十頭のブラックベアーもどき 対 四人の女騎士
「キララちゃん。キララちゃん。おーい!」
「え……。あ、ごめんなさい。自分の世界に入っていました」
私はロミアさんに肩を揺すられ、現実に戻ってきた。
「それで、キララちゃん。私達はどうしたらあのブラックベアーもどきを倒せるんだ」
トーチさんは私の前にでかでかと立ち、威圧的に聞いてくる。
「そうです。早くしないと、あの巨大なブラックベアーがここに到着してしまいますよ」
マイアさんは巨大なブラックベアーの方に視線を向けながら焦っていた。
「何でもやるから、早く倒し方を教えなさい」
フレイさんは尋常じゃないほどの汗を掻き、私の隣に立っている。
どうやら私がベスパと話している間に、ロミアさん、トーチさん、マイアさん、フレイさんの四名が集まっていたようだ。
女騎士達は私を取り囲むように立っている。
――魔力の光が眩しい。周りが見えないよ……。
「えっとですね。ロミアさんには言ったんですけど、ブラックベアーもどきの魔石を露出させてください。でも、条件として魔石に傷を絶対に着けないでくださいね。たとえ大きな魔石を消したとしても、小麦一粒の欠片で全体が再生してしまいますから」
「ちょ、一発目から難しいわね。あいつらただでさえ強いのに魔石を傷つけずに露出させるなんて……。そんなこと可能なの?」
「フレイ、確かに難しいが私達がやらなければならないんだ。他の騎士たちは体力を使い果たしている。教官も先陣を切って悔しくも負傷した。残っているのは私達だけなんだ。うだうだ言っている暇はない」
トーチさんは既にやる気だ。
今までの結果が不甲斐ないと思っているのか、いち早く終わらせようと燃えている。
「でも、トーチさんの武器は槍ですよね。魔石を露出させるには不向きなんじゃないですか?」
「問題ない。私のスキルで何とかなる」
トーチさんは槍の尻を地面にたたきつけると、先端の尖った大きな円錐が変形し薙刀のような湾曲した剣身になった。
「これが私のスキル『部位変成』。武器の一部を好きな形に出来るスキルだ」
「なるほど……。応用が利く、いいスキルですね」
「まぁな。だが、いつもと使い勝手が変わるから練習が大変なんだ。自分は強くならないから、武器に使い慣れていないと最大の効果を発揮しないスキルだよ」
「確かにそうですね」
『グラアアアアアアア!!』
『グラアアアアアアア!!』×ブラックベアーもどき達
「ぐっ!」
近くまで来ている巨大なブラックベアーが咆哮を放つと、ドリミア教会を守っているブラックベアーもどき達も咆哮を放った。
「どうやら時間がないみたいなので、これ以上の説明は省きます」
「え、まだ魔石を露出させるところまでしか聞いていませんよ」
マイアさんが私に聞いてくる。
「魔石さえ露出してもらえば、あとは私が何とかします」
「でも……」
「マイア、キララちゃんを信じよう。はっきり言ってあの化け物がここに到着したら一巻の終わりだよ」
ロミアさんは意思を決めた顔をマイアさんに向ける。
「そうですね。私達だけじゃブラックベアーもどきは倒せません。まず、私達の目的は人質の保護ですから。それを遂行するためには手段を選んでいられませんよね。キララちゃん、私達が何とかして魔石を露出させますから。その後はよろしくお願いします!」
マイアさんもロミアさんの顔を見て意思を固めたのか、私にお辞儀してお願いしてきた。
「はい、任せてください。私が何としてでも皆さんの突破口を開きますから。騎士団の皆さんはブラックベアーもどきの数が減った時に、入口に突っ込んでください!」
「ちょっと待て……。そんな強引に事を運んだら人質が……」
私のもとにボロボロになった教官が他の騎士に支えられながらやってきた。
「大丈夫です。ドリミア教会の者は逃げました。残っているのは目の前のブラックベアーもどきだけだと思います」
「そうなのか……。なら、奴らさえ倒せば我々は潜入できるんだな」
「はい、問題ありません」
――だよね、ベスパ。見た感じ結界も消えてると思うんだけど。
「はい、その通りですね。いつの間にか結界が消えています。と言うよりかは弱まっていると言ったほうが正しいかもしれません。今なら魔法耐性のあるディアだけでも潜入できそうです」
――そうなんだ。それじゃあ、ディア。ドリミア教会の建物内に罠が張られていないか調べてきて。突入する騎士たちが被害にあわないよう、徹底的に調べつくしてきてよ。
「分かりました!!」
私はブローチに擬態しているディアを手で掴み、地面におろした。
「行ってきます!!」
――うん、よろしく。
私がディアを地面におろした瞬間、ディアは目の前にいるロミアさんの足もとを物凄い速度で通過し、ブラックベアーもどきのいるドリミア教会の前まで直進していった。
ブラックベアーもどきが反応する間もなくドリミア教会にディアは侵入する。
結界のような膜が一瞬反応したがディアは魔力を一瞬で食い破った。
――ほんとに走るのが速いね。
「ディアは虫の中で地上最速ですからね。時速350キロメートルは優に超えます。ディアの体はキララ様の魔力になりましたので、キララ様が強くなればなるほど速度も上がっていきますね。今のところ時速600キロメートルを超えるんじゃないでしょうか」
――速すぎ……。
「ま、私は全力を出せば秒速888メートルまで加速できますけどね」
――えっと、時速換算で……。時速3196キロメートル……。何それ速すぎない。
「マッハ2.5くらいですかね」
――もっとよく分からなくなった。虫を超越してるよベスパ……。
「私は既に虫や魔物ではないですからね。元からキララ様の魔力ですから、キララ様が強くなればなるほど私も強くなっていきます」
――そうなんだ。それじゃあ元から弱いベスパ達を強くするために私はもっと強くならないとだめだね。
「期待していますよ。キララ様」
私が強く成ればベスパ達も相互して強くなるのだとしたら、私は努力を続けなければならない。
このような危険な場所に身を投じて無理やり成長を促すのは寿命を縮めている気がしてならないが、強くなれるのなら仕方がない。
この世界では強くないと生きて行けないのだ。
「それでは皆さん、よろしくお願いします!」
「了解!」×四人の女騎士。
四人は初めに中央のブラックベアーもどき達に向っていった。
その場所が入口に一番近いため、中心の奴らさえ倒してしまえば男の騎士達がドリミア教会内に突入できる。
端はあとからでも何とかなるはずだ。
女騎士達は一人二頭ずつ受け持ち、端の二頭は根性で動き出した男性の騎士たちが抑え込んでいる。
ロミアさんとトーチさんが自分の受け持っているブラックベアーもどきに切りかかる。
「はああああ!」
「せいあ!」
『グラアアアアアアア』
『グラアアアアアアア』
ロミアさんの大斧はブラックベアーもどきの右腕を切断し、トーチさんの薙刀は別個体の右腕を切り落とす。
両者共に流れるような動きで、ブラックベアーもどきの体を切り裂いていった。
「凄い、冒険者さんでも5人がかりでやっていたのに、あの二人はたった一人でブラックベアーもどきを押してる」
二人の流れるような攻撃は止まらずブラックベアーもどきが何もできないまま、四肢を落とされ、首さえ切られた後、再生し始めている間に体を裂き魔石の位置を確認していた。
ブラックベアーもどきはほんの数秒で全て再生し、無傷に戻る。
「魔石の位置さえ分かれば、思いっきり叩きこめる」
ロミアさんの斧が光を放ち、ブラックベアーもどきの右肩から左わき腹まで一気に叩き切る。
すると、魔石の輝きが見えた。
だが、まだ少し見えただけで露出していない。
ブラックベアーもどきの体は地面にずり落ちて、焼けた鉄板に氷を落としたように一瞬で解ける。
「もう一発!」
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