魔石をも食らう黒い虫
他の冒険者さん達もブラックベアー擬きの体を着実に削っていき、再生する前に追撃を繰り出している。
そのお陰か、魔石の位置をいち早く見つけ、的確な場所に重い一撃を繰り出していた。
――す、すごい……。さすが冒険者。さっきまで眼が死んでたのに、一瞬で持ち返して今は眼が燃えてるよ。
「やはり、目の前で戦っているブレイクさんとノルドさんの影響は大きいでしょうね。お二方ともいい動きです。巨大なブラックベアーを確実に翻弄していますよ」
――うん、そうだね。実際にあの二人が巨大なブラックベアーを翻弄出来るくらい強いなんて想像もしてなかったよ。
領主邸の庭で巨大なブラックベアーとAランク冒険者の戦いが繰り広げられているが、私には何が何だかよく分からず、説明できない。
ただ、二人の攻撃は確かに当たっているにも拘わらず、ブラックベアーの体がすぐさま再生して苦汁を飲んでいる状態なのはっきり分かった。
――やっぱり傷を与えてもすぐ治ってしまう再生能力が厄介すぎるんだよな……。本物の方はさっき食べた魔石が体の中にあるから再生しているんだよね。というか、あの巨体から両手で抱えて持てるくらいの魔石を探すのは難しそう。どうやって倒せばいいの。
「そうですね。巨体を吹き飛ばすくらいの力がないと倒すのは難しいと思います。それでも魔石が見つけられなければ倒しようがありません」
――私、そんなことできるの、フロックさんくらいしか知らないよ。
私達が巨大なブラックベアーを倒す方法を考えていたころ、ブラックベアー擬きの大半が魔石を露出した状態になっていた。
「キララ嬢! 今だ!」
ドルトさんが私に合図を出す。
「は、はい!!」
――ベスパ、お願い!
「了解です!!」
ベスパは発光してビー達を集めたあと、ブラックベアー擬き達の魔石に向わせる。
到着しだい魔石を一斉に引っ張り始め、筋肉質の繊維がブチブチと剥がれていった。
私も先ほどと同じように、ベスパに魔力を送る。
するとベスパは他のビー達に魔力を分け与え、力を増大させた。
魔力を貰ったビー達は体が光り輝く。
ブラックベアー擬き達の体から光の柱が浮かび上がり、計八本の光の柱が生まれる。
どうやらビー達の浮上速度が速すぎて魔力が残像として残っているらしい。
光の柱を追いかけるように黒い触手も八本伸びる。
――ベスパ、できるだけ逃げ続けて。
「了解です!」
魔法使い達が火属性魔法を詠唱し、魔石が抜き取られてブラックベアーの形を保てなくなった黒い塊に放とうとする。
黒い塊たちは魔力に反応し、魔法使い達を攻撃するが前衛の冒険者達が黒い触手を受け流し、守る。
『ファイアアロー!』
『ファイアボール!』
『ファイアストーム!』
私の『ファイア』より高威力の火属性魔法が飛び交い、黒い塊に直撃していく。
黒い塊は激しく燃え、跡形もなく消え去った。
「よし……。倒し方さえ分かればあっけない敵だ。あとはベスパ達の持っている魔石をどうするかだよな。巨大なブラックベアーたちが食べたら、また強化されちゃう。どこか遠くに持って行った方がいいかも。でも、それに反応して巨大なブラックベアーたちが街の方に動き出したら、被害が広がっちゃう」
私はレクーの上で考え事をぶつぶつと呟いていると、黒光りする物体が体を這い上ってきた。
「キララ女王様!! ただいま帰還しました!!」
――ディア、お疲れさま。騎士団の地下にあった魔造ウトサは全部食べきったの?
「はい。美味しくいただきました。体に溜まった魔力は既にベスパ様に送っていますので、じきにキララ女王様の魔力に変わるでしょう」
――そうなんだ。魔造ウトサが消えたのならよかった。ん? 待てよ……。魔造ウトサが消せちゃうのなら、魔石も消せるのでは……。
「?」
ディアは私が何を考えているのか分からない様子だった。
「ディアは魔石を食べれる?」
「はい。食べれますよ。逆に私達に食べられない物なんてありません。石でも鉄でも、何でも食べて体の養分にします!」
――さ、さすがゴキブリ……。胃が強すぎだよ。
ディアはまだまだ食べたりないと言った具合にくるくると回る。それは、犬が自分の尻尾を追っているような動きだった。
――なら、ディアにお願いしたい仕事があるんだけど、頼んでもいい?
「はい。何でもお任せください。私達にできる仕事なら何でも遂行いたします!」
ディアたちの忠誠心も中々強い。
そりゃあ、死ぬ覚悟があるくらいだし、虫の命は軽いと考えてるからすごい尽くしてくれるのかも。
――それじゃあ、ディアたちはベスパ達の持っている魔石を食べつくしてほしい。一片も残らず全てね。
「分かりました!」
私はディアを空に向かって投げる。
ディアは翅を広げて飛び上がっていくが予想していた通り。
「おっそ……」
私はあまりの遅さに思わず口に出してしまう。
ディアは空中で止まっているのではないかというくらい上空に全く飛んで行かない。
「私達は地面を走るのが得意ですから、翅は普段使わないのです! 遅いのは仕方ないじゃないですか!」
――それもそうだけど……。でも、ベスパ達は凄い上空にいるんだよ。そんなに遅かったらいつまでかかるか分からないじゃん。
「キララ様。ディアなら『転移魔法陣』を潜れるかもしれませんよ」
ベスパは念話を使い私に助言する。
――え? そうなの。でも、ディアは生き物だから通れないんじゃ……。
「ブラットディアに『魔法耐性』があるのはキララ様も知っていますよね。魔法陣の中は魔力が埋めいており、通常の魔物や生き物が入るとズタボロにされます。ただ『魔法耐性』があるブラットディアなら傷を受けずに魔法陣を通過できるはずです」
――確かに、一理あるかも。
「はて? 何を言っているのか私には何も分かりません」
ディアは未だに私の頭上辺りを飛んでいる。
先ほどから全く進んでいない。
――よし。試してみようか。ディアは死ぬ覚悟ある?
「もちろん、ありますよ。と言うか、私はもう死にませんけどね」
「へ?」
「私もベスパ様と同じような存在ですから。たとえ潰されても、復活します!!」
――ほ、ほんとに? いったいどうして死ななくなったの。ベスパは私のスキルだから死なないんだよ。でも、ディアは私のスキルに全く関係ないじゃん。
「私にもよく分かりませんが、推測するに私が元から持っていた魔力がキララ様の魔力にほぼ移り変わってしまったのが原因だと思います。私はキララ女王様の一部になってしまったのですよ。それはもう大変うれしいことです!!」
――は、はぁ。
私の友達に不死の虫が増えた。
「なので、死地にどんどん追いやってください!! ベスパ様とまで行かなくとも活躍してみせます!!」
――そ、そう言われても……。
「キララ様。ディアもそう言っていますから『転移魔法陣』の発動をお願いします。このまま魔石を放置し続けると厄介です」
――うん、そうだね。それじゃあ、ディア。今から8888メートル上空に転移させるから。私の掌に来て。
「はい!!」
――ベスパ、ビー達を1000メートルおきに配置、そのまま『転移魔法陣』を展開して。
「了解!」
私はくもっている空を見ると遥か上の方で光が一瞬見えた。
すると、数匹のビーが上空を飛んでいると感覚で分かる。
ビー達は先ほどと同じように直線上に並んだようだ。
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