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雲に穴を開けるほどの咆哮

 ベスパの光が瞬く間に強くなっていく。


 それと同時に私の中の魔力が無くなっていくのを感じた。


 私の方も魔力を全力で練り込んでいる。


 私は強力な『ファイア』をベスパに撃ち込まなければならない。


 もう、5秒もない。


 この間に私は出来るだけ魔力を練りまくった。


――右手の人差し指に集まっている魔力の輝きは中途半端。でも、やるしかない!


 ブラットディア達は地面に倒れている冒険者さん達を守るように覆っていた。


 あとはベスパを爆発させてブラックベアーとブラックベアーもどきを離れさせる。


「『転移魔法陣』を……、展開」


 私は魔力の使い過ぎで膝立ちになったのち、どさっと倒れて寝たきりになっている。


 だが、視線だけはベスパに合わせるようにして指先を前に持ってきた。


 指先は震えている。


 この時、私は恐怖と疲労が合わさった最悪の気分を得ていた。


――お願い……。せめて、3分……時間をちょうだい。


「『ファイア』『ゼロ距離爆発』 爆ぜろ……。化け物が……」


展開していた『転移魔法陣』の前に『ファイア』の魔法陣が出現し、私は指先から練った魔力を押し出す。


『ファイア』の魔法陣を魔力が通過すると真っ赤に燃える炎が出現し『転移魔法陣』に入っていく。


その0.1秒後。


『ボッガアアアアン!!』


「く……」


 数百メートル離れている私のもとまで強烈な爆風が押し寄せてきた。


 ベスパのいた位置からは黒煙が立ち昇り、状況が見えない。


「ど、どうなったの……」


「キララ様。成功です! ブラックベアーもどきの全身破損、巨大ブラックベアーの頭部は破壊されました!」


「冒険者の方も無事です!! 数匹のブラットディアが吹き飛ばされましたが、支障はありません!!」


 ベスパとディアからの連絡を受けて、私は少し上げていた右手を地面に力なく落とす。


「これで何とか、時間を稼げたはず…………。え?」


『グラアアアアアアア!!』


『………………』


 私は閉じかけていた眼を見開いた。


 ベスパが言うには巨大なブラックベアーの頭部を確かに破壊したと言っていたのに、再生速度が他のブラックベアーもどきの比ではなくなっていた。


「やられました! キララ様! 奴は、頭部の回復だけに集中させたみたいです。全魔力が頭部に集中しているのが見えました」


「そ、そんな……」


 ブラックベアーもどきは全身が爆発によって飛び散り、吹き飛ばされた肉片が焼け焦げている。


 ただ魔石の部分だけが黒い触手に覆われ、淡く輝いていた。


「く……。魔力が、無いから……、動けない……」


 私の魔力が無いせいでベスパとディアはとんでもなく小さくなっている。


 この状態ではあのブラックベアーは倒せない。


 他のビーやブラットディア達も魔力が無い私の話は聞いてくれない。


 たとえ、命令を聞いてくれたとしても統率の取れない状態では力不足だ……。


 巨大なブラックベアーはのそのそと歩き、魔石に近寄っていく。


 人と飴玉ほどの大きさの違いがあり、ブラックベアーは大口を開けて地面ごと……、魔石を食べた。


『ガブッ!!』


「そんな……」


『ボゴ、ボゴ、ボゴ、ボゴボゴボゴ……』


 ブラックベアーが魔石を食べた瞬間、体が膨らみ始め大量の凹凸が生まれている。


 その様態はブラックベアーの形を保てていない。


 どんどん大きさは増していき、瘴気に取りつかれたブラックベアー並み、いや、それ以上の巨体になった。


『グラアアアアアアア!!!!』


 超巨大なブラックベアーが天に向かって咆哮を放った。


 曇っていた空がブラックベアーの頭上だけ穴が開き、光が差しこむ。


――嘘……、空に浮かぶ雲にまでとどく咆哮を放つなんて……。あんな威力の咆哮を地面に向って放たれたら、足下にいる皆が……死んじゃう。ベスパ、ディア……、冒険者を早く移動させて。


「む、無理です。私の今の魔力量では、助けられても5人程度。あの場にいるのは100人を超えているのでとても……」


 小豆ほどの大きさになってしまったベスパは心まで小さくなっていた。


――ベスパにしては珍しく弱気だね……。情けない。


 私も全く動けない状態なので弱音を吐きたくて仕方がない。


 だが、ベスパと同じ言葉を呟くのは癪だったので、煽る。


「ですが、この状況はあまりにも不利です。私達はキララ様の命が最優先なのでどんな命令でも、キララ様の命に係わる命令は聞けません」


――そう……。なら仕方ない……。でも、この状況下で最善手を打たないと……、冒険者だけじゃなくて、街の皆までもがあいつに殺される。


 私は眼を凝らして、現状の打開策を探す。


――こういう時の為に養ってきた観察眼を、今、使わないでいつ使うの。

 

「あ……。あ……」


 私の視界に映ったのは恐怖する緑髪の少女だった。


――確か、あの人はノルドさんと一緒にいた回復魔法が得意なメルさんだよな。まだ意識があるんだ。推測するにブラットディア達が体を守っていたけど、ブラックベアーの咆哮の余波で吹き飛ばされて気が付いたのかな。


 メルさんは頭を上げ、目の前に映っている巨大な化け物を見ているにも拘わらず悲鳴すら出せずに震えていた。


――まだ間に合う……。ベスパ、メルさんを私のもとに連れてきて。私の体を少しでも回復させてもらって皆を逃がす。


「了解!!」


『グラアアアアアアア!!!!』


ブラックベアーは天に向って咆哮を再度放った。


「あぁ……、あぁ……、ノルド様……」


 メルさんは涙を流し、どうしようもない状況に絶望しかけている。


その姿は瘴気のブラックベアーと対峙した時の私に似ていた。


「え、う、うわーーーーーー!!」


 ベスパと動けるビー達がメルさんの体を持ち上げ、私のもとまで運んできた。


「い、いったい何が起こって……」


「メルさん。こんな格好ですみません。今すぐに私を全力で回復させてください」


「え、こ、子供……。でも、この可愛らしい顔、見た覚えがあるような……」


 メルさんは状況が理解できず、困惑していた。


「早くしてください。時間がありません!」


「で、でも……、今の私には魔力がもう殆どなくて……」


「最後の力を振り絞って私を回復させてください。このままだと、全滅します!! ノルドさんもまだ助けられますから、速く!!」


――ここにいる人達を全員助けられる保証ない。でも、今ここで何もしなかったら確実に終わる。あの大きさの化け物が街を暴れ回ったら、いったい何人の被害者が出るか分からない。あの冒険者さん達を失ったら負けるのは確実だ。騎士団でもあのブラックベアーに対抗できるだけの体力は残ってない。なら、守るしかない。


「わ、分かりました。ノルド様を守れるのなら……、やってみます!」


 メルさんは私の体に触れる。


「『ハイヒーリング』」


 メルさんは詠唱し『回復魔法』を使った。


 私の体を緑色の光が包む。


 魔力は回復していないが体の傷や体力は回復していった。


 すると、私の体に魔力が溢れてくる。


――体力のない状態じゃ、魔力を生み出すのも遅くなるよね……。なら、体力を回復すれば、魔力の回復速度も上がるはず。そう思っていたけど、当たっていたみたい。大博打だったけど、私はやっぱりついている。


 メルさんが私の体力を回復する速度と私が体の中で魔力を生み出す速度はほぼ同じだった。


 メルさんが私を回復させればさせるほど、私の魔力も増えていく。


――この状態なら、体力がまた尽きるまで魔力を使える。ベスパ、ディア。 動ける?


「はい! キララ様。私達にも魔力が戻ってきました」


「キララ女王様、私もです。今なら、5分で冒険者を移動させられます!!」


 私はベスパとディアを見ると、ほぼ元の大きさになっていた。


――ディアは今すぐ冒険者達の避難をお願い。私とベスパはディアたちが冒険者達を避難させる時間を稼ぐよ!


「了解!!」


「分かりました!!」


 ディアは私のもとから光の筋が見えるほど地面を速く移動し、冒険者さん達のもとに向っていった。


 周りから無数のブラットディア達も集まってきており、魔力の消費が激しい。


 体力の回復と魔力の消費によって頭がおかしくなりそうな程痛いが、死なない痛みなら耐えられる。


――まだ、負けてない。


 私はぐらつく頭を手で支えながら、その場に立ち上がる。

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― 新着の感想 ―
ブラックベアーもどきの存在忘れるとかあり得ないミスで大ピンチじゃん。 もっと言えばリーズさんの説教を長々と大人しく聞いてたのがそもそも悠長すぎだよね。20分早く教会に着いてたらこの事態は避けれたのに。
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