ブラックベアーの強化を阻止するか、冒険者の命を守るか
私がベスパに命令すると、ほんの1~2分で補強用の柱が立てられていた。
柱の色は真っ白ではなく茶色っぽい木の色だ。その為、ベスパ達が作った柱だとすぐに分かる。
女騎士達は運びやすいように大きな腕を切断しようとしていた。
――ベスパ、あの腕を持ち上げられる?
「ご命令とあらば」
――じゃあ、持ち上げて邪魔にならない所に運んで。
「了解!」
ベスパは大きな腕に飛んでいき、通常のビーよりも大きめの個体が集まっていった。
ベスパは各ビーに魔力を渡していく。
そのまま数十匹のビーだけで、大きな腕を持ち上げてしまった。
「キララちゃん! こんなに大きな物も持ち上げられるの! すっごーい!」
ロミアさんは私のスキルが『浮遊』だと思い込んでいるらしく、興奮していた。
「な、なんか、できました……」
ベスパ達が腕を持ち上げたころ、ディアからの連絡が来た。
「キララ女王様。騎士達が人質を連れて教会の建物から出ます。外の状態はよろしいでしょうか?」
――うん、問題ないよ。でもどうしてディアが騎士達と行動しているの?
「ドリミア教会の建物内が迷路のように複雑でしたので、私達が騎士達を追いかけています。間違った道を大数のブラットディア達で塞ぎ、出口まで一直線の経路を形成したんです」
――へぇ、やるじゃん。と言うか、なんかディア喋り方変わったよね。頭悪そうな喋り方してたのに。あ、もしかして今、飛んでる?
「はい、確かに飛んでいます。地面を走るとすぐに追いついてしまうので、飛ぶ方が効率的でした。加えて、飛んで人を襲ったほうが恐怖を与えられるようです」
――あぁ……、ほどほどにしてあげてね。暗闇の中を大数のブラットディアに襲われるとかトラウマになるから。
「一定距離は保っていますのでご心配なく」
――そうなんだ。それなら騎士達を早く連れてきて。もう時間が無さそうだから。
「分かりました」
賢いディアからの連絡が途絶えた。
「ん……。ちょっと待て……。私、何か忘れてる気がする……」
私はとっても大切なことが頭の片隅から消えていることに気が付いた。
「どうしました、キララ様?」
――いや、なんかやり残してた気がするんだよ。
「やり残し? あ、もしかして……、あれですかね」
「え?」
ベスパは短い腕を使い、私に方向をおしえる。
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーもどきが巨大なブラックベアーのもとに向い、走っていた。
「ああああああ!! そうだ!! まだ、残りの1頭を倒してない!!」
私達が倒そうとした時に、巨大な腕が飛んできたせいで危険物の対象が移り変わってしまい、頭の片隅からこぼれてしまっていた。
ブラックベアーもどきと、私達の距離は100メートル以上離れている。
今から急いで攻撃すれば間に合うかもしれない。
だが……、私達よりもすぐ近くに親元がいた。
『グラアアアアアアア』
ブラックベアーもどきは巨大なブラックベアーに咆哮を放つ。
「な、何だ! トラ、何が近づいてきているんだ!」
「ニャー! あれはヤバいのにゃ、絶対に近づかせたらダメなのにゃ!」
シグマさんとトラスさんは巨大なブラックベアーの体を何度も殴りつけ、その場に止めていた。
だが、ブラックベアーもどきが咆哮を放つと巨大なブラックベアーも周りの壁が震えるほどの大きな咆哮を放つ。
二頭の咆哮が共鳴すると、辺り一帯の壁を吹き飛ばすほどの衝撃波を生みだした。
『グラアアアアアアア!!』『グラアアアアアアア!!』
「くっ! み、耳が……」
「音が、聞こえないにゃ……」
ブラックベアーの間近にいたシグマさんとトラスさんは真面に咆哮をくらい、体勢を崩す。
咆哮の共鳴によって巨大な振動波が生み出され、それが耳に直接入ってしまった冒険者達は三半規管がやられ、真面に立っていられない。
けっこうな距離が離れている私でさえ、酷い耳鳴りがきーーーーんと響いている。
頭痛に似た頭の重みがのしかかってきて眼を開けているのも辛い。
――あんなに近くで咆哮を受けたら、冒険者達はさすがに立っていられない。ベスパ、ブラックベアーもどきのもとに急いで!
「了解!」
元Sランク冒険者のシグマさんとトラスさんの抑止力がなくなったせいで、巨大なブラックベアーはすぐに立ち上がり、ブラックベアーもどきのもとに向う。
『グラアアアアアアア!!』
ベスパと巨大なブラックベアーの速度はベスパの方が圧倒的に速い。
だが、二頭のブラックベアーの距離が元々近かった。
その為、ブラックベアーもどきだけを倒すのは私が魔力を練る時間が無いため不可能だった。
「キララ様! このままだと、魔石が食われます! 威力最大で両方を吹き飛ばさないとあの巨大なブラックベアーは止められません!」
――でも、二頭の周りには沢山の冒険者さん達がいるんだよ! 爆発で吹き飛ばすなんて出来ない!
「ですが、このままだと、巨大なブラックベアーは魔石を食し、今以上に強くなります! 魔石を二個食べただけで大勢の冒険者さん達がいても、太刀打ちできないのですから、三個目を食べてしまったらそれこそ、この街が無くなってしまうかもしれませんよ!」
――く……。でも……。
私の視界には地面に倒れ込んでいる冒険者さん達の姿があり、ブラックベアーもどきと巨大なブラックベアーの間に光るベスパの姿も捉えていた。
私はどっちを取ればいいのか分からなかった。
今ここで冒険者の人たちを失ってしまっては、それこそブラックベアーを倒せないのではないかと。
だが、魔石を三個食べたブラックベアーがどれだけの強さになってしまうのか分からないと言う、不安が募る。
私の頭は最大火力でブラックベアーを吹き飛ばせと言っている。
だが、心は冒険者を助けろと言っている。
頭と心が反発し合い、結果を出すのが遅くなる。
たった一秒でも判断が遅れれば取り返しのつかない事態になってしまうのだ。
――どうしたらいいの……。
私が悩んでいた時。
「キララ女王様、ただいま戻りました。状況を察するに、私達の力が必要みたいですね」
空中を漂うディアが私の目の前にいる。
ディアに加えて……。
「キララ! 地下水路までの道を確保してきた! 今から、騎士団の人たちと人質を連れていく!」
地下水路までの道を確認していたレイニーとレクーも戻ってきた。
「キララちゃん! 人質は皆無事だったよ! 今から、私達は人質の皆を地下水路に連れていくから! その後すぐ戻ってくる!」
私はロミアさんから人質が無事に救出できたと知らされる。
この時、私は思った『どっちかじゃない。どっちも救わなければならない』と。
――ディア! 今すぐ、地面に倒れている冒険者さん達をブラットディア達で覆って!
「了解です!!」
ディアは地面に降り立ち、バカっぽい大声になった。
だが、やる気は十分。
すでに、周りの影が蠢いているのを見ると相当の数がこの場に集まってきていると分かった。
――ベスパは最大火力で爆ぜて!!
「了解!!」
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