真っ黒なバートン
私はメークルの厩舎よりも奥の方に小屋のような木造の建物を見つける。
ただ、今日は様子がおかしかった。
「あれ……、壊れてる……。どうして?」
バートンの厩舎が破壊されていた。破壊されていたのは最も右側の場所だけで、それ以外は壊されていない。ただ、バートン達がぐったりしている。まるで何日も食べ物を食べていないようだ。
「ベスパ、『聴覚共有』をお願い」
「了解しました、『聴覚共有!』」
「腹減ったな~、喉も乾いたし……。それにしても姐さんはどこに行っちまったのかな~。『あの爺! どこほっつき歩いてんだ!』て言いながら柵を壊してどこか行っちまうし……」
厩舎で大人しくしていたバートンの話しを聞き、私はある程度理解した。
「バートンが一頭逃げたみたい。ベスパの得意な仕事が舞い込んできたよ」
「お任せください」
ベスパは喋っているバートンに向かって飛んで行く。
「すみません、少しお聞きしたいことがあるのですが……」
「あ? なんだ、ビーか……。ビーが喋っているところなんて初めて見たぜ」
「ここに居たバートンはどのような姿をしていましたか? それだけお聞きしたかったのです」
「姉さんのことかい? 姐さんは真っ黒でそりゃあもう俺たちよりもデカいんだ。走る姿はまるでブラックベアーだぜ、もしかするとブラックベアーよりもデカいかもな」
――ブラックベアー。その言葉を聞き、私は身の毛が逆立つ。
「なるほど、ブラックベアーのように真っ黒でデカいとそれだけ分かれば十分です」
ベスパは一礼し、空に向かって飛んで行く。すると、どこからともなくビーが現れ、見る見るうちにベスパの周りを取り囲む。
「皆さん! 聴いてください、ブラックベアーのように真っ黒でデカイ、バートンを探してください! ではよろしくお願いします」
ベスパが言うと同時に、ビーたちが波紋のように広がっていく。その姿を見て私は思った。
「いつ見ても気持ち悪い……」
八分くらい経った頃、ベスパが私に報告してきた。案外早く見つかった。ただ……状況はよろしくない。
「キララ様大変です。真っ黒なバートンが他の村を襲っているという情報が入ってきました!」
ベスパは両手両足をブンブン振りながら言う。
「他の村……。もしかして反対方向に行っちゃったの?」
私が住んでいる村から森を挟んで反対側に同じような村が存在している。
バートンの足ならば楽々とたどり着けてしまう距離だ。
「どうしよう……。お爺ちゃんに相談してもすぐに解決できるわけない。このバートン達に乗って駆け付けようにも、どの子もぐったりしてて走れる状態じゃない」
私の頭は混乱状態になっていた、ライブ前に衣装が届かなかったときぐらい焦っている。
「どうしようどうしよう……」
私が困っていると、ベスパは話しだした。
「キララ様、私に一つ考えがあります。ただ、キララ様にとっては死地そのもの……。ですが事態が悪くなる前に到着する方法は一つしかありません」
「いったいどんな方法なの……」
私は恐る恐る聞いてみる。
「私たちがキララ様の体を運びます」
「私たちって……、まさか……」
私は苦笑いをしながら震える。背筋に怖気が走り、漏らしそうになった。
「そのまさかです」
ベスパは光る。すると辺り一帯の森から今までに見た覚えがない数のビーが現れた。黒い霧が森から現れたようで蚊柱より気持ちが悪い。
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘……」
私は腰を抜かし、地面に尻もちをついた。体が震えて制御できず、逃げられない。
「キララ様、申し訳ありません。時間が無いのですぐ運びます! 何なら気絶していてください!」
ベスパは後方に真っ黒な靄を集めていく。もちろんビーの大群だった。
大量のビーを見た瞬間、私の意識が遠退いていく。
「ベスパ……、あとで覚えておきなさいよ……」
私は気絶した。
「良し! キララ様が気絶なさっている間に皆さん、キララ様を運びます。決して放さないように! 細心の注意を払ってください!」
ベスパはビーたちに命令する。ビーたちは了解し、それぞれがキララの髪、服、靴下など掴めるところを掴む。すると、キララの体は次第に浮かび上がった。
「良し! 皆さん! 飛びます! 三、二、一、今です!」
ベスパが合図すると、ビーが一斉に羽ばたき、浮いていただけの体が、ビーが飛ぶ速度と同じか、それ以上のスピートでキララを運ぶ。
「スゲ~、ビーの塊が飛んでったぞ」
一頭のバートンが一部始終を見ていた。