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長いお説教

「あっと、えっと、その……。発声練習を巨大なブラックベアーの前でしていたから……、ですかね」


 私は右手で頭を掻きながら苦笑いをしてリーズさんに伝える。


「私、今回の事件に首は突っ込まないようにって言いましたよね?」


 リーズさんの眼は超絶怒っていた。


「は、はい……。言っていました」


「今のキララちゃんは、事件に全身を突っ込んでいますよね?」


「えっと……。突破しているかもしれません」


『デシッ』


「痛ったぁ……」


「お仕置きです」


 リーズさんは私の額を中指で強く弾いてきた。


 いわゆるデコピン……。


 しかも結構本気でデコピンをされてしまい、頭が割れそうだ。


 私はあまりの痛さに両手を額に当てて血が出ていないか確認する。


 目尻から涙が溢れそうになるが、ぐっとこらえた。


「今回は大事に至らなかったのでよかったですけど、また今度同じような……」


『グラアアアアアアア!!』


 私がリーズさんのお説教を受けている時、ブラックベアーの咆哮が聞こえた。


『グラグラ……』


 ブラックベアーが咆哮を放つだけで地面が揺れる。


「リーズさん。私とお姉ちゃんはノルド様の所に戻ります。リーズさんはこの場で怪我人の手当てをお願いします」


 メルさんは大怪我を追っている者を治療し終えると、すぐさま立ち上がった。


「分かりました。気をつけてください」


「はい! お姉ちゃん! 『転移』をお願い」


「分かってる。『転移:ノルド様のもとへ』」


 緑髪の少女と赤髪の少女は手を握り、少し浮き上がったと思ったら光を放って消えた。


――あれが『転移』。瞬間移動ってやつか……。いいな、凄く便利そう。


「あの二人はノルド君のパーティーメンバーのメルとラル。赤髪の方がラルで双子の姉。緑髪の方がメルで双子の妹。ノルド君が冒険者の依頼先で保護した子達なんだ。ボロボロの二人を治療したのがこの私。あの頃よりも健康体になってよかったですよ、ほんと」


 リーズさんは親のような顔で二人を見送っていた。


「えっと、二人とも凄いスキルを持ってるんですね。『回復の加護』と『転移』って……」


「そうですね。正教会に無理やり連れて行かれそうになったところを『転移』で逃げ続けていたそうですよ。力尽きていたところにノルド君が現れたそうです。ノルド君が手厚く看病してくれたそうで、大層なついているんですよ」


「あぁ……。だから慕ってるんですね」


「そうみたいですね。ノルド君も負けじと実力を伸ばしてAランクに上り詰めましたから、いい相乗効果が生まれたんですよ」


「なるほど……。って! 無駄話している場合じゃないですよ。私達も、ブラックベアーの所に行きませんか!!」


『デシッ』


「痛っつ!」


 私はまたもやリーズさんからデコピンをもらってしまった。


 同じ個所をぶたれたので痛さは倍増。


 もう頭蓋骨にまでひびが入ったかと思うほど痛い。


「ダメに決まってるでしょう。鼓膜が破れている時点で何があったか想像できますよ。あの咆哮、真面に受けましたね?」


――な、何で分かったの。


「ひゅーー、ひゅーー」


『デシッ』


 私は苦手な口笛を吹いて誤魔化そうと試みるも、全てを見透かされ三度目のデコピンを食らった。


「正直にいなさい」


「はい……。ブラックベアーの咆哮を真面に食らって吹き飛ばされて壁に衝突したあげく、鼓膜破りました」


「はぁ……。何をしようとしていたかは知りませんがあの巨体にそこまで近づいていた時点で激怒しますよ、私はね」


「す、すみません」


――ベスパ……。リーズさんに『ハルシオン』を打って。眠らせている間に脱走しよう。


「ダメですよ、キララ様。私もキララ様の危険行為が少なく済むのならそれに越したことはないと考えていますので、しっかりとお説教を受けてください」


――な、なぜ……。私の命令なのに……。


「キララ様の泣きっ面……。拝むの久しぶりですからねー」


 ベスパは私が怒られている姿をブンブンと翅音を鳴らしながら、面白そうに笑っていた。


――ムカつく……。


「ん? ビーですか。『ファイア』」


「ぎゃーーっ!」


 ベスパは実体化したままだったので、私にはベスパに見えていたが周りの人からはビーに見えていたらしく、リーズさんの『ファイア』で燃えかすになった。


「ふっ、自業自得だよ……。ベスパ」


「何を言っているんですか、キララちゃん。まだお説教は終わっていませんよ」


「は、はい……」


 私は今すぐにでも冒険者や騎士の所に向いたいのだが、リーズさんが卒業式の校長先生並みに長い演説を繰り広げているため全く動けない。


 20分後……。


「いいですか、キララちゃん。このままこの街を出て、家に帰るんですよ。もう一度言います、このまま街を出て家まで帰るんですよ。分かりましたか?」


「は、はい……。もちろんですよ」


 私は長い間リーズさんの説教を受け終わり、レクーの背中にまたがって家に帰るところだ。


 視線を少し遠くに向ければ、ブラックベアーが移動しているのが見えるというのに……。


「そ、それじゃあ。リーズさん、気をつけてくださいね」


 私は真っ直ぐ正門に向う。


 病院が見えなくなったところでベスパを呼んだ。


「ベスパ、今の戦況は?」


「キララ様、お家に帰らないのですか?」


 ベスパは私の頭上から逆さまに降りてきた。


「私の性格、一番よく知ってるでしょ?」


「もちろん把握しておりますよ。いまのは、ちょっとしたお遊びです」


 ベスパは体勢を立て直し、通常の向きで飛び始める。


「あっそ。ベスパって時々面倒だよね。何でなんだろう……。まぁ、気にしても仕方ないか。それで、戦況はどうなの?」


「騎士たちは均衡を破れないみたいですね。冒険者達は劣勢です。火力はあるものの、足止めする方法が無いのが現状ですね」


「なるほど、私はどっちに行くべきだと思う? 私は騎士たちの方だと思うけど、ベスパの意見も聞いておくよ」


「そうですね。私も騎士たちのもとに向うべきだと思います。騎士たちのもとにキララ様が向かえば均衡を破れると考えられますから。均衡を破りしだい、人質の救助を行い、避難させたあと、巨大なブラックベアーの倒し方を吟味するべきかと」


「私と同じ考えだね。よし、ドリミア教会に向おう。リーズさんに怒られるのはもう嫌だけど、私だけ、のこのこ帰っていられない。レクー、ドリミア教会に向うよ。ベスパの先導についていって」


「分かりました!」


 私達は細い路地から大通りに飛び出して、全速力で駆ける。


☆☆☆☆


 私達はドリミア教会まで最短距離で向かっていた。そんな時。


「止まれ!!」


「うわっ!!」


 私達の進行を塞き止めるように細い路地から飛び出してきた少年が立ちふさがった。


 私はその子に見覚えがある。


「れ、レイニー。何してるの! いきなり出てきたら危ないじゃん!」


「キララ! 今、この街で何が起こってるのか、知っていることを俺に全部教えろ!」


 レイニーの剣幕はすさまじく私は驚いてしまった。


「今、レイニーに構っている暇はないの。だから、私は先を急ぐよ」


「ちょ!」


 レクーはレイニーの隣を抜ける。


「くっ!」


 レイニーはレクーのショルダーバッグを掴み、地面を引きずられていた。


「ちょ! レイニー危ないって。普通のバートンなら転倒してるよ!」


「教えてくれないと、このまま意地でも邪魔するぞ!」


――逆にレイニーが何でここまで知りたがるのか気になってきた。ベスパ、レイニーを私の後ろに運んで。


「了解」


「ちょ、うわ、何だ! 体が浮いてるぞ!」


「暴れないで、レクーの背中に乗せるだけだから」


 ベスパはレイニーを持ち上げ、私の後ろに座らせる。


「たく、最初からこうしておけよな」


「私に抱き着かないと落ちるよ」


「舐めるな。俺は何も持たなくても、バートンから落ちたりしない」


「あっそ……。ま、いいけどさ。それで、何で知りたいの?」


「数日前からマザーが帰ってこないんだ」


「え。そうなの?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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