ブラックベアー擬き
「私がおかしいと思ったのはそこです。普通の肉体なら簡単に再生しないはず。だから、あのブラックベアーたちは本物じゃない。私はそう仮定しました」
「なるほど。一理あるな」
「肉体ではないなら、体は魔石と同じ魔力質の物で出来ているはずです。あの魔石は心臓のような働きと、体を構成する型の役割もしているはず……。そう考えるなら、魔石さえ抜き取ってしまえば、再生するブラックベアーたちは行動できなくなるはずです。まだ仮定の話ですが、やるなら冒険者さん達の体力が残っている今やるべきでしょう。言わば、魔石取り作戦」
「キララ様、いつも通り名前の付け方が雑ですね」
復活したベスパは空中を漂い、呆れた顔で私の方を見る。
――分かりやすくていいでしょ。文句言わないの。
「すみません」
「キララ嬢は、なかなか見ているな。だが、その仮定があってるとしても、動き回るブラックベアーたちは本物のそれと全く同じだ。力、体格、早さ、耐久力、魔法耐性、それを掻い潜って魔石を取り出すのは至難の技だぞ。一頭一頭の魔石の位置が違うのも、作戦をさらに難しくしている」
「作戦の成功は冒険者さん達の腕に掛かっています。作戦の内容は主に二つ。一つ目は魔石を露出させる。二つ目は露出させた魔石を取り除く。二つ目は私に任せてください。冒険者さん達には主に一つ目をお願いいします」
「はは……。作戦の成功は俺達の腕しだいか……。面白い、やってやろうじゃねえか! な! お前達! キララ嬢の話を聞いてたか!」
「はい!!」×冒険者達
「俺達はブラックベアーの体から魔石を露出させる! 魔石は絶対に傷つけるな! レナトスの描かれた魔石は一片でも残っているとそこから再生する。今回の作戦は魔石を絶対に傷つけず露出させ、体内から取り出すという荒業だ。簡単な仕事じゃないぞ! 気合いを入れろ!!」
「はい!!」×冒険者達
――ベスパ……。私達はドルトさん達が露出させた魔石を取り除く係だよ。露出した魔石があったら、すぐ天高くに持ち上げていってくれる。
「了解です! 最高速度で最高高度まで持ち上げます。魔石の重さが加わるので初速からとはいきませんが、追いつかれる気はありません!」
ベスパは腕を回し、空中で準備体操を行い始めた。
――よろしく頼むよ。どうなるかはやってみないと分からないから。
「もし失敗しても、私は死なないのでお構いなく」
――命が軽いね……。
「私は元から生き物ではなくキララ様の魔力ですから。生と死の感覚は無いのですよ」
――確かに。ベスパは魔力だから生きるも、死ぬもないか。
「キララ様。始まります」
ベスパは準備運動を終え、視線をブラックベアーたちの方に向けた。
――うん。集中していこう。
「おらああ!!!」
ドルトさんは対面しているブラックベアーの腕を大斧で切り飛ばす。
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーは傷に構わず、ドルトさんに向って突進した。
「何度も同じ手が通じるかよ!」
ドルトさんは真下からブラックベアーの顎下に大斧を叩き込む。
ブラックベアーの顎を狙ったことで上半身が持ち上がり、懐ががら空きになった。
「お前の魔石の位置は既に知ってる! さっき見たからな!」
ドルトさんはブラックベアーの腹部を切り裂いた。
切られた部分に、魔石らしき結晶が見えた。
『グラアアアアアアア!!』
「相当下にあるな。厄介だぜ、ほんとによ! 『ギガントアックス!』」
ドルトさんの持っている大きな斧が魔力によってさらに巨大化する。
淡い光を放ち、いつか見たフロックさんの大剣のような威圧感を放っていた。
だが、あの時見たほどの大きさではなく、通常の2から3倍ほど大きくなっただけだ。
それでも、ドルトさんを凌ぐほどの大きさで迫力が凄い。
「おらああ!! 真っ二つだぜ!!」
ドルトさんは巨大化した大斧を真横に振る。
すると、ブラックベアーの上半身が空中を舞った。
『ドチャっ!』
ブラックベアーの上半身はなくなり、下半身だけになった体内から淡い光を放つ魔石が姿を現した。
「キララ嬢!! 今だ!!」
「分かってます!!」
――ベスパ、お願い!!
「了解!!」
ベスパは蠢くブラックベアーの下半身に飛んでいき、大きめのスイカほどある魔石を力いっぱい引き抜く。
ベスパは魔石を持ち、下半身から伸びる黒い鞭のような筋線維を引き千切りながら空中に飛び上がる。
「ふぐぐぐぐぐ!!」
『ブチブチブチブチ……』
筋線維がゴムのようにしなやかで硬く、あと少しで魔石を引きはがせそうなところで危機を感じたのか、ブラックベアーの下半身から黒い触手のような魔力の縄が現れ、魔石に張り付こうとする。
「キララ様!! 私に魔力を!!」
――分かった!!
私はベスパに魔力を送り、さらに力が出せる状態にする。
ベスパの体がさらに光り、上空へ一気に飛び上がった。
ベスパの動きがあまりにも早くて、私の目では追えなかったが、ブラックベアーの下半身に魔石はなかった。
――ベスパ、魔石は取れたみたいだね。
「はい。今、上空8888メートルに向って全力で上昇中!」
――そのまま頑張って。ん……、嘘でしょ。
「キララ様どうかされましたか?」
私は瞳に映っている光景を疑う。
ブラックベアーだった下半身と上半身がドロドロに溶け始め、互いに集まり、一塊になった。
その姿は黒いスライムそのもの……。
黒い塊から黒い触手状の物体を生やし、ベスパの向った上空に物凄い速さで伸びていく。
――嘘! どうなってるの! 物理的におかしいでしょ! 質量保存の法則って知ってる!
触手がありえないほど伸びているにも拘わらず、根源の黒い塊が一向に小さくならない。
触手の中が空洞なのか、はたまた質量を持っていない膨張する何かなのか。
――いや、待て……私。落ち着け。ファンタジーに科学の要素を考えても仕方ない。魔法だって科学じゃ説明できないし、魔力とかそもそも何って話なる。今は考えず、あのキモい触手を落とす!
私は指先を黒い塊に向けた。
『ズリュルルルルル!!』
黒い塊が反応し、私の方に物凄い速さで触手を伸ばしてきた。
「くっ! こっちにまで伸びてきた!」
私の綺麗な髪が数本、触手に千切られるも、自慢の反射神経を使って回避する。
伸びた触手はレンガの壁など容易く貫通し、破壊していた。
もし当たっていれば私の顔はぐちゃぐちゃだったと考えると恐ろしい。
「危なかった……、本体を狙うと防衛してくるんだ。でもあの形状、瘴気の塊にそっくり……」
私が何か思いつきそうだったとき、頭の中にベスパの声が響く。
「キララ様! キララ様! 後方から何やら気持ちの悪い黒い物体が接近中!」
――え! ベスパの近くにもういるの!
「まだ2000メートルほど離れていますが、魔石を持った私より速く移動しています。いずれ追いつかれるかもしれません!」
――最高高度まであとどのくらい。
「残り2000メートルを切りました」
――あの黒い触手が8888メートルにとどくのか……、それともとどかないのか。でも、ベスパに向ってるのはどう考えても魔石を狙ってるよね。
「そのはずです。それ以外に考えられません。どうしましょうか。最高高度まで行って万が一捕まれば、あのブラックベアー擬き、を倒す方法が思いつかないのですけど」
――真横に飛び続けるのはどうなの? ベスパなら8888メートルより遠くに行けそうじゃない。それで逃げ続けて、触手の限界を知るの。
「いや、それは難しいかもしれません。今、横に進路を変更すると加速が十分ではなくなるので、黒い物体の方が速くなります。どう考えても追いつかれるのが目に見えていますから、最高高度までに追いつかれた場合は魔石を持って逃げるのではなく。他の方法を考えた方がいいかと思われます」
――なるほど。分かった。ベスパはとりあえず、全力で飛び続けて。私は塊の方をもう少し調べてみる。
「了解です!」
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