかをおしえてください! 何としてでも成功させますから!」
(私の助かる方法……。それは分かりません……。いつの間にかこの中に入っていたので……)
「なら、今どこにいるか分かりませんか。ブラックベアーの体を切り裂いてマザーがいるか見てみますから」
(私のいる位置……。それも分かりません……)
「なら、その巨大なブラックベアーを止める方法を教えてください!」
(魔石を全て抜き取って……しまえば、動かなくなるはずです……)
「やっぱりそうなんですね! 位置は分かりますか!」
(心臓に……ブラックベアーの魔石、右肺辺りと肝臓辺り、腎臓辺りに人工魔石……が、あると思います……)
「ありがとうございます。魔石の位置が知れただけでも、マザーを助けられる可能性が上がりそうです!!」
(キララさん……。私が教えた理由は……私が助かる為ではありません……。万が一、私の意識がなくなった時……、この化け物を止めてもらうために……お、お、しえ……しました)
マザーの声は壊れラジオのようにガザガザの音声に聞こえる。
「マザー! 意識が遠くなってきています! 気を確かに持ってください!」
(レイニー、皆……。ごめんなさいね…………。私がいなくても……、強く……生きて……)
「マザー、何寝ぼけたこと言ってるんですか!! あなたは生きるんですよ!! こんなところで死なせるわけありません!!」
(キララさん……、あなたは……強い、素晴らしい心を持っています……、どうか……いつまでも……、その純白な……色で…………)
「マザー!! ちょっとベスパ、レイニーの泣き声をちゃんと聞かせてるの!!」
「はい! もう、最大に増幅しています! これ以上大きくすると声が聞き取れないほどになってしまうので限界何です!」
「くっ!」
『バクリ……。ふぅ~、うまかった……。やはりいいなぁ、人の魂は……』
「え……。だれ、あなた……」
マザーの声がしていたのに、知らない声が私の頭の中にいきなり流れ込んでくる。
(ん? 俺の声が聞こえるのか。なるほど、人間以外の言葉が分かる者がいるとはな。面白い)
今、ブラックベアーから聞こえるのは、マザーの声のはずなのに、喋り方や声の質がマザーではなかった。
「あなた誰! マザーはどこに行ったの!」
(マザー? 誰だか知らないが、女の魂なら食べたぞ。黒く汚れていたがまぁまぁな味だったな)
「あなたは誰! さっさと答えて!」
(強引なやつだなぁ……。別に知る必要ないだろ)
「自分の情報を出さないつもり! あなたはいったい何者なの! ドリミア教会の人間!」
(うるさいな。俺も久々に現世に出てきたんだ。ドリミア教会だか、何だか知らないが俺は人間じゃない。そうだな、この世界で言うと通称、悪魔って存在だ)
「悪魔……。何でそんな非現実的な存在が……、いや、この世界だとあり得るのか」
(それで、俺は自分の正体を話した。お前はどう見ても人間だな。こんなでかい化け物に立ち向かってどうする気だ?)
「悪魔に質問されても、答える義理は無い! いったい誰があなたを呼んだの!」
(おいおい、不公平だな。俺にばかり質問するなよ。久々の現世で俺も楽しみたいんだ)
「楽しみたい……。今はあんたに構っている暇はないの、マザーを早くもとに戻して!」
(それは無理だぜ。俺が魂を食っちまったんだから。だが、俺を倒したらもとに戻るかもなー)
自分を悪魔だと名乗る声は私を煽ってくる。
「くっ!」
――ベスパ、いきなり悪魔を名乗るやつが出てきたんだけど、どういうこと。
「分かりません。悪魔と言っていますが実態が見えないので本物か怪しいです。ですが、あの中にいてあれだけ流暢にしゃべっているところを見ると、現実身が増します。今、対話している相手は悪魔の可能性が高い、それだけは事実です」
――悪魔の倒し方って何、あいつを倒さないとマザーを助けられないみたいなんだけど。
「悪魔の倒し方は推測するに奇跡や聖水などの神秘的な力でのみ倒すことが出来ると考えられます。我々がどれだけ魔法を撃ち込んでも効果は無いかと……」
――つまり、今はあいつを倒せないというわけね。
「はい」
(あー、俺の倒し方を考えているのかもしれないが、俺はそう簡単には死なないぜ。と言うか、死という概念が俺にはないからな。俺を倒すには『封印』か『消す』が有効だ)
「いいの、そんなに自分の弱点を言っても……」
(人間はすぐに死ぬからな。それに俺の倒し方なんて調べればすぐわかるはずだ。数千年前に暴れまくったからなー。懐かしいぜ。あ、加えて言っておくが俺はお前と戦わない)
「は、何言ってるの……」
(俺は厄介な人間の魂を食えと言う命令を受けただけだ。それ以上は報酬の割に合わないんでな。ここら辺で主のもとにおさらばするぜ)
「ちょ! どうやって逃げる気! そんなでかい図体じゃ、すぐ見つかると思うけど!」
(悪は実態を持たないんだよ。だから、魔力体として移動できるんだ。じゃあな、あとはブラックベアーの精神にこの体を動かさせるから、後片付けよろしくー)
「な! ちょっと待って! 誰のもとに行くの!」
(俺の仲間達をこの世界に復活させようとしている奴のもとにだ。楽しくなりそうだろー、それじゃあ、キララ・マンダリニア。また会うのを楽しみにしているぜ)
「私の名前……。いったいどこから……」
(食った魂の記憶からだ。ただの村娘が粋がってるとすぐに死ぬぞー、じゃあなー)
「くっ! マザーの魂を返せ! この悪魔野郎!」
「キララ様、落ちついてください。悪魔が離れた瞬間から、あのブラックベアーは本来の精神を取り戻します。つまり……」
『グラアアアアアアアアアア!!!!』
(食いたい、食いたい、食いたい、食いたい、食いたい…………。食わせろおおおお!!!!)
ブラックベアーは叫びながら私達の方向に走ってきた。
「ぐぅううう……」
私はブラックベアー本来の声を大音量で聞いてしまい、耳を咄嗟に塞ぐ。
「レクー、全力で駆けて……」
「は、はい!」
レクーは王都に繋がる道の方へ全力で駆ける。
「ベスパ……。あのブラックベアーは私達を狙っているの?」
「そのようですね。街の中で暴れられるよりかは好都合です。私達は街の外に出てあのブラックベアーと戦うべきでしょう。そうしなければ、あの街は崩壊します」
「そうだよね……。でもさ。あのブラックベアー、足が速すぎるよ……」
『グラアアアアアアアアアア!!!!』
(食わせろ、食わせろ、食わせろ、食わせろ、食わせろ、食わせろ!!!!)
ブラックベアーは四つん這いになり、叫びながら建物をぶっ壊し、私達の方に駆けてくる。
「グぅぅ……。ベスパ『聴覚共有』を切って……」
「了解しました」
『グラアアアアアアアアアア!!!!』
ブラックベアーの叫び声は聞こえるが心の声は聞こえなくなった。
「よし、聞こえない。レクーとことん駆けて街の外に広がっている広い草原まで行くよ!」
「はい!」
私達は街の門を潜り草原に飛び出す。
私達のいつも通っているがたがた道とは違い、走りやすいようにとても整備されていた。
――さすが王都につながる道。地面がほぼ平になってる。
きっと多くの人が王都や街を行きかうため、とても走りやすいようになっているのだろう。
「レクー、この地面なら最高速度を出せるよね!」
「当たり前です! キララさんしか乗ってないんですからいつもの調子を出せるに決まってるじゃないですか!」
レクーは体勢を低くし、脚の回転速度を上げる。
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