マザーの行方
「マザーが教会に帰って来なくって、教会の子供達は俺が何とか面倒を見ていたんだ。だけど、こんな騒動になっていて、皆不安になってるんだよ」
「レイニーが子供達を安全な場所に避難させればいいんじゃないの?」
「子供たちはマザー以外の大人の言うことを聞きたがらない。俺が逃げようと言ってもマザーを待ち続けて教会から逃げようとしないんだ。もし教会に被害が出るような事件ならすぐにでもマザーを見つけないといけないと思った」
「それで、何で私のところに来たの?」
「誰か大人に事情を聞こうと思って外に出てきた。だが誰もいなくて、辺りを探し回っていたらバートンの気配を感じた。何とか先読みして来てみたらキララがいたんだ」
「なるほど……。そういうことね。それじゃあ、私が知っている事実を話すよ」
「ああ、頼む」
私は魔造ウトサやドリミア教会、ブラックベアーなど、今、街で起こっている騒動の話を包み隠さずレイニーに話した。
「何だ、そりゃ……。今、街で暴れてる巨大なブラックベアーは領主だって言うのか?」
「そう、あの中に領主がいるの。あのブラックベアーを倒さないとこの街に安全な場所はないと思うよ」
「そんな……。それじゃあ、マザーを今すぐに探さないといけないじゃないか」
「心当たりはあるの?」
「いや。長い間マザーと一緒にいるが、こんなに長い間、教会を開けた月は一度もなかった。キララは一回くらいしかあってないと思うけど、マザーが教会を長い間、開けるような人じゃないって分かるだろ」
「うん……。マザーはまさしく聖女って言葉が似あう聖人だと思う。そのマザーが子供達をほったらかして教会を開けるとは考えにくいね」
「そうだろ。だから、俺も街の中を手あたりしだいさがしたんだが、一向に見つからない。街の中は大体探した。入れない場所は見てないが入れる場所はほぼ探しつくした」
「それで、どこを見てないの?」
「ドリミア教会と領主邸、騎士団の基地は探してない」
――ベスパ、ビー達はもう使える?
「はい、キララ様の寝ている間に最低限の個体は確保しました」
――なら、領主邸と騎士団の基地中にマザーがいないかくまなく探して。
「了解」
ベスパは発光し、別のビーに命令を送る。
ほんの数秒後。
「キララ様。領主邸と騎士団の基地でマザーらしき人物は発見できませんでした」
「それじゃあ。必然的にドリミア教会にいる可能性が高くなったね」
私は不意に口に出してしまった。
「え……。何でそうなるんだよ?」
「あ、えっと……。調べてきたから」
「いつ?」
「数秒前……」
「?」
レイニーは私が何を言っているのかよく分かっていないみたいだった。
――まぁ、レイニーはバカっぽいから大丈夫か。ベスパ、街の中でマザーをもう一度探してくれる。それで見つからなかったら、街の外にいるか、ドリミア教会にいるかの二択になるから。
「了解です」
ベスパはまたしても発光し、ビー達に伝える。
「それにしても、キララ。何で子供のお前がこんな大事件について知ってるんだよ?」
「え? 何で今さら」
「いや、確かに今さらだけど、普通おかしいだろ。お前いろいろと知りすぎじゃね」
「そ、それは、仕事上の都合でいろんな人と関わるから、情報が集まってくるんだよ」
「まぁ、別にどうでもいいんだけどさ、そんな些細なこと」
「どうでもいいなら聞かないで。今、私はこの先をどうするか考えているんだから」
「ご、ごめん」
私達がドリミア教会にもうすぐで到着するといったところで、ベスパは戻ってきた。
「キララ様。街中をくまなく探しましたが見つかりませんでした。やはり、ドリミア教会の中にいるのが一番有力だと思います」
――分かった。ありがとう。
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーが大きな叫び声をあげる。
「くっ! まじであの声うるさいよな。鼓膜が破れそうだ!」
レイニーは耳を塞ぎながら叫んだ。
「目の前で聞いたら鼓膜がぱーんってなるよ」
「は?」
私は体験談を面白半分でつぶやいた。
レイニーはよく分かっていないみたいだけど。
「それにしても、やっぱり大きいな……」
ドリミア教会に近づいたせいで、巨大なブラックベアーが建物越しにも、でかでかと見える。
それと、ブラックベアーの顔面を殴りながら誰かが空中で叫んでいた。
「ぶっ倒れるのにゃ!」
『ドガッツ!!』
ブラックベアーは顔が拉げるほどの威力を受け、首が歪み、殴られた方向に横転した。
『グラアアアアアアア!!』
「トラスさん、もう戦闘に復帰してる。骨、大丈夫なのかな……」
「何だ、今の威力……。人間業じゃねえ」
――まぁ、トラスさんは獣人だから、人間ではないんだけど。確かにただ殴っただけでブラックベアーを横転させるのは凄い威力だ。さすがにシャインにも出来ないだろう。えっと、出来ないよね……。
トラスさんの攻撃力は空気が振動するほどすさまじかった。
だが、ブラックベアーの耐久力もすさまじく。
『グラアアアアアアア!!』
「くっ! なんだよ、あいつ! 顔面陥没するほど強烈な一撃を貰っても全然弱ってねえ!」
「あの、ブラックベアーはどれだけ攻撃されても再生するんだよ」
「は! まじかよ。あんなにデカいのに傷が再生するのか?」
「うん。頭をふっ飛ばしても死なないよ」
「そ、それは……もう、ブラックベアーじゃねえな……」
「ほんとだよね。あれはもう、ブラックベアーの形をした化け物なんだよ」
――すぐ目の前にドリミア教会っぽい建物があるのに、眼の横でとらえられるほどブラックベアーが目視できるところまで来てる。急がないと時間がない。人質をたとえ助け出せたとしても、比較的安全な場所に逃がす時間も必要なのに。
「キララ様、今のままだとあと20分足らずでブラックベアーがドリミア教会に到着します」
――20分。短いな。冒険者さん達は全力なんだよね?
「はい。ただ、あのブラックベアーは疲労を知らない様なので、どれだけ攻撃を与えても移動を止めません。足を切り裂いたとしてもすぐ再生し動き始めます」
――本当に厄介極まりない化け物になっちゃってるよ。最優先事項を決めないと何も助けられない。
「まずは、ドリミア教会にいる人質の避難が最優先ですね。ブラックベアーとの戦闘が教会付近で起こった場合、負傷者が出てしまうと思われます。
――そうだね。それで、人質を安全に保護するために何かいい案はある? 安全な場所とか教えてくれると非難させやすいんだけど。
「それなら、地下水路が安全かと思われます。水路に落ちさえしなければ、地上でブラックベアーが暴れても被害は最小限に抑えられると考えられます」
――なるほど、地下ね。確かにあんなデカい化け物がいる地上より地下の方が安全かも。でも、他の人も避難させるとなると大変じゃない?
「地上にいる人全員を地下に向わせることはできませんが、人質だけならば可能だと思われます。地上にいる人達はほぼ避難が完了しているみたいですし、キララ様が多少大きめに暴れても問題ないでしょう」
――そうなんだ。じゃあ、その作戦で行こう。
「おい、キララ! 何ボーっとしているんだ。これからどうするんだよ!」
「レイニー。今から、私達はドリミア教会に向う。そこで人質を助け出して地下水路に避難させる」
「そんなこと、子供のお前に出来るのかよ。こういう時こそ大人に任せておけばいいんじゃないのか?」
「そうなんだけど……。私にもできる仕事があるなら少しでも力になりたい。ただそれだけだよ」
「お前、凄い奴なんだな」
「私は凄くないよ」
「謙遜するなよ。こんな状況の中で10歳の少女が化け物に怖がらず、行動できるなんて、そんな奴は他にいないだろ」
「私だって怖いよ。何度も死にかけてブラックベアーがトラウマになってるんだから。今だって、こんなに手が震えているんだよ」
私は手綱から手を放し、レイニーに震えている状態を見せる。
すると、レイニーが手を握ってきた。
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