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『ゼロ距離爆発』

「レクー! 脚は大丈夫!」


「はい! まだ走れます!」


 強風の中でもレクーの脚は衰えず、常に全力を出し続けていた。


 だが、それがいつまで続くか分からない。


 レクーのおかげでブラックベアーとの距離は着実に縮んでいた。


 ブラックベアーが動けば私達なんて簡単に倒されてしまうにも拘わらず、未だ咆哮しか放って来ないのを考えると、きっと動けないのだろう。


――まだ、融合したばかりで上手く動けないんだ。そう仮定するしかない。じゃないと、あっちが動かない理由が分からない。私の魔法にビビっているのならそれでいいけど、さっきの『ファイア』で私は弱いと決定づけたはず。今、領主は油断してる。この幼い体だと相手を油断させられるくらいしか、有用性がないからな。ちゃんと有効に使っていかないと。


 私はブラックベアーから逃げる方法を考える。


――あのブラックベアーに弱点があるとすれば、弱い人間が中に入っているという点だ。確かに人の頭は賢い。でも、賢すぎるがゆえに戦いの中であれこれと考える。私もそうだ。今も考えている。そうしないと絶対に勝てないから。でも、あっちのブラックベアーは考える必要性が全くない。どう考えても、私達は大人と赤子、人と蟻くらいに力の差が離れている。それにも拘わらず攻撃してこないのは、ブラックベアーの闘争心ではなく、人の賢い頭が私達を警戒している証拠だ。


 私の頭の中では常にブラックベアーの声が響いていた。


 それを何とか我慢して思考を続ける。


――私達に警戒している今を突くしか、ここから逃げ出す方法がない。領主邸のある方向から逃げても、ギルドがあるのは私達の進んでいる方向だ。無駄に遠回りしてもあの巨体ならすぐに追いつかれるし、進行を妨げられる。どうせ戦わないといけないのなら、しょっぱなからだ。人の丁度いない領主邸で時間を稼ぐしかない。


 私はレクーが全力で走っている間、体の中で魔力を溜め続けていた。


 体が否応にも揺れるため、魔力を体の中で練るのは中々難しいが普通の爆発では足りない。


 普通の爆発ではきっと巨大なブラックベアーにとっては小突かれる程度だろう。


 大きな頭を揺らして脳震盪を起こさせるくらいの威力が出せないと私達が逃げるための時間は稼げない。


――巨大な爆発を起こすためには練りまくった大量の魔力を使うしかない。数発打ちこんだり、あとのことを考えたりしていたら威力が足らないはずだ。脳震盪を起こさせるには一撃に全てを込めた爆発を起こすしかない。ベスパ、周りのビーたちに預けてある私の魔力をできる限り集めて私に送って。私が溜められる限界の魔力を全部練り上げて爆発させるために必要な高純度の魔力に変えるから。


「ですが、そうすると一時的ですが私の友達に協力を仰げなくなります。それでもよろしいのですか?」


――ここで私が死んだら預けてある魔力はどうせなくなるでしょ。今はこの状況を生き残らないといけないの。だからお願い。


「了解です! ここら一帯のビー達に分散している魔力をキララ様に戻します」


 ベスパが光るとどこからともなく光の粒子が私の体に集まってくる。


 その数は恐ろしく多く。


 私達の周りに何匹のビー達がいたのかと思うと、私の背筋が凍った。


 だが、体の中に戻ってくる魔力は私の体を温める。

 

 すると全身が光る程に魔力で満ちていった。


――これだけあれば威力の高い爆発を起こせるはず。あとはこの魔力を練り込むだけだ。私、集中しろ。もう周りの音が聞こえなくなるくらい深みにはまれ……。


 移動する先にブラックベアーがいるにも拘わらず、私は視界を絶った。


 理由は単純、体の中にある魔力だけに意識を向けるためだ。


『グラアアアアアアア!!』

(魔力が……、集まっている……。それほどの魔力をどこから……。まだ子供だというのに……。才能か、才能なのか、才能……才能……私は凡人、ただの凡人……、グぅ……グぅぐらあああああああ!!)


「キララさん! 動きました!」


「ふぅ……。そうだね……。でも、大丈夫……。冷静に対処すれば何とかなるよ」


 私は瞑想のしすぎで感情をほとんど失っていた。


 恐怖と言う感情が沸き起こってくる前に事をなさなければ、私は死ぬ。


 きっとレクーも潰されて死ぬだろう。


 私は体の中で練りに練った魔力を指先に集めていく。


 体内の魔力が人差し指の一点に集まっていき、この世の光とは思えない程、神々しい輝きを放っていた。


『グラアアアアアアア!!』

(なぜだ、どうしてだ、私は、私はぁ、私わああああ!!)


ブラックベアーは四足歩行で私達に向って思いっきり走ってきている。


――ベスパ、今もブラックベアーの後方にいるの?


「今はブラックベアーの首根っこにくっ付いています。この巨体は私のような小さな虫には興味ないみたいです」


――そう。それじゃあ、あと5秒後に『ファイア』を打ち込むから、覚悟しておいて。


「余命宣告ありがとうございます!」


――喜ぶ理由はよく分からないけど……。


 私とレクーはブラックベアーと睨み合いながら走っている。


 その時、私はすでに腰辺りが震え始めていた。


 どうやら恐怖を思い出してしまったらしい。


 このままだと気絶しかねない。


「れ、レクー。私『ファイア』を打ち込んだら多分気絶するから……、そのあとは全力で駆け抜けて」


「わ、分かりました!」


『グラアアアアアアア!!』

(才能、怖い、ウザイ、羨ましい、ほしい、辛い。だがあぁ、凡人をなめるなぁぁあ)


「くっ……」


 ブラックベアーは口を開けて咆哮を放ちながら走ってくる。


 口を開けた大きさは二階建て一軒家の高さとほぼ同じかそれ以上。


 口の中は真っ黒でブラックホールみたいだった。


 それなのに舌は赤黒く、歯は絶妙に白い。


 何本もの鋭い歯がびっしりと並んでおり、噛まれたら一瞬でお陀仏だと分かる。


 私はちびりそうになりながら震える手を横に向けた。


――『ゼロ距離爆発』のいいところ他にもあった……。私の指先がどれだけ震えていても、ベスパに絶対に当てられる。こんな状況だからこそ力を発揮する技だな。ライトの『転移魔法陣』が無かったら戦えすらしなかった。皆、お姉ちゃん、絶対に生きて帰るからね。


 私達とブラックベアーの距離は50メートルを切った。


 ブラックベアーの一歩は50メートル以上、もう1秒後には私達はブラックベアーの足もとに入るはずだ。


『グラアアアアアアア!!』

(才能のあるやつは潰れろ!!)


 ブラックベアーは右腕を上げて私達に叩き込んでくる。


「うるっせえええええええんだよおおおおおお!!!! ぶっ飛べ!!!!」


『ファイア!!!!』


 私は『ファイア』の魔法陣と『転移魔法陣』の二枚を指先に展開し、練りに練った魔力をねじ込む。


 詠唱を放つ前に、またもや口が悪くなってしまったが誰も聞いていないので許してほしい。


――大声を出さないと力がでないし、恐怖心をふっ飛ばさないと体の震えが止まらなかったから仕方ないよね。私の発声練習はいつも大声で汚い言葉を叫ぶのがお決まりなのだ。


「ディア!」


「分かっています!!」


 私が『ファイア』を放ってから0.1秒後……。


 ブラットディア達が半球状になり、私とレクーを包む。


『ドッガアアアアアアアアアッン!!!!』


『ファイア』を放ってから0.11秒後。


「ぶつっ……」


 私の聞こえていたはずの音が消えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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