無意識に動くなんて普通あり得ない
「午後四時まで、残り1分……。もう、4分も経ってたんだ」
――ディア、冒険者さん達の救出はあとどれくらい。
「もう、終わります!! 安全な場所が分からないので、冒険者の皆さんをリーズさんの病院にとりあえず運びました!!」
――うん、それでいいと思う。ここから遠いし、リーズさんが冒険者の方を回復させてくれれば、一番安全な場所になる。ベスパの方はどう、魔力の消費は大丈夫?
「はい、私は発光しているだけなのでそこまで魔力を消費していません。ただ、ブラックベアーの声が聞こえなくなりました。意識が何かに飲み込まれたみたいです。領主の声もしません。どうやら私達の考えていた作戦ではブラックベアーを倒せない可能性が出てきました」
――ブラックベアーを操作しているはずの領主が気絶しているのに、ブラックベアーが動き続けているってことか。いったいどうしてなの?
「分かりません。考えられるのはブラックベアーを操作している別の人物が裏にいるのかもしれないです」
――裏って、領主の口から聞こえてきたおじさん声の人?
「その可能性もあります。ですが、逃げると言っていましたのでかかわりを持ちたくないと考えます。そうなると、他の人物がどこかに隠れているのかもしれません」
――ここに来て、そんな人物を見つけないといけないなんて……。いったい誰がこんなことを……。
私は考えた。
この街を壊したいと思うような人物が領主以外に誰がいるのか。
「あれ……、いるかも知れない」
私は頭の中に一人の人物が浮かんだ。
だが、その人がするとは思えない。
――でも、ドリミア教会との接点がある。そうなると領主とも知り合いのはず。街が壊れれば良いと思っているかは分からないけど、何でブラックベアーが教会に向っていたのかはつじつまが合う。
「キララ様、そんな人物を知っているのですか?」
――うん……。でも私は信じたくない。
私は考えを改めようと思っても、その人のことを考えるとどうもつじつまが合う。
「キララ女王様、冒険者の移動が完了しました!!」
ディアは私の足もとに駆け寄り、報告してきた。
「お疲れさま」
それと同時に、今、一番会いたくない人物が戻ってきた。
「おーい、キララ! 戻ってきたぞ!」
「レイニー……」
レイニーとレクーは私のもとに駆け付ける。
「うわぁ、ありゃやっべぇな。キララ、何でこんなところで突っ立ってるんだよ。さっさと逃げないと、殺されるぞ」
「うん……。レイニー、ドリミア教会の中にマザーはいた?」
「いや……。いなかった」
レイニーは俯き、悲しそうな顔をする。
「やっぱり……」
「おい、何で分かるんだよ。そんなこと」
「だって、マザーを見つけたから……」
「マザーを見つけた? それなら早く教えろよ、マザーはどこにいるんだ」
私は恐る恐る指を向けた。
「あそこ……」
私は巨大なブラックベアーを指さす。
「は……。嘘だろ。何でそうなるんだよ?」
レイニーは口をぽかんと開けて理解できずにいた。
「ただの推測だし、確証はない。でも、その可能性は高い」
「ちょ、マザーは人間だぞ。ブラックベアーなんかじゃじゃない。どうしちまったんだキララ、そんなこと言うなんて……、お前おかしいぞ」
「うん、私もそう思う。でも、あそこにマザーがいる可能性が高い。今、マザーはこの街のどこにもいないんだから」
「た、確かに俺は大体調べつくした。だけど、すれ違ってる場合だってあるだろ!」
「ううん、さっきも言ったけど私もこの街の中を一気に調べたの。その時、マザーは見つけられなかった。最後にいるはずだと思っていたドリミア教会の中にもいない。つまり、マザーは街の外にいるか、まだこの街の中にいるのか。それを考えた時、マザーが街を出ていく理由がない。どうしても出ていかなければならないんだったら、レイニー達に街の外に出ていくと素直に伝えるはずだよ」
「そうだけど……」
「ねぇ、レイニーよく思い出してみて。マザーがいなくなる前、子供達が何か言ってなかった? どこかに行ってくるとか」
「ちょ、ちょっと待てよ……。ある、あった、そんな日があった。確か七日前くらいの雨の日……、子供達からマザーがどこかに行くというのを聞いた。その日からマザーは帰ってこなかった。子供たちが言うにはマザーはすぐに帰って来るって言ってた。だが……」
「すぐに帰ってくるはずだったのに、帰ってこれなくなった理由がある。それが多分、あれ……」
私はブラックベアーに指を再度さす。
「マザーが帰ってこないのと、なんでブラックベアーに繋がるんだよ。おかしいだろ……」
「あのブラックベアーは領主が操っていた。でも、領主は洗脳されていて自分の意識じゃなく、ドリミア教会の人が領主を操っていたの」
「そうだとして……。何なんだ?」
「私はドリミア教会の人とマザーが話しをしている場面を見た。その時は確か七日ほど前、レイニーの言っている日時と近いからきっと同じ場面だと思う。つまり、マザーは何らかの形でドリミア教会の人と繋がっていた」
「あぁ、教会同士で、昔いざこざもあったから繋がりは、確かに無くはない……。だが、マザーは何年も前に手を切ったって、関わりはもうないって言っていたぞ」
「マザーにとってはそうだったのかも。でも、ドリミア教会は使える人はとことん使う主義らしい。マザーがどんな力を持っているのか知らないけど、その力が必要になったんだよ。だから、マザーに接触した」
「それで……」
「七日前に私の聞いた内容によると、マザーは脅されてドリミア教会についていった。その後は分からない。でも、今、教会内にはいなかった。街のどこにもいない。私はさっき、ドリミア教会の神父と声が酷似している人と話した。その人はもう、この街から逃げているらしいんだけど、その人のもとにマザーがいるのなら、あのブラックベアーにマザーはいない。でも、もし街にマザーが出ていないのなら、あそこにマザーがいる。だから仮定なの」
「じゃ、じゃぁ、どうなるんだよ。あそこにマザーがいるいないで何が変わるんだ?」
「今、あのブラックベアーの中には元から意識が二つあった」
「い、意識?」
「そう、意識。ブラックベアー本来の意識と領主の意識。私には声が聞こえるの。だからこの情報は確かだよ」
「キララが動物の声が聞こえるのは何となく分かる。それは信じれる……。だから何なんだ?」
「今、あのブラックベアーに意識がない。声が聞こえないの」
「え、意識が無いのに動いているのか……」
「そう、意識が無いのに動けるのは普通おかしい。でも、操作されているとしたら意識が無くても動ける。もちろん、意識がないふりをしているのかもしれない。ただ、洗脳されていた領主と魔物であるブラックベアーが意識のないふり何て出来る訳がない」
「つ、つまり……。あのブラックベアーは他の誰かに動かされている。しかも、洗脳とか言う訳の分からない状態じゃなく、素面の状態でか……」
「うん。私はそう考えた。そこで行きつくのが、誰が操っているのか。あんなにでかい魔物を動かすには相当な魔力がいるはず。それなのに、この街のどこからも、そんな魔力を感じないの」
――ベスパ、感じないよね。
「はい、感じません。これだけの巨体を動かすにはキララ様と同等かそれ以上の魔力量が必要です。それにも拘わらず、この街のどこからも膨大な魔力を感じません。街の外から操作している者がいると考えると、さすがに規格外すぎて現実味が全くありません」
――だよね。
「おい、キララ。要するにお前は、マザーがあのでっかいブラックベアーの中で、あいつを操っているって言いたいのか!」
「そうだよ……、レイニー」
「く……、そ、そんな訳ないだろ!!」
レイニーはレクーから降りて私の胸ぐらを掴む。
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