バートンと冒険者(三人称)
冒険者はバートンを甘く見ていた。
「え!私の初任務がバートンの討伐ですか? そんな簡単なことを私に任せるなんて……無能なギルドですね。お父様に言いつけてもいいんですけど」
冒険者は受付嬢を見下し、威圧する。
「大変申し訳ございません。ただいま多くの冒険者が出払っており、今すぐ向かうことが出来る冒険者がチャーチル様しかいないのです」
「そうか……私が最後の砦と言うわけか。それを早く言いたまえ。最後の砦である私が向かおうじゃないか。任せておきたまえ、バートンごとき私の剣にかかれば、一瞬で一刀両断することが出来る!」
チャーチルは腰に掛けている剣を引き抜き、高く掲げる。
鞘部分に多くの宝石が埋め込まれており、ギルドを照らす明かりでギラギラに輝いている。剣身は銀色に輝き、眩しい輝きを放っていた。
「素晴らしい剣です、まるで勇者のようですよ!」
チャーチルを褒める受付嬢の顔は全く笑っていない。
「当然だ、私は勇者になる男なのだから。世の中も腐っているな……。私を勇者と奉ればいいものを、ただの少年を敬うなんて……。この依頼を華麗にこなし、私の名を国中に知らしめる第一歩にしようじゃないか!」
そしてチャーチルは意気揚々と村にやってきたのだが……今、死にかけている。
「待て待てって!」
チャーチルは鼻水をたらし、涙で視界が見えなくなる。
冒険者とは思えないほどの情けない声をさらし、腰が抜けてその場から全く動けないでいた。
「冒険者様! 早くお逃げください! その場にいたらひき殺されてしまいます!」
村長が大声を上げるが、チャーチルに聞こえない。もはやそれどころではないのだ。
「ブルルル……。ブルルルルルルルッツ!」
(何だ、この人間……。私を油断させているのか? ――なめるな! そんな簡単に罠にはまると思うなよ!)
黒いバートンは更に速度を上げ、すぐそこまで迫っていた。
「があぁぁぁぁああああーー!」
チャーチルは恐怖のあまり、その場で気絶する。だが、黒いバートンは止まるそぶりを見せない。
バートンは戦場で油断することこそ、最大の敵だと学んでいたからだ。多くの村人が目を背ける中、バートンにのみ聞こえる声が響く。
「止まってください! その人を殺してはなりません!」
バートンはその声を聴き、チャーチルの目の前で地面を強く蹴り、跳躍する。
数十メートル先に着地するすると声の主を目で探すために首を動かす。
「誰だ! 私の邪魔をしたのは」
バートンが声を上げると空中から真っ黒の球体が降ってくる。見かけは超大きな砲弾。戦場でも見た覚えが無いほどの大きさで、鉄球の比ではなかった。
バートンが身構えていると球体が崩れさり中から少女が現れる。目を見張るほど美しく、子供とは思えないほどの魔力を感じた。だが、気を失っているのか起き上がる素振りは見せない。
球体をつくっていた黒い物体は一瞬にして四方八方に飛び去った。突風が吹けば埃が舞うように散り散りになるほど弱いビーが大量に集まっている状況はバートンにとって異常だった。
「ブルルル……」
(少女……それにビーが一匹。どういうことだ……)
バートンは困惑する、戦場でもこのような光景は見た覚えが無かったからだ。
「ブルルルル……」
(この者たちが敵ならば、潰す……)
「すみません、あなたが姉さんですか?」
ベスパはキララの代わりに声を掛ける。
「ブルルルッ」
(その呼び方をするのは、舎弟たちだけだがどういうことだ? 舎弟たちに何かしたのか!)
黒いバートンは草食動物とは思えない気迫を放ち、ベスパは動揺する。
「い、いえ……私はただ、あなたを探しに来たのですよ。この呼び方は、あなたがいた厩舎にいるバートンの皆さんに聞いたんです」
「ブルルルッツ!」
(それをどう証明する……。私はきさまなど見た覚えがないぞ。そこの少女もな!)
黒いバートンは話しを疑う。相手を簡単に信用して死んでいった仲間を見ていたからだ。
「証明しろと言われましても……。舎弟さんたちを連れてきましょうか?」
「ブルルルルッツ!」
(それじゃぁ遅い、すぐに説明できないのなら、私はきさまらを信用しない!)
「そんなことを言われましても……」
ベスパは空中で八の字に飛び回るが、何も思い浮かばない。キララが眠っている分、自分の頭も働かなかった。
「ブルルルルッ!」
(もういい、それならば私を倒してみろ。バートンは強者に従う動物だ。きさまが私よりも強いことを証明すればきさまを信用しよう!)
「そ、そそそんな!」
ベスパは両手と両足をブンブン振り、慌てた。
「ブルルッツ!」
(行くぞ!)
黒いバートンはその場で先ほどよりも高く跳躍し、ベスパ目掛けて降ってくる。
少女に当たらないようギリギリの所を踏みつけるが、ベスパにも当たらなかった
ベスパは逃げる。逃げる。逃げる。その小さな体で出せる限界の速度でただひたすら逃げる。
試しに針で刺してみようと考えたが、黒いバートンの体は鋼その物……。鋼のように硬い筋肉の塊に針が刺さるわけが無いと思いやめた。
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