巨大なブラックベアー対トラスさん
――ベスパ、最速で戻ってきて!!
「了解!!」
私はドルトさんとブラックベアーの隙間を狙う。
照準を定めて魔法を瞬時に打ち込んだ。
『ファイア!』
『グラアアアアアアア!!』
「グっ!」
ブラックベアーは私が魔法を放ったのと同時に動き初め、ドルトさんに突進する。
「はああああああああっ!」
全身から光り輝く魔力を放っているベスパは光に近しい速度でブラックベアーとドルトさんの間に入る。
――さすが……。仕事が早いね。
「取り柄ですから!」
『ドガッン!』
ベスパは爆発し、ブラックベアーとドルトさんの両方を爆風で吹き飛ばした。
爆発は殺傷能力がある程強くはなく、牽制するための一撃であったためドルトさんに支障はない。
ドルトさんは爆風で飛ばされ、後方に転がりながらも、体勢を立て直し、体を持ち上げた。
「た、助かったぜ、キララ嬢。珍しい魔法を使うんだな。『ファイア』が弾けやがった」
「ドルト! 油断するなって言ったのにゃ。昔から全く変わらないのにゃ!」
「す、すみません。トラスさん。以後気をつけます……。それよりも、トラスさんはあの巨大なブラックベアーの対処をお願いします。俺達は小さい方のブラックベアーの相手をしますので」
「分かってるのにゃ。初めからそのつもりで、もとから少ない魔力を一生懸命に練って来ているのにゃ」
「トラスさん、いったい何をする気ですか?」
トラスさんはレクーの背中に立ちあがる。
「さてと、ちょっくらやり合ってくるのにゃ!」
トラスさんはレクーの背中を踏み台にして跳躍した。
地面から10メートルほどの上空を移動し、領主邸の庭に優に入り込む。
トラスさんと同時に、領主邸で鎮座していた巨大なブラックベアーも動き始めた。
『グラアアアアアアア!!』
「餌の方から寄って来てやったのにゃ。ま、簡単に食べられると思わない方がいいけどにゃ」
トラスさんは脚をめいっぱい開き、両手を地面に付ける。
まるで獣のような体勢で、とても自然だった。
『グラアアアアアアア!!』
「吠えても、ニャーは怯まないのにゃ」
巨大なブラックベアーはトラスさんに向って突進する。
ブラックベアーとトラスさんでは、あまりにも大きさが違い、人と虫ほどの差がある。
それにも拘わらず、トラスさんの雰囲気は先ほどと全く変わらない。
「でかすぎても、一対一での戦いでは有利性が低いのにゃ……」
『ドガッツ!!』
トラスさんは地面を抉るほどの脚力で突進してくるブラックベアーに真正面から接近した。
私が瞬きをする間に、トラスさんはブラックベアーの懐に潜り込んでおり、影の中に隠れていた。
「は、速い。50メートル以上の距離を一瞬で移動するなんて……」
「まずはふところに一発ぶち込んでおくのにゃ!!」
トラスさんは拳を握りしめ、細腕をめいっぱいに引き、ブラックベアーのふところに重い一撃を打ち込む。
『ドゴゴゴゴッッツ!!』
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーの体が折れ曲がる程の衝撃が、与えられる。
巨大な体が空中に弾き飛び、黒い血を吐き出していた。
それでも、ブラックベアーは空中で体勢を整え、猫のように両足で地面に着地する。
ブラックベアーは口から吐き出した黒い血を舌で舐め取り、口角をあげた。
「結構本気で殴ったんだけどにゃ……。さすがに打たれ強いのにゃ……」
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアーはすぐさま反撃に出る。
「そっちがその気なら、何発でもぶち込んでやるのにゃ!」
トラスさんもまた、接近して拳を固めた。
「す……すごい。トラスさん、あんなに巨大なブラックベアーとやり合ってる……」
私はその姿に見惚れていたのだが、戦況は著しく悪くなっていった。
「ぐあああっ!」
またしても一人の冒険者さんがブラックベアーに弾き飛ばされる。
「は!」
私はトラスさんの方を見るのを止め、周りを見渡した。
「クソ!! こいつら……。どれだけ攻撃しても、一向に死なねえ……」
「魔石も確かに破壊しているはずだ。なのに何で死なねえんだ」
冒険者さん達は既にボロボロだった。
それにも拘わらず、周りにいる数十頭のブラックベアーはほぼ無傷。
傷跡のあるブラックベアーは一頭もいなかった。
それはドルトさんの戦っていたブラックベアーも全く同じ。
頭を潰された筈なのに再生している。
腹を切り裂かれた筈なのに傷口すら、もう見えない。
「こいつら……。本当にブラックベアーなのか……」
ドルトさんは他の冒険者と同じように情報不足のため慎重になり、攻めあぐねている。
「キララ様。あのブラックベアーたちは、先ほどまでトラスさんが戦っていた個体と同じだと思われます。魔石にレナトス(再生)の魔法陣が描かれているのでしょう。なので傷がついても再生するんです」
――この場にいるブラックベアー全頭が、グチャグチャになっても再生してきた、厄介すぎるブラックベアーたちだって言うの?
「そうです。1個体の大きさや形は違いますが全く同じような能力を持っている。そうなると、魔石に何か細工してあるとしか考えられません」
――それじゃあ、倒しようがないじゃん。どうやってトラスさんのところまで行けばいいの?
「分かりません。魔石を砕いても再生されては倒しようがありません。ブラックベアーの体は動物と大差ありませから、動物と魔物の違いは心臓部が魔石であり、血液が魔力になっているだけです。それにも拘わらず、あのブラックベアーたちの体は再生し続けている。もはやブラックベアーではない別の生き物のようですね」
――それだけ言われると、あのブラックベアーたちは瘴気に汚染された状態なのかも。
「いえ、それならば空気中に瘴気がもれているはずです。今の空間は人が通常に動けるほどの空気が保たれています。あの数が瘴気に汚染されているのならばここら一帯も瘴気に汚染されていなければおかしいです」
――確かに……。それじゃあ、魔力自体がブラックベアーの形を取っていて魔石がその形を保っている。こう考えれば自然だよね。
「そうですね。実際、あのブラックベアーたちからは全くと言っていいほど声が聞こえません。ただ、あの巨大なブラックベアーに相互して声を発しているだけのようです。巨大なブラックベアーの方からは幾度となく嫌な心境が叫ばれ続けています。どうやらあの巨体だけは本物のブラックベアーなのでしょう」
――それなら……。魔力を持っている魔石を体から引き抜けば。動きが止まったりしないかな?
「なるほど……。それは一理あるかもしれませんね。やってみる価値はあるかもしれません」
――やってみるって言っても、今の状況で魔石をどうやって取り出すかを考えないとじり貧で負ける。私だけの力で十頭のブラックベアーを倒すのは絶対に不可能だ。冒険者さん達に頑張ってもらわないと。
「皆さん!! そのブラックベアーたちは本物じゃないかもしれません!!」
「!!」×冒険者達
「そのブラックベアーたちは体内に魔石を持っています。私達の心臓と同じ役割を果たしている魔石に『再生』の魔法陣が描かれているのを先ほど見ました」
「なに『レナトス』だと。そうか、だから体が再生し続けるのか。だが、魔石に『レナトス』が描かれているだけじゃ、体自体は再生しないだろ」
ドルトさんはブラックベアーから一度離れ私のもとに走ってくる。
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