ブラックベアーとの会話
「キララ様、あの咆哮には魔力が込められていますからブラックベアーへの効果は薄いみたいです」
――なるほど……。だからあれだけの威力が出るのか。それでベスパ、声の方はどう?
「今の咆哮に微小ながら声が聞こえました。この方法は効果があるみたいです」
――分かった。もう少し泣きまねを頑張る。ブラックベアーが移動しそうになったら『転移魔法陣』を頭部から離れさせないようにしておいて。今の私に、そこまでの余裕はないから。
「了解です!」
私は泣きまねを始めてから10分ほど過ぎた。
「ぅわぁ~~~~ん、こわいよぉ~~~~こわいよぉ~~~~。マザー、マザー、ひっぐ、どこにいるの~、うわああああん」
――これ以上は喉が持たなそうだ。ほんと、何時間も泣き続ける赤ちゃんたちは凄いな……。
『ぐぅあぅあぅああああああああ!!』
――ん、ブラックベアーの声……、少し違う。
「マザー、マザー、俺はここだ~~、マザー、たすけてよぉ~~~~」
レイニーは泣きじゃくり、顔をぐしゃぐしゃにしていた。
『ぐらああああああああああああ!!』
ブラックベアーは周りの建物にぶつかりながら、私達の方向に向かってくる。
「うわっ! ブラックベアーが動き始めた。しかもこっちに来る。レイニー! 逃げるよ!」
私はレイニーの腕を掴み、立ち上がらせようとする。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、マザ~~、どこだよ~~。子供達が待ってるんだよぉ~~~~」
「ちょ、レイニー! 速く立って!」
レイニーは役に入りすぎて現実世界に帰ってこれなかった。
どうやら憑依型の役者らしい。
「レクー。レイニーを咥えながら走れる?」
「ギリギリ行けると思います!」
「ならお願い! ブラックベアーがどこを目掛けて走っているか分からないけど、多分ドリミア教会だと思う。この場から離れれば何とかなるはず。全力で逃げて!」
「分かりました!」
私はレクーの背中にまたがり、レイニーはレクーに服の首根っこを噛まれ持ち上げられる。
レクーは全力で走り、ドリミア教会から離れた。
「あ、キララちゃん。戻って……。って! でっか!! 建物で見えなかったけどデッカ!!」
「いやぁ……、あれはヤバいね。さすがに死ぬわ」
「と、トーチ。諦めるのが速いですよ」
「いや、マイア……、あれは……」
ロミアさん達は人質を避難させて戻ってきたが、今、戻ってきても出来ることなんてない。
「皆さん! 全力で逃げてください。ドリミア教会からある程度離れれば何とかなるはずです」
「何とかって……」
「ロミア! ツベコベ言わずに逃げるぞ!」
トーチさんはロミアさんの腕を掴み、ドリミア教会の前から離れる。
『ぐらああああああああああああ!!』
今回は咆哮ではなく、ブラックベアーがただ叫んでいるだけだった。
その光景を見ると様子がおかしい。
「マザー、マザー、帰って来てよ~~~~! みんな心配しているんだよぉ~~~~!」
「れ、レイニー、こんな状況なのにずっと泣いてる……。すごい、才能なんじゃ」
――ベスパ、レイニーの声をブラックベアーにずっと聞かせられてる?
「もちろんです。やはり、赤ん坊のころから思い入れのある声なので強く反応しているのかもしれません」
――それじゃあ、やっぱり……。ブラックベアーの中にマザーがいるのかも。
「その可能性は高くなりましたね。キララ様、ブラックベアーがドリミア教会に突っ込みます」
「え……」
私はレクーの背中に乗りながら背後を見た。
『ドガッツ!!』
「うわっ!」
超巨体のブラックベアーがドリミア教会に頭から突っ込んだ。
その衝撃はすさまじく。
地面が強く振動する。
もちろん教会はただではすまず、建物は崩壊、建物のみならず、大きな柱も全て踏みつぶし、叩き壊している。
『ぐらああああああああああああ!!』
建物をほぼ崩壊させたあと、ブラックベアーが天に向って叫んだ。
これがしたかったんだと言いたげな声で、私の耳にガンガンと響く。
「レクー止まって」
「は、はい」
『ぐら、がうらぁ、がうらぁ、がらうぁああ!!』
ブラックベアーはほぼ崩壊しきったドリミア教会の土地で、頭を抱えるようにして苦しんでいた。
「なに……、いったいどうしたって言うの」
「ひっぐ、ひっぐ……。マザー、マザー、ぅぅ、マザー~~~~!」
『ぐらああああああああああああ!!』
「レイニーの声に反応してる……」
――ベスパ、声の方はどう?
「はい、結構はっきりしてきました。『聴覚共有』を使いますか?」
――お願い。
「了解しました『聴覚共有』」
(はぁ、はぁ、はぁ。グぅ……、れい、にー。ど、どこに、いる、のぉ……)
――マザーの声だ。やっぱり、あの中にマザーがいる。意志疎通が出来れば……。ベスパ、レイニーの声じゃなくて私の声をブラックベアーに聞かせて。
「了解です」
私は教会にいるブラックベアーに向って叫ぶ。
「マザー!! 以前お会いしたキララ・マンダリニアです!! 私の声が聞こえますか!!」
(き、ら、ら……さん。うっ……。わ、私……。い、いったい……)
「マザー!! その場でとまっていてください!! 絶対に助けますから!!」
(き、キララさん……。その必要は、ないわ……)
「え……。ど、どうしてですか?」
(私が……、この状況を……臨んだ、から、よ……)
「うそ……。マザー、何で今そんな嘘をつくんですか!! マザーがこんなひどいことするわけないじゃないですか!!」
(キララ……さん、レイニーは無事?)
「はい、無事です。マザーの帰りをずっと待ってるんです! 絶対に助けますからそこから動かないでください!」
(そう……。よかった……。キララさん、私は……このまま、王都に向うわ……)
「え……王都。何でですか! 王都に行ったらそれこそ多くの人が危険な目に合ってしまいます!!」
(このまま、この悪魔のような姿で……。悪魔ども殺しに行く……。それが、今の私にできる、最後のあがき……)
「ちょ!! マザー!! 何言っているんですか!! 本当に訳が分かりません!! ちゃんと説明してください!!」
(ごめんなさい、キララさん……。そんなに、時間が、ない……みたいなの。魔石の浸食が……、思ったよりも、はや、い……。急がないと、本物の、化け物に……)
ブラックベアーは少し動き、王都のある方角を向いた。
「く! レクー、レイニーをここに置いて、王都までつながっている入口に向うよ!」
「は、はい!」
「き、キララちゃん、何言っているの?」
「ロミアさん達も、王都までつながっている入口まで走ってください。あのブラックベアーは王都に行って何かをする気みたいなんです!」
「なに! 王都に向う! この街を破壊するんじゃなかったのか!」
トーチさんは私を責め立てる。
「意識が別の人格になって、ブラックベアーの目的が変わりました。さっきまでとは別の生き物です。あのブラックベアーを止めないと、何をしでかすか分かりません。急いでください!」
「わ、分かった。すぐに向かう。皆、走ろう。あのブラックベアーの脚力じゃすぐに王都までついてしまう」
「了解!」×ロミア、マイア、フレイ。
女騎士四人は王都に繋がる道の入口に向って走って行った。
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